目次
- 中央環境審議会への意見書
- 後期第3回連続講座「法的コントロールとその限界」梶山正三さんの講演から
- {環境ホルモンと子供たちの未来」(上)/ダイアン・ダマノスキさんの講演から
- スウェーデン環境大臣の手紙
- 海外情報・シンポジウムの案内
- 講座案内・11月の動き・編集後記

2.後期第3回連続講座「法的コントロールとその限界」
11月21日、後期講座第3回の梶山正三さん(東京弁護士会)の講演「化学物質と人間の未来−法的コントロールとその限界」を編集部の責任においてまとめたものです。
化学物質って何だろう?
そもそも物質はすべて化学物質なのですが、化学物質の基本法ともいうべき「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」では、「元素又は化合物に化学反応を起こさせることにより得られる化合物」と定義されています。しかし化審法は、広範な除外条項があって、他の法律で規制される化学物質は除外され、性質からいうと当然入るべき、プラスチック、添加剤、重金属も対象から外されています。プラスチックはポリマーでは、体内に取り込まれにくいことから外れていますが、分解生成物や添加剤も含めたトータルな製品として審査をするべきです。
生産の副産物や、リサイクルなどの燃焼でもメカニズムのわからない化学変化が起き、ダイオキシン、SOx、NOxのような非意図的生産物ができますが、これも対象にはなりません。ただし、作ることを目的としていない化学物質は化審法で規制するより、別の法律にした方がわかりやすいでしょう。
化学物質は蛋白質、アミノ酸、多糖類と比較されますが、後者は大昔からあったから、生物が取り込んで代謝できるために、循環機能の中で対応できます。化学物質は、主として産業革命以降、短期間にできたもので、生物にはこれに対応できる酵素系ができていません。体になじまないからエイリアンになります。化学物質の人間への毒性には、砒素のような妨害、阻害を行うものと、ダイオキシンのような余計なことをする撹乱型、両者を含めて代謝撹乱型といいます。それからメチル水銀のような組織破壊型があります。
環境ホルモンには両方の型があります。生き物の体は想像を絶するほど多数の化学反応からなりたち、何重にもチェックする機能があります。環境ホルモンはききめは弱いが、チェックがききません。分解もされないので作用期間が長く、濃度が薄いとか、作用が弱いから大丈夫ということにはなりません。
問題だらけの化審法と法制度
化審法は、1973年に成立し、大きな改正が86年にありました。法制定後に製造輸入しようとするものを新規化学物質として、蓄積性、分解性、慢性毒性のデータをつけて届け出を行わせます。厚生・通産が決めて、環境庁が意見を言うというスタイルで、ここでまず粗っぽく分けます。3つの条件がそろうと第一種特定化学物質として、製造輸入原則禁止となりますが、それでも許可をとればよく、最近のTBTOを含めて、指定はわずか9種にすぎません。難分解性で、それに慢性毒性の疑いがあれば、指定化学物質になりますが、製造輸入の制限はありません。人間への被害が出てくる恐れがある時に再評価し、必要があれば第二種特定化学物質になります。問題なければ安全物質になります。農薬取締法、薬事法、食品衛生法、毒物劇物法、消費生活用品安全法などの対象は除外されていて、化審法の対象は小さい領域でしかありません。
化学物質は、製造・輸入、加工、流通、消費、廃棄の各過程で環境中に放出され、あとにいくほど管理はむずかしくなります。まだ環境に拡散していない生産・輸入段階での規制が一番簡単で、だれにでもわかりやすいものです。廃棄段階での管理は不可能に近いといえますし、行政にはそのような能力はありません。
省庁間だけでなく、同じ省内でも縦割りになっていて法が無力化しています。
疑わしきは罰する
「疑わしきは罰する」は最低限必要な原則です。包括的なベネフィット・リスク比較論は理解できません。ベネフィットをいう前に、どうしてもなければいけないものかどうかが問われるべきです。例えば心臓のペースメーカーなどのように、絶対的な必要性がある場合にのみ考えるべきです。その場合は代替物の可能性を検討したうえで、当面使用してもやむをえないかどうかということになります。
今の汚染は複合汚染なので、個別のリスクを追っても無意味です。ほとんど無数の化学物質が関与するので、個々では問題なくても全体として被害が発生します。化学物質過敏症、杉並病も、個別では基準を超えておらず、原因物質も特定できません。ほとんどのケースがそれにあてはまり、それでも被害は出ます。これには相加的作用だけではなく、相乗的な作用が働いています。
製造者責任は経済学原理からいうと当然です。これは、外部費用を内部化することで最適生産量が確保されるという経済学の基本のあたりまえのことを言っているのです。外部費用を税金で負担すると、資源の浪費と最適生産量を越えた生産がもたらされます。
情報開示も必要ですが、情報化時代の現在、より進んだ発想が必要です。開示していればいいというものではなく、製造、使用するにあたっては、アカウンタビリティ、つまり説明義務が生じます。
条例で何ができるか
法律には手続き法と実体法があります。ダイオキシンを出してはいけないというのが実体法、それをあてはめる方法が手続き法です。手続き法さえしっかりしていればみんな納得できるので、実体法は二の次でもかまいません。合意形成手続きをきちんとせず、社会的合意ができてないと、法律をつくってもうまく働きません。市民サイドからの提案でも同じことが言えます。
法律と条例の関係は、上乗せの場合とは、すでにある基準を強化すること、横出しとは法律にないものを対象にすることで、法的根拠が違います。横出しは固有事務であれば自治体は原則自由につくれます。だからダイオキシン規制は現状では条例でできます。ただし国が法的な基準をつくったら、それが優先することになります。大気汚染防止法や水質汚濁防止法では、横出しは県や市町村でできるが、上乗せは都道府県でないとできないことになっています。国は上乗せは法律で条例委任がないとできないと考えています。
法的コントロールの仕方は、規制的手法よりも、誘導的手法の方がまさっていると考えます。規制はむずかしく、行政にはその能力はありません。誘導的とは、課税、課徴金、デポジット、製造者責任、回収引取義務、処理責任、現状回復責任などです。理屈では全部条例で可能です。誘導的手法はヨーロッパでは多用されています。欧米ではとりあえずやってみて手直ししていくというやり方で進めています。条例策定も、大胆な一歩を踏み出して行く必要があります。

4.スウェーデン環境大臣の手紙
1998年9月8日
環境長官 真鍋 様
私は、臭素化合物不燃剤のような、残留性で生物蓄積性の化学物質が環境中にしばしば見つかることについて深い懸念を表明するためにこの手紙を書いています。
ストックホルムに世界中から600人を超す科学者が集まって、第18回ハロゲン化有機化学汚染物質に関するシンポジウムに参加しました。シンポジウムでは、研究者が結論した警告が発表されました。その結論によれば、生物蓄積性で環境残留性の物質による環境と健康へのマイナス影響の可能性が非常に高いということが専門家の間の心配として確認されました。臭素化合物不燃剤の広範な使用については、こうした物質が現在は禁止されているPCBと同じ結果をもたらす可能性があることから、とくに言及されました。
バルト海のような水圏の生物は、PCBその他の人工の残留性汚染物質にひどく影響されております。その結果、こうした水域からとれる魚を食べれば健康へのリスクとなります。現在、科学者たちはバルト海のアザラシや魚の中に臭素化合物不燃剤を見出し、またPCBと似たような不燃剤も見つけています。不燃剤は、たとえばコンピュータなどの電子機器にしばしば使われており、国際貿易によって世界中に広がっています。
スウェーデン政府は新しい化学物質政策を打ちたてて参りました。「生物蓄積性と残留性のある物質は、健康と環境に影響がないと証明されない限り使用してはならない。」われわれはまた、このような生物蓄積性と残留性のある物質のためのクライテリア(基準)を作る委員会を発足させようとしているところです。この委員会は2000年のはじめに政府に報告書を提出することが期待されています。
われわれは、環境についての懸念を共有しているばかりでなく、電子工業や電気・電子機器の貿易の発展においても相互利益をもっておりますので、この問題について一層深い協力関係をどうしたら作ることができるかについて、貴方のお考えをお聞きしたく存じます。
敬具
アンナ・リンド
スウェーデン環境大臣
(仮訳 松崎 早苗)