ピコ通信/第71号
発行日2004年7月23日
発行化学物質問題市民研究会
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URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 室内空気の測定法&シックハウス症候群を避けるための方法
    6/19講演会録/井上雅雄さん(コニシ梶j
  2. 農薬を使わない庭作りの方法−オーガニック植木屋さんの講演から
  3. [投稿]/ネイルスクールで化学物質過敏症に
  4. [投稿]/ディートの替わりにハーブ精油虫よけ剤を使っています
  5. 海外情報/EU環境理事長ウォルストロームさんのスピーチ「REACH」
  6. 化学物質問題の動き(04.06.21〜04.07.23)
  7. お知らせ/編集後記


[6/19講演会録]
室内空気の測定法&シックハウス症候群を避けるための方法

井上雅雄さん(コニシ梶j

■家はきっかけである

 シックハウス症候群(以下SHS)は家が原因でなりますが、それ以前に原因があります。地域の大気が汚染されている工業地帯や幹線道路沿いに住む人には、SHSの前兆があります。農薬が撒かれる農村の子どももそうです。それまで化学物質が体内にたまっていたのが、新築の家に入った時に閾値(しきいち)を越えて発症するのがSHSです。
 SHSは住宅が引き金にはなっているけれど、それが原因のすべてではありません。「健康住宅」という言葉も住宅で健康になるのではないので「室内空気対策研究会」という名称に変わりました。
 SHSは環境省の研究所や、K大学、T大、O大でも問題になっています。昔の建物は壁を厚くしていましたが、今は薄くして断熱材で気密性を上げており、これも原因になっています。日本のマンションは、床、壁全部がプラスチックの箱に住んでいるようなものです。ビニルクロスを90%も使っているのは日本だけで、業界の人でさえ異常だといっています。汚れが落ちやすいし、みかけはいいが手抜きのための仕様です。
 韓国では集合住宅はビニルクロスですが、それ以外は紙やしっくいを使っています。ドイツではビニルクロスを使うのは洗面所、トイレくらいですから、塩化ビニルがそれほど問題にならないのです。日本は土地代が高いから家は安くし、これは住宅政策の誤りの結果です。
 昨年起きた東京の元加賀小のシックスクール問題では、トイレの塗料と外壁のプライマーが原因でしたが、初期の測定に問題があったために、解決に時間がかかりました。測定は、30分家具も開けて、5時間以上締め切ってから測定しないといけません。早い時期に精密測定をやることが原則です。測り方の悪い例が多いので、国の委員会で測定法について検討中です。
 私は、JIS化のためのVOCと接着剤の委員の他に簡易測定法の委員もやっています。標準化部会の下にボード、接着剤、塗料、断熱材のワーキングチームがあります。

■症状と治療法

 SHSの症状としては、皮膚の痒み、目の痛み、視力低下、頭痛、いらいら、情緒不安定、女性特有のいろいろな病気、心不全、不整脈、のどが渇く、舌が白くなる、視力が落ちる、倦怠感、集中力がなくなるなど。
 どんな人がなりやすいかというと、化学物質に係わる職業の人、看護士、ビルメンテナンス業者、画家(テレピンオイルや顔料で)、印刷業者、クリーニング業者、国道沿いや工業コンビナートの近くの人、クリーニング屋、印刷工場の近くの人。ペットを抱いて寝ている人もぜんそくになりやすい。
 犬は体に付着した農薬を家の中に持ち込み、カーペットに移る。犬を外に出したら洗ってください。ぬいぐるみも溌水のためのホルマリン処理など、いろいろなものが使われています。カーペットは、ホルマリン処理をしているものもあります。農薬散布をする人、マンションのモデルハウスで働く人もなりやすいです。
 治療法としては、森林浴、ジョギングなどで汗をかく。ドイツのルノー先生の食事療法によるとカフェイン、アルコールはよくないそうです。群馬の青山先生はバナナ、ヨーグルトを勧めています。薬としてはグルタチオンという中和剤があります。
 私は測定のために入った家の床下で、シロアリ駆除剤のクロルピリホスにやられました。床下から出てきて1時間後、金づちで頭をたたかれたようになって、どうやって帰ったかわからず、2、3ケ月後、手の震えが出ました。それから頭がボーッとなりましたが、病院では異常はないと言われました。青山先生のところでようやく治療してもらえました。
 ドイツIFUのルノー先生のところは、世界中から患者が来ています。先生のところも保険がきかず、治療は大変なようです。

■SHSの原因物質

 VOC低減のための手法として、光触媒は若干効果がありますが、炭は効果が薄いです。使うなら1週間ごとに熱湯消毒して乾かさないとだめで、床下に入れるのはかえってよくないです。吸着はするが、満杯になれば吐き出すからです。
 沸点が50℃〜260℃のVOCとさらに高い可塑剤のようなSVOC、このあたりが一番問題になっています。
 アセトアルデヒドについては、WHOが現在の50μg/m3の値を見直す動きがあるのに合わせて、国土交通省住宅生産課、住宅整備課も測定対象から今年4月1日に外しました(ピコ通信69号参照)。横浜市や東京都の学校は入れており、文科省は入れていません。厚労省は、WHOの見直しに倣って300μg/m3に変える動きはありません。
 アセトアルデヒドの検出が増えたのは、ホルムアルデヒドが禁止されてアセトアルデヒドに代替されたのではなく、ラワン合板が北洋の針葉樹にかわったためです。
 SHSで一番怖いのは有機リンで、神経毒性があります。サリン事件がいい例です。次にネオニコチノイド系では不整脈が出ます。次いでピレスロイド系、スチレン、トルエンです。
 フローリング材からはホルムアルデヒド、クローゼットの棚板からはスチレン、扉の印刷シートからは接着剤とインクなどのトル エン、壁材からはホルムアルデヒドが出ることが多い。家具・厨房機器の表面は床面積の3倍もあります。イタリア家具はホルムアルデヒドがたくさん出るものが多いです。畳裏は防虫剤の有機リンのフェンチオン、床下には防蟻剤が使われています。家に帰って全部点検して下さい。
 今問題になっているシックスクールの原因は、トルエン系の接着剤か塗料がほとんどです。ホルムアルデヒド濃度は、0.15ppmなら住めるぎりぎりの値ですが、0.25 ppmだと住むのは難しく裁判になるレベルです。裁判をやる気なら、自分でお金を払ってでも、早期にきちんと測定をやることです。

■測定法について

 これは建築基準法改正で取り入れられたチャンバーです。例えば、20m3チャンバーに教科書を24時間入れて空気を捕集し分析すると、インキ等の化学成分が同定できます。文部科学省でも来年から導入する可能性があります。教科書のインクも検定条件に入るかもしれません。
 T社はもっと大きなチャンバーに自動車を切って入れて、何が出てくるか調べています。T社は他社に先駆けて来年から安全マークのついたものを販売します。また、内装の塩ビをオレフィンやPETに替えました。デンマークでは大型チャンバーに旅客機の胴体を輪切りにして入れて空気質を測定しています。1回1,000万円以上かかります。ヤマハもピアノを15年前から測定しています。
 国の測定は6物質、私は52物質を測定します。ドイツでは150物質です。小型チャンバーは装置、分析器、人件費を入れて5,000万円かかります。ホルムアルデヒドは8,000円くらいで測れます。
 SHSを避けるにはF☆☆☆☆(ホルムアルデヒド等級1)の建材を選ぶことですが、基準のない家具にも化粧板の審査によってF☆☆☆☆のものがあります。
 MSDS(製品安全データシート)は最小限の情報ですが、使った材料全てについて入手することです。最近は壁紙もF☆☆☆☆がついています。そのうち教科書も印刷インクによる基準で星四つをつけるようになるかもしれません。再生紙は化学物質がしみこんでいるので、SHSの人は使えません。ガラスボックスに教科書を一日いれて臭いをかいでみるという感応試験も重要です。
 建材もチャンバーに24時間入れて、52物質全部が測れます。今、学校のパソコンから何が出ているかチェックしています。

正確なのはアクティブ法

 主な測定は、簡易測定法、パッシブ法、アクティブ法の3つです。
 簡易測定法には手動式、自動ポンプ式、デジタル式があり、手動式で1.7万円です。
 パッシブ法は、部屋のある場所に一定時間吊るしておいて、持ち帰り分析を行う方法です。住む人のタバコ、アルコール、化粧品なども入ってしまいますが、安い割には精度は高いので、リフォームの前後にきちんと調べるにはいいでしょう。
 アクティブ法は、小型ポンプを用いてホルムアルデヒドやVOCを捕集した後で、分析機器を用いて化学成分の種類と濃度を測るもの。正確なので、室内空気環境測定法のISO16000もこれを採用しています。
 測定費用は、簡易法は2,000円、パッシブ法は2万円くらい、アクティブ法は3万〜5万円かかります。

■天然塗料も要注意

 全熱交換型換気機器というのは、換気の能力はあまりありません。入り口と出し口を離して強制換気しないとだめです。化学物質は空気より重くて床にたまるので子どもへの影響が大きいのです。空気があたたまって動くと、階段の上にたまります。床のすぐ上に換気扇をつけるのが効果があります。
 塗料も天然系ならいいというものではなく、ドイツのものでもホルムアルデヒドやアセトアルデヒドが出るものがあります。 グラスウールの断熱材は水がたまってカビの温床となることが多い。ウタレンの発泡剤は有機リンの難燃剤を使っていることが多いです。住みながらリフォームするのはやめましょう。ボード施工用の接着剤中のトルエンは5〜6ヶ月は残ります。ドイツでは内装の接着剤は95%が水性です。
 大気汚染防止法改正で建築現場の接着剤、塗料は水性に変えるよう指導しています。日本のスチレンの規制はトルエンと比べてゆるすぎるので、私は30〜50μg/m3にするのがよいと考えています。

■ドイツでは150物質規制導入の動き

 Agbbというドイツ環境省の建築基準法では、150物質の規制を導入しようとしています。ドイツでは民間のラベルシステムが100以上あり、これが国を動かしており、2005年一般住宅に適用されます。それがEUに上がると、やがてISOになる。すると日本も従わないといけなくなるかもしれません。
 国はJISのため試験方法を開発中で、来年、建築基準法の二次改正案が出る予定です。チャンバーに入れて簡易測定器をつけて50μg/m3以下(私案)ならVc1を表示します。接着剤、塗料、建材、パソコン、本、車まで測定してラベルをつけようという動きになっています。部屋の空気も表示しろということになるかもしれません。
 トルエン、キシレンについては何もやってないのではなくて、測定法が確立するのを待ってから取り掛かる、流れはこういうことになっています。

質疑応答から

 天井裏には問題はないか?
 一般に防虫剤は使っていないが、熱がこもるのでアスファルトルーフィングを使っているとタール臭が出る。屋根裏も換気孔をつける方がいい。

 公共施設について測定指定物質が6物質の横浜市がどうして進んでいるのか? 文科省は6物質測定を業者に引き渡し条件として義務づけている。厚労省は管轄の保育園について義務づけていないのか?
 13物質のうち全部分析するのは大変で1部屋20万かかる。6物質は測定法が確立しており、簡易測定とパッシブで普通の分析会社でもできる。アクティブでやれば全部とれるが、分析できるところが少ない。保育園も文科省の基準に準じているはずだ。

 家の外壁の塗り替えはどこが所管しているのか?
 外壁・屋根と家具は規制から抜けている。国交省の管轄ではない。外壁の塗料から出るVOCは環境省大気局の所管、今回大気汚染の規制でやろうとして、業界とやりとりをしている。30%減らせと要求している。

 隣のマンション工事で被害が起きないようにするには?
 シートをかけたり、ファンをつけて、VOCがこちらにこない措置をするよう要請すること。あと工事前と後とで室内空気を測定しておくとよい。

 江戸川区の学校では薬剤師が測定していて、情報公開も適当。それをチェックするポンイトは?
 江東区では業者と契約し、測定法をきっちりさせている。情報を全部公開させて専門家にきいてみるとよい。
(まとめ 花岡 邦明)


[投稿]/ネイルスクールで化学物質過敏症に
匿名(女性)


 私は、ネイルスクールで、化学物質過敏症になりました。
 大学卒業後、技術者として働いていましたが、2001年10月、ネイリストになりたいため退職しネイルスクールに通い始めました。
 ネイルスクールでは、人工爪を作る際に(長い整った爪を人工的につくることができる・スカルプチュアドネイル)レジン(注)を使用しています。モノマー(液体)とよばれる光重合成レジンと、ポリマー(粉末)と呼ばれる凝固開始剤が入っているものを使います。モノマーに浸した専用のハケをポリマーにつけ、爪にのせて自由に長さや形を整えるのです。
 その際、ヤスリのようなもので削るのですが、私はその削り粉末を吸い込んだため、レジンのアレルギーになってしまいました。ネイルスクールでは、マスクは売っていましたが、マスク使用を義務づけてはいませんでした。
 初めは、レジン使用後5〜7時間後、鼻水・タンが異常にでて頭痛がありました。約1か月後には、レジン使用後、鼻水、タン、頭痛、寒気がして食事が食べられないほどになったので、耳鼻咽喉科に行ったところ入院になってしまいました。病院では、風邪でもこじらせたのだろうとの診断でした。
 ところが、退院後もレジンを使用した日に具合が悪くなることに気づきました。そこで、アレルギー科でパッチテストをしてもらったところ、レジンは、パッチテスト3時間後には、耐えられない痛みとかゆみの為、テストを中断。私にとってレジンは危険な物質と判断され、使用禁止となりました。
 しかし、使用を止めても、レジンの臭いを嗅ぐだけで具合が悪くなるようになりました。夜間、レジンのアレルギーで苦しくなって救急車で運ばれ、気道閉鎖状態でステロイド点滴をした事もあります。  もともと直射日光にあたると発疹ができる、幼い時は慢性鼻炎など、アレルギーはありましたが生活に不自由なことはありませんでした。

 03年3月、インターネットで北里研究所病院を知り受診しました。化学物質過敏症患者にみられる検査結果がでました。この後、金属にもアレルギー反応がみられたため、東京医科大皮膚科で金属アレルギーのパッチテストを受けたところ、硫酸銅・重クロム酸カリウム・硫酸ニッケルに反応し、歯科材料の接着に使用するほとんどのものに反応してしまいました。
 今は、タバコ・排気ガス・洗剤・あらゆる金属・塗装の臭い・美容院の臭い・洋服売り場の臭いなどに敏感に反応してしまい、頭痛、めまい、吐き気、蕁麻疹などが続いています。
 一番困るのが、歯の治療が一切出来ない事です。接着剤・レジンに反応するので、虫歯の治療が出来ないのが辛いです。
 ネイルサロン、歯科医院の入っているビル、デパートは、私にとっては、"死ぬかもしれない"危険な場所なのです。
 私のようにネイリストになろうとしている人、ネイルサロンを利用する人、また、ネイルサロンをテナントとしている店舗にも注意を促すことで、私のような苦しい思いをする人が一人でも減らすことができれば、と思っています。

注:樹脂のこと。ネイル技術ではアクリル樹脂が使われている。
※投稿原稿を編集部でリライトさせていただきました。


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