ピコ通信/第37号
発行日2001年9月15日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 化学物質過敏症の会が厚生労働省に要望書提出 「急いで対策を立てて欲しい!」
  2. 「脱塩ビのページ」 塩ビ製品中のトリブチルスズ
  3. 化学物質Q&Aコーナー
  4. 東京都が「環境基本計画」改訂(中間まとめ)について意見・提案を募集中
  5. 【海外情報】
    ・EU議会が臭化難燃剤の禁止を採択
    ・EUの化学物質政策に関する報告書に化学業界が猛反発
  6. 化学物質問題の動き(2001年8月)
  7. お知らせ/編集後記


1.化学物質過敏症の会が厚生労働省に要望書提出
  「急いで対策を立てて欲しい!」


 8月28日、化学物質過敏症患者の会など3団体と賛同7団体が厚生労働省に要望書を提出し、合わせて交渉を持ちました。化学物質問題市民研究会も賛同団体となり、交渉にも参加しましたので、ご報告します。
 当日の交渉には、患者側は6人、厚生労働省側からは8人の担当官が出席しました。途中、患者側の一人が気分が悪くなり心配する場面もありましたが、2時間にわたる話し合いを持つことができました。

要望の概要

1.歯科治療での薬害とオーダーメード的医療を!
 化学物質過敏症患者は、考えられないほど種々の物質、わずかな量に激しく反応する。特に歯科治療については使用する全ての薬剤・材料の見直しをお願いしたい。また、全ての科や検査では、患者の声を聞いて”オーダーメード的”治療・検査・投薬をしていただきたい。

2.避難施設の緊急実現を!
 シックハウス、近隣での農薬散布、防虫剤散布、除草剤散布、工事、花火大会、葬式等の場合、患者たちはその場にいられず”避難”を余儀なくされる。早期対応のために専用の避難施設を作ってほしい。

3.原因との因果関係と適切な対策の明示を!
 今、化学物質過敏症患者を対象に”商売”がされている。業者の中には、個々の患者の原因の違いを無視して商品を勧める者がいて、重症化を招く恐れがある。国として対策をとってほしい。

4.生活の場の消毒・除草剤・殺虫剤・忌避剤・焼却の煙などが原因の苦痛を無くしてほしい!
 「化学物質を浴びない権利」を守ってほしい。市民の生活空間に効き目の強い化学物資が充満し、患者にとっては身の置き所が無く苦痛の毎日。地域には、体質・体調が異なったり、乳幼児、病人など色々な人々が生活しているのだから、このような化学物質を使わない・排出しないようにしてほしい。

5.職場の受動喫煙の深刻さを解決してほしい!
 たった1本のタバコでも患者の運命・人生・命を奪うには十分。患者は職場の複数の喫煙者とたった1人で戦わなくてはならない。そのため、仕事も失い生活も立たずに、鬱病になる若い患者も少なくない。国はたばこ問題にもっと真剣に取り組むべき。

6.シックスクール被害者の健康被害度の違いによる早期対応を!
 シックスクールに対する対策は始まったばかりなので、患者の障害の程度による対策を取ってほしい。第一に若年者の化学物質過敏症の治療・研究に取り組み、自宅での訪問学習についても考えてほしい。

7.若い患者の深刻な状況とその精神的ケアーを!
 患者の大半は中年の女性とされているが、若い男女の患者も相当数いる。仕事も失い、将来に対する不安から精神的に参ってしまうケースも多い。治療法の確立と共に、精神的ケアーをお願いしたい。

8.集合住宅における”種々の臭い問題”の解決を!
 患者は自分は使わなくても、隣りや別の棟から流れてくる化学物質に身の置き所がなく苦しんでいる。タバコ、洗剤、シャンプー、湿布薬、酒、香辛料、ストーブの排気、殺虫剤、芳香剤が神経や臓器が痛むガスとなって襲ってくる。化学物質過敏症の原因となるような化学物質を許認可しないでほしい。

9.専門病院での自費診療から保健診療への取り扱いにかえてほしい!
 北里研究所病院に加えて、来年から国立病院でもクリーンルームを備えた診療・治療が始まるという。自費診療になるおそれがあるが、保健診療にしてほしい。

10. 化学物質に過敏な人たちの掘り起こしと、急いで実態調査を!
 自分から化学物質過敏症と気づく人ばかりではない。色々な科を受診しても異常がないと言われるけれど具合が悪いという人の中に、患者は潜んでいる。国を挙げての実態調査を急いでしてほしい。

厚生労働省の回答

 厚生労働省の回答のうち、主なものをピックアップしてご紹介します。

(1)国のシックハウス対策について

・1996年度:「健康住宅研究会」設置(建設省等)
・97年度:ホルムアルデヒドの室内濃度指針値を設定(厚生省)
・98年度:「設計・施工ガイドライン」「ユーザーズマニュアル」策定(建設省等)
・2000年4月21日:「シックハウス対策関係省庁連絡会議」の設置
【基準設定】(厚生労働省)
・2000年4月:「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」設置
・同年6月:トルエン、キシレン、バラジクロロベンゼンの指針値策定
・同年12月:エチルベンゼン、スチレン、クロルピリホス、フタル酸ジ-n-プチルの指針値、TVOCの暫定目標値等を策定
【防止対策】
ア 住宅生産関係(主として国土交通省)
・2000年6月:「室内空気対策研究会」設置
・同年6月:官庁営繕工事における化学物質対策を取りまとめ通知
・同年10月:住宅性能表示制度の運用開始
・同年11月:「公共住宅建設工事共通仕様書」改正
・同年11月:クロルピリホスの使用自粛措置の要請
イ 建材関係(経済産業省、農林水産省)
・2000年7月:JAS(日本農林親格)のホルムアルデヒドの規格の改正 ウ 労働衛生関係(厚生労働省)
・2001年1月:職域におけるシックハウス関係化学物質の実態調査の開始
工 学校閲係(文部科学省)
・2001年1月:
(1)厚生労働省の指針値等を各都道府県教育委員会等へ周知
(2)建材の採用及び換気装置等の設置等施設整備上の配慮について指導
(3)化学物質過敏症の児童生徒への個別の配慮について指導
・同年3月:「小学校施設整備指針」
       「中学校施設整備指針」改訂
【医療・研究対策】(厚生労働省)
【今後の取り組み】
・室内空気汚染等と健康影響との因果関係に関する疫学調査
・引き続き指針値設定の対象拡大

(2)個別の要望への回答から

要望1化学物質過敏症の患者に使える歯科治療材料の開発については検討したい。
要望2国立相模原病院で化学物質過敏症の診断・治療を始める。合わせてクリーンルームを1〜2部屋設ける。他にも国立病院数カ所にクリーンルームをつくる予定である。
要望4今年8月に、ビル管理法の(注)を改正して通知を出している。その中で、ネズミ、害虫の駆除には必ずしも薬剤に頼る必要はない旨書いている。
要望5快適職場基準というものが設けられている。また、喫煙対策ガイドラインもつくっているので参照されたい。
要望8地域の保健所でシックハウスについての相談にきちんと対応するために、今年の7月に相談マニュアルをつくり配布した。現行のシックハウス指針値は、すでに化学物質過敏症にかかっている人にとっては有効ではないかもしれないが、指針値設定によって新たな被害者は少なくできると考えている。
要望10健康影響の実態調査を研究班で取り組んでいる。北里大の石川先生の研究班、昭和大医学部の飯倉先生の研究班ともう一つの3研究班でやっていく。2002年度末にまとまる予定。

 化学物質過敏症に対する国の取り組みは、速度は遅いですが徐々に進みつつあります。患者や市民の側からの働きかけが大事だと感じました。健康影響の実態調査の結果に期待しましょう。(安間)


3.化学物質Q&Aコーナー

 当研究会では、会員やホームページを見た方からの質問にお答えしています。最近のいくつかの例をご紹介します。

質問:輸入材は臭化メチルで燻蒸されていると林産地の人から聞きましたが、臭化メチルとはどのようなもので、メリット・デメリットは何かを教えて下さい。

 臭化メチルはブロモメタンとも呼ばれます。殺菌・殺虫のための燻蒸剤として、輸入材の燻蒸にも使われますが、輸入農産物の燻蒸、畑地やハウス栽培では土壌の燻蒸にも使われます。輸入サクランボや輸入りんごにも使われています。
 毒性については、変異原性ありとの報告、ラットへの経口投与により前胃にガンが発生という報告があります。

 一般的な有機ハロゲン化物の中で最も毒性の強いものの一つで、遅発性の血液毒性と麻酔様作用をもつ。神経系、腎臓、肺に蓄積性があり障害を起こす。中枢神経系への作用の結果として霧視、精神錯乱、しびれ、振戦、言語障害がみられる。致死的中毒は高濃度に被曝することによって起こる。肺、中枢神経系の障害、腎臓障害、アルブミン尿症、混濁腫張、尿細管変性の進行を起こす。肝臓肥大を起こす。ガスを吸入すると頭痛、めまいを起こす。皮フからも吸収される。皮フ、呼吸器に対する刺激性、中枢神経系に対する作用、腎障害がある。(神奈川県環境科学センターデータベースなどから)

 また、オゾン層破壊物質としてモントリオール議定書締約国会議で、臭化メチルを規制することが決まり、2005年には先進国は全廃と1999年に決定しています(ただし、防疫用は規制対象外)。

 メリット・デメリットは? とのお問い合わせですが、メリット?は木材や農産物の輸入が容易になるということかもしれませんが、そもそも木材や農産物は輸入しない方が、環境や農林業や健康を守るためにはいいと思うので、これもデメリットになってしまいます。
 防疫用燻蒸剤としては05年以降も残ってしまうので、使用量を減らすには、消費者は輸入木材や輸入農産物はできるだけ買わないようにすることだと思います。

質問:ピコ36号にTBTOが禁止、TBTは自主規制で生産中止と書いてあったが、TBTの規制内容と、代替品に何が使われているか、その毒性について知りたい。

1.機スズ化合物とは
 有機スズ化合物のうちのTBT(トリブチルスズ)、TPT(トリフェニルスズ)を防汚剤として含む船底塗料や漁網塗料が使われていた。防汚剤とは、有機スズを含んだ塗料を塗ることで、それが少しずつ溶け出して、海中の貝や藻などの生物が付着しないようにするというものである。
 人体毒性も高く、環境中の濃度が高くなったので、日本で規制措置がとられた。その後、環境ホルモンとしてイボニシガイ等貝類に生殖器異常を引き起こすこともわかってきた。
 当然貝や藻に対する毒性は強い。人間には、中枢神経障害、成長阻害、リンパ腺の減少、胸腺の萎縮、変異原性などの影響がある。

2.日本における法的規制
 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)で、TBTの一種TBTO(トリブチルスズオキシド)が第一種特定化学物質に指定され(90.1)、製造輸入が原則として禁止となる。TBTOを除くTBT13種(90.9)、TPT7種(90.1)は第二種特定化学物質に指定され、製造、輸入に事前の届け出が必要となった。

3.行政指導による業界の自主規制
 法的に禁止されたのはTBTOだけだが、運輸省、水産庁の行政指導によって、業界内での製造・使用の自粛が進められた。1997年に日本塗料工業会がTBT含有塗料の製造の中止を発表した。現在はほぼ使われていないと思われる。TPT含有塗料は89年6月に中止された。これは日本など一部の国でのみ生産使用。

4.国際的規制
 全面的に規制しているのは先進国でも日本だけで、他の先進国は、船の大きさ(25メートル未満など。小型船の方が同一水域での停泊時間が長いため、局所的汚染をもたらすため)や、塗料の溶け出す速度に基づく規制だけで全面規制はしていない。  開発途上国などは規制がない。日本での規制のあとも環境中の濃度があまり減らないのは、入港する外国船のせいと、今までに放出されたものが底質に蓄積しているためと思われる。
 ロンドンに国際海事機関(IMO)とその下部機関海洋環境保護委員会(MEPC)という国際組織があり、そこが海洋汚染問題に取り組んでいる。96年に日本、北欧などがMEPCに規制を提案、98年3月のMEPCで、有機スズ含有塗料の世界全体での使用禁止で一致し、1999年11月のIMO総会で条約策定が合意された。
 現在、海洋環境保護委員会が「有害防汚システム管理国際条約」を策定中で、2001年10月の外交会議で採択される予定である。その内容は、2003年1月以降新たな塗布を禁止し、2008年1月以降は船体に付着していることも禁止する。ただし船のバランスをとるために海水を入れるタンクは例外とされている。

5.代替品について
 現在、非スズ系防汚剤としては、亜酸化銅などの銅化合物と、窒素・硫黄などを含む有機化合物が使われている。亜酸化銅は効果が高く比較的安価なことから使われている。代替品は有機スズ系に比べて付着防止の持続時間が短いため、塗り替えの作業が増大する。
 亜酸化銅は、いまのところ有害性は言われておらず、海水中の濃度も高くはないが、北欧では規制の動きもあり、将来的には銅も問題となると思われる。
 他に防汚剤を使用しない塗料として、シリコーン系(撥水性、ゴム弾性、低摩擦性などを利用して生物付着を防止)や、導電塗膜系(導電塗膜で被覆し、微弱電流を流すことで殺菌)などがある。化学物質を溶出しない後者の方が環境への有害性は低いと思われる。

質問:オゾン層は話題になるが、オゾンO3自体には危険性は無いのか? 私は電気関連のエンジニアで、電気放電を利用し非破壊検査を行なう時に、放電によりオゾンが発生するようです。

 オゾン自体は強力な酸化力をもち、危険な物質です。引火性、爆発性が強く、火災の危険。空気中に25%以上含まれると爆発。厳重な管理が必要。換気に注意とされています。
JCSC国際化学物質安全性カードでは、
・短期曝露の影響
  眼、気道を刺激
  ガスを吸入すると肺水腫や喘息様反応を起こすことがある。
  液体では凍傷を起こすことがある。
  中枢神経系に影響を与え、頭痛、意識障害、行動障害を生じることがある。
・長期または反復曝露の影響
  反復、あるいは長期にわたりこの気体に曝露すると、肺が冒されることがある。
・環境への影響
  環境に有害な場合がある。植生への影響に特に注意すること。

 以上のように、高濃度のオゾンは毒性が強いことが一般的にも認められています。低濃度では安全という説も流布していますが、実際はそうではありません。
 日本産業衛生学会による許容基準は0.1ppmですが、FDA(米国食品医薬品局)は0.05ppm以下でも危険としています。日常的には、コピー機からも出ていますし、自動車の排気ガス、特に光化学スモッグの主要成分はオゾンです。オゾンには活性酸素としての人体毒性があると考えられます。
 低濃度での毒性としては次のようなものが上げられています。
・悪臭:0.1ppm以上の濃度になるといやなオゾン臭がある
・染色体の破壊:発ガン性作用・催奇形成作用等がある
・肺細胞の酸化:細胞感染を受けやすい・抵抗力の低下
・肺小動脈肥大:酸化作用による細胞の老化を引起こす

 発ガン性としては次のような実験結果があります。コロンビア大学(米)研究グループの動物実験では、マウスにオゾンガスとウレタンガスを同時に吸入させたところ、肺に悪性の腫瘍を生じた。また、ハムスターの胎児の細胞にガンマー線を照射させた後、オゾンガスを与えたところ、オゾンガスがないときに比べて2倍の発ガン率になった。


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る