ピコ通信/第8号
発行日1999年4月20日
発行化学物質問題市民研究会
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目次

  1. 国会に上程されたPRTR法案の問題点
  2. 外国人ボランティアの不当逮捕に全面抗議!/グリーンピース・ジャパン
  3. 後期講座第6回「化学物質汚染の解決策」/村田徳治さん
  4. 見直そう!こどものおもちゃ
  5. 化学物質問題の動き(99年3月)
  6. 連続講座2期・第1回・編集後記

1.国会に上程されたPRTR法案の問題点

 今後の有害化学物質の規制や管理をめぐる重要法案である「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法案」(通称「PRTR法案」)が3月16日に閣議決定され、同日付けで国会に提出されました。
 この法案はいわく因縁付きのもので、関連省庁(通産省・環境庁)が省益争いで国会上程までにもめにもめた法案です。この法案の骨格を成すPRTRとは、「環境汚染物質排出・移動登録(Pollutant Release and Transfer)」制度のことで、OECD(経済協力開発機構)は、1996年2月に加盟各国に対しこの制度を適切に導入し、実施するよう勧告しました。米国をはじめ加盟国の中では、カナダやオランダ、英国などの先進国ですでに導入され、実施もされていますが、日本では、この勧告を受けて環境庁、通産省がそれぞれの審議会(環境庁は中央環境審議会、通産省は化学品審議会)に諮って検討を進めてきました。しかし、両省庁間で省益争いもあってなかなかまとまらず、ついに勧告期限の今年になってやっと国会上程にまでこぎ着けました。
 ところで、このPRTRとはどんな制度かといえば、OECDの定義によれば、従来の化学物質に関する制度が、特定の化学物質ごとに製造や使用、環境への放出を規制していたのに対して、有害な可能性のある多数の化学物質について、規制的な手法によるのではなく、化学物質の環境中への排出・移動量を企業が行政に報告し、行政がそれを何らかの形で公表することにより、事業者が自主的に化学物質の排出・移動量を抑制することを促すといった制度です。
 さらにこの制度の特徴として、@被害が不明確でも潜在的に有害と考えられる多数の化学物質を対象とする。A人だけでなく、生態系の保護も考える。B事業者が対象物質の物質収支を明確にして報告する。C特定の環境媒体への排出のみではなく、環境全体への排出量を報告する。D報告された情報は何らかの形で公開する。E公開された情報を誰でも利用できるようにする。F行政、企業、国民・NGOの合意のもとに制度を決定する。G制度の決定過程と運用状況の透明性を保つ。などの事項があげられています。
 ところが、今国会に上程された法案の中身が明らかになるや、マスコミをはじめ各方面から失望と見直しを求める声が多数あがりました。「この法案で減らせるか」(3月16日付朝日新聞社説)「骨抜き法案に大幅修正を」(3月22日付毎日新聞社説)など。

修正を求める意見続出
 また、このPRTR法案をめぐって3月24日に東京で通産省、環境庁、産業界、市民団体、学者などの関係者が集まってシンポジウムが開催されましたが、その場でも市民団体や専門家から大幅な修正を求める意見が続出しました(3月30日付毎日新聞)。
 法案の中身で主に問題となった点は、@所管官庁は、欧米各国にならって環境庁とすべき、A企業の報告先は、業界の所管省庁とされているが、国及び地方公共団体の双方とし、国は環境庁に一本化すべき、B「営業秘密(情報の非開示)」については、企業の申し立てにより所管省庁が判断することとされているが、「営業秘密」に対する厳格な定義や判断基準を明文化するとともに、審査機関としてNGO市民や専門家を加えた第三者機関を設置すべき、C個別事業所データの開示請求に対しては、1件当たり数百円の手数料を徴収することとされているが、NGO市民の企業情報に対するアクセスを妨げることになる、などの点です。
 その他修正点をあげれば、D目的規定に国民、地域住民の「知る権利」を明記すべき、Eまた、この「知る権利」に資するため、企業情報の開示については無料とし、電子情報による開示やインターネットなどの手段による積極的な公表を行うべき、F企業の報告義務対象に、排出量・移動量の他に取扱量や貯蔵量、輸出入量も加えるべき、Gまた、法案では報告義務違反や虚偽報告に対する罰則として、20万円以下の過料の制裁を定めるのみであるが、企業名の公表や行政機関による立入調査権の行使など、実効性のある措置を講じることができるようにすべき、など。
 「地方分権」と「情報公開」と「行政手続の適正化(デュープロセス)」が求められている折りもおり、この時代の要請に逆行するような後ろ向きな法案を認めることはできません。さらに苦言を呈するならば、これまで日本は欧米の制度と異なって、国の法案づくりなど行政の意思決定過程に国民が参画できるという権利もその機会も全く与えられないできましたが、そもそも今回の法案策定の時点から、国民の積極的な参画を求めて一連の手続を行うべきでした。今からでも遅くはないので、今国会で国民の意見を広く聴取する公聴会や公開ヒアリング等を開催するよう、国会の内外での運動を盛り上げていくことがさし迫った課題です。

3.後期講座第6回「化学物質汚染の解決策」
99年2月27日の村田徳治さん(循環資源研究所長)の講演を研究会でまとめました。

化学物質対策の現状
 化学物質の解決策といっても、どういう方向へ向かうべきかはいえますが、ほんとにそれで解決策になるか、むずかしい問題です。
 化学物質は、アメリカのCASに登録されているのが1850万種、年々80から100万ずつ増加しています。常時使われているものは10万種といわれますが、どこにも正確なデータがありません。OECDが年間1000トン以上生産する「高生産量化学物質」のリスクアセスメントにとりかかりましたが、日本では1000種以上使われていて、人体毒性のデータはありますが、生態系へのデータはほとんどありません。
 化審法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法などの規制も、対象物質はわずかで、しかも人体毒性しか考えられていません。この前、PRTRの記事が出ていて、情報公開は受益者負担で有料にという通産省の役人の話が出ていましたが、受益者は企業、市民は被害者だからデータを要求しているのですが、日本の役人の意識はまだこんなものです。

本質追及をそらす煙幕
 企業への追及がきびしくなるといつもやる手は、別の原因説を出してそらすというやり方です。ダイオキシンでは食塩原因説が出ていますが、水俣病では御用学者が水銀の他の原因説を唱えたし、イタイイタイ病では、『文芸春秋』にイタイイタイ病まぼろし説が掲載されました。きちんとした反論ではなくて、荻野医師を誹謗中傷する文だったのですが、これで解決が5、6年遅れました。記事を書いたルポライターはがんで余命いくばくもなく、業界から金をもらって書いたことがわかりました。ダイオキシンでも、『文芸春秋』に、一人も死者が出ていない、猛毒説は虚構だという記事が出ましたが、がん死の原因究明は困難だし、ちゃんと調査がされていないのです。セベソでも家畜はたくさん死んだし、人が死ななければいいのかということもあります。ダイオキシンで死ぬとしても急性毒性で死ぬわけではありません。
 中西準子さんが、疑わしきは罰するとは幼稚な政策、原因結果の究明をはっきりさせないで対策はできないと言っています。それでは、欧米が80年代にとったダイオキシン対策は空騒ぎだったと言うのでしょうか。環境ホルモンは生まれた子どもが育って次の子孫をつくる時まで調べないとわからない、因果関係の証明には20〜30年もかかってしまう。はっきりするまで待っていては、いつまでたっても対策をとれません。
 その物質が無くなったら社会がなりたたないという話もよくいわれます。水銀が無くなったらたいへんだといわれたが、水銀生産量は一時2500トン、今は数十トンですが、別に我々の生活は江戸時代にもどってはいません。中西さんは、公害問題で騒がれたため、カセイソーダが、必要もないイオン隔膜法への転換を強いられたという「水銀電解法後悔論」を唱えましたが、実際は、より効率のいい技術革新を公害対策の名で国の補助金を使ってやったというのが真相です。

人体には化学物質への防御機構がない
 人体の働きは複雑にからみあっていて、わかっていないことの方が多い。幼生進化といって、人間はサルが未熟児で生まれてきたものといわれています。だから胎児だけでなく、乳児の時期が脳の発達などでも一番たいせつな時期で、それだけ化学物質の影響も大きいのです。長い進化の歴史の中で、有害な物質を除去できた生物だけが生き延びてきました。人工化学物質はつくられてからまだせいぜい50年、100年で、人体はそれの侵入を予想してつくられていないので、必要な物質によく似た偽物を区別できせん。我々がまだ気がついていない毒性がざらにあると考えた方がいい。学習障害児も脳の発達時に環境ホルモンが介在したせいではないかといわれています。
 フォン・サール博士が発表した逆U字現象というのが議論になっています。今まで安全だといわれていた濃度よりずっと低い濃度で逆U字型に影響があらわれる。再現性がないと批判されましたが、ホルモン学者にいわせると、ホルモンの世界ではそういうことがおこることはすでにわかっているそうです。

単純すぎるリスク論
 リスク論は、未知なものは安全、ゼロとゼロを足してもゼロとして、相乗効果を無視しています。単体ごとに実験をして安全としても、現実には単体で入ることはありません。環境中濃度の算定も有害度との関係もわかっていないから、現時点で精密なリスク計算はできません。人間以外の生態系のリスクは無視しています。最適解も別の要素を入れれば不適解になります。時間軸も無視しています。産業社会中心だからこそ出てくる考え方です。

ダイオキシンはなぜ毒か
 ベトナム戦争でダイオキシンが問題になってから30年です。ベトナムだけでなく、帰還兵からも奇形児が生まれ、アメリカで大騒ぎになりました。日本では、当時からPCBを燃やすとダイオキシンができることはわかっていたのに、厚生省の政策で焼却炉増設がどんどん進められ、世界一の焼却大国となりました。日本と欧米の汚染の数値は桁がちがうので同じグラフではあらわせません。欧米の排出基準は、0.1ピコ、日本はその800倍で、基準とはとてもいえないものです。
 ダイオキシンがなぜ毒かというと、化学式をみるとわかります。ホルモンなどによく似ているのでからだが間違いやすいのです。有機塩素系化合物は自然界にはほとんどありません。自然界に微量しかないヨード系のホルモンが動物の体内にあるのに、なぜ大量に存在する塩素の化合物がないのか。たぶん毒性が強すぎて制御できなかったからだろうと思います。
 自然界の仕組みを見直すべきです。植物が無機物を原料として有機物をつくる、動物がそれを食べるという食物連鎖があります。排泄物や死骸が他の生物により分解されて無機物となります。ここでは完全にリサイクルされてゴミは存在しません。また、自然界では物が燃えるということは、たまにカミナリや噴火でおこる以外にはありません。自然界のリサイクルの中に燃えるという反応はないのです。ゴミの焼却がなければダイオキシンも出てきません。
 ゴミ焼却は焼却炉メーカーの利益のためのみに行われています。建設に何百億、炉の維持管理や廃ガス処理にも億という金がかかります。税金のむだづかいです。
 地球は閉鎖系なので、薄めて放出しても生物濃縮されてもどってきます。アメリカのオンタリオ湖のデータでは、PCBはカモメで2500万倍にもなっています。ダイオキシンは魚からの摂取が多いのですが、野菜でも表面に水の蒸発を防ぐ蝋があり、そこにダイオキシンがくっつきます。今では臍の緒、卵巣からもダイオキシンが出ています。このような事態になるまで放置してきた行政の責任はたいへん重いといえます。

ダイオキシン発生源の塩ビ
 塩ビがこれだけ問題になっているのに、なぜ生産量が増えているのかというと、塩ビはカセイソーダをつくる時に出る塩素の捨て場だからです。塩ビはダイオキシンで初めて問題になったわけではありません。塩ビモノマーは肝臓がんなどの原因、塩ビの可塑剤であるフタル酸エステルの医療用バッグからの溶出、今の環境ホルモンなど様々な問題が指摘されてきました。ゴミ焼却時に塩化水素が出て、炉を傷めることで問題化し、安定剤の鉛やカドミウムによる汚染があって、東京都はプラスチックの焼却をやめました。
 塩ビ業界は、二酸化炭素発生を抑制しているというが、製造時の電解法で電力を使うので帳消しです。水道パイプ、電線の被覆などは代替品もあります。塩ビがなくて困るものはほとんどありません。カセイソーダ製造も、昔からあるカセイ化法、新しいフェライト法など別の製法でやれば塩素も出ません。

技術的解決策
 ゴミの焼却の代替策の一つとして、ドイツのバスフによる廃プラスチック油化プラントがあります。日本のは燃料にして燃やすものですが、ドイツでは燃料とすることは禁止されているので、ナフサまでちゃんと戻すもので、普通の石油プラントで再製品化できます。もっと処理費が安い方法として、製鉄炉に廃プラを吹き込む方法があります。これは焼却ではありません。我が国では日本鋼管がやっています。ここでも塩ビが入るとパイプが腐食するので、入れられません。塩ビは廃プラ・リサイクルの障害にもなっています。この炉は年間60万トンの廃プラを処理できるので、同じものが日本に20基あるので、年間1000万トンの廃プラすべてを処理できます。
 水を高圧にして熱を加えると液体でも気体でもない状態になる超臨界という技術があります。ここで有機物と酸素を化合させると、炭酸ガス、窒素ガス、水蒸気にかわり、有害ガスは出ません。これも湿式酸化というもので焼却ではありません。また、環境資源研究所で試験している、内熱式のボイラーに酸素を入れ水素とメタンガスがとれるという方法もあり、効率のよい発電ができます。生ゴミを堆肥にしても行き場がありませんが、メタン化すればかさが減ります。出てきた水素を燃料電池にすれば、家庭でも熱と電気をつくることができるようになります。
 高価な焼却炉をつくってダイオキシン対策をやりながらなんとかやっていくという方法はまったくナンセンスです。市町村ではなく、こういう出てきたガスも利用できるような設備でゴミを処理するほうがずっと効率的で、有害物質も出ません。
 新しい技術は化学物質対策のすべてではありませんが、ダイオキシンが出ないやり方がいくつもあるということです。

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