
2.第3期連続講座 第3回 報告「アレルギーが増えている」
11月11日(土)に行われた赤城智美さん(アトピッ子地球の子ネットワーク)の講演より(文責 当研究会)
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| 赤城智美さん |
今日はキャパシティとセンシティビティということについてお話させていただきます。つまり、体の許容量とアレルギーのこと、体の感受性と化学物質過敏症のこと、両者がどう違い、どう重なっているかの説明をさせていただきます。
アレルギーが起こる仕組みはある程度把握されていますが、アレルギーと化学物質の関係は解明されていないので、中途半端な話になるところはご容赦下さい。
アトピッ子地球の子ネットワーク
私たちの団体は、93年から電話相談を中心に活動しています。相談は以前も今も年間3000本ありますが、電話を受ける能力いっぱいの数字なので、相談数が増えているかどうかは分かりません。
相談内容は、民間療法、ステロイド問題、ダニ・カビ問題と変化してきています。95年の震災の時は、食物アレルギーの人に食材を送る活動を行ないました。96年あたりから化学物質の問題が増えてきました。ここからはメディアに左右され、翻弄されている家族というのが浮かんできます。母親がセンサーをとがらせているけれど、煽られた表層のことで右往左往している。それをどうやって正しい知識に結び付けるかが私たちのテーマです。お医者さんの難しい話を日常に届く言葉にする、漫画の「ドラえもん」に出てくる「翻訳コンニャク」になろうと、話し合っています。
アレルギーの起こる仕組
アレルギーには、T型からW型まであり、T型は免疫の働きで起こるアトピー性皮膚炎のような一般的なアレルギーで、即時型と言われています。W型は細胞性免疫に係わるもので、遅延型と言われます。現在T型、W型の複合型が増えて、治りにくくなって、難治化していると言われています。卵を食べて、すぐにジンマシンが出来て、翌日ぜんそくが出るというのが即時型と遅延型の複合です。
免疫は、種を守るために生物の体に必ず備えられたシステムです。両親がアレルギー体質だと、子どもに遺伝するというデータがあります。これは体質が受け継がれるのであって、病気が遺伝するのではありません。
T型のアレルギーのメカニズムを説明すると、免疫は体の中の安全を守るパトロール隊だと考えればいいと思います。IgA、IgGなど主として5つあって、体の恒常性を保っています。アレルギーと係わっているのが、IgEという、異物認識をするパトロール隊です。アレルギーの人は、異物が入ってきた時に、アレルギーでない人よりも、このパトロール隊をたくさん用意してしまいます。
IgEは体にとっては必要なもので、IgE値が高いから重症ということではなく、体が戦っている状態なのだということです。日本人の平均で100ぐらい、エチオピアの人は5000ぐらいあります。それは異物と絶えず戦わなければならない衛生環境にいるということです。日本人はそんなに戦わなくていいのに、重症のアトピー性皮膚炎の人は10000、乳幼児で2000などという数値が出ています。
異物が体に入る経路は、吸入、経口、経皮の三つがあります。パトロール隊はそこに配置されていて、異物を認識すると、マスト細胞という道具箱の中からヒスタミンやプロスタグランジンという化学伝達物質が放出されて、異物を無害化してやっつけます。ヒスタミンは体をイガイガモジョモジョさせる物質で、それが血管を刺激し、水分を放出させ、腫れた状態になります。鼻だと鼻づまり、鼻水、喉だとゼコゼコヒューヒューする。皮膚が痒くなるのでひっかいて皮膚に水がたまる、という症状が出ます。
これらの一連の働きを抗原抗体反応といって、人の体にとって必要なシステムで、一度起こると体に記憶されます。憶えた形でないとセンサーは働きません。分子の大きい蛋白質に反応します。赤ちゃんの時に卵のアレルギーだった人が成長すると治るのは、消化吸収能力が未発達な赤ちゃんの時には大きいまま取り込んで、反応したのが、成長すればもっと小さく分解できるので、センサーに反応しなくなるからです。ただし大人になっても食べられない人も何割かはいます。アレルギーを起こしやすい物質は、分子の大きさだけでなく、分子の構造によっても区別されます。
化学物質とアレルギー
ここからは臨床的にたぶんそうだろうということで、専門家によって意見が分れています。化学物質がタンパク質を補って、本来起きなくていいセンサーに対する反応が起きているのではないかということで、ハプテンあるいはアジュパントとして説明されています。花粉症のディーゼル排ガス粒子、食品添加物、農薬、水道の塩素、治療薬の化学物質も考えられます。体質だけだとアレルギーが急増することは考えられないのに、発症する人が増えているのは、化学物質が補っているからではないかというのです。花粉症の場合、アジュバンド(促進物質)と言われます。IgEが低いのにアレルギーがひどいという例もあります。
科学的に解明されていませんが、化学物質を遠ざけると、アレルギーの症状が落ち着くという実例は多いのです。『奪われし未来』には、パトロール隊を作るBリンパ球、Tリンパ球が、環境ホルモンによって撹乱されるのではないかという話も出ていました。
アレルギーは、よくコップの水に例えられて、アレルギー体質、化学物質、睡眠不足などいろいろな水が入ることで、コップから溢れてしまう、それが発症だと言われます。アレルギー体質でない人も、他から入ってくるものは同じなので、いずれ溢れる可能性があります。アレルギーの人はそれが早く溢れるので、それ以上入らないよう努力するために、もっと大きな病気になることを予防しているとも考えられます。異物を排除している人とアレルギーでない人との発がん率を比較研究中のお医者さんがいますが、長期間、多数の人の追跡をするので、簡単ではありません。
化学物質過敏症
化学物質過敏症は、大量曝露の経験があって、同じ化学物質がごく微量入った時に体が反応するというものです。自覚している人はよほど重症の方です。私たちが受ける相談でも、過敏症が増えています。アレルギーだと思って相談して来て、過敏症だったという例が多いのです。化学物質過敏症の人は別のものにどんどん反応が広がっていくので、原因物質の特定が難しいという特徴もあります。
医療が阻む原因究明
今、ぜんそく治療薬や抗ヒスタミン剤のような薬そのものが、化学物質過敏症を促進するのではないかと、疑っています。あるお子さんの例では、原因物質を除去しても治らないので、さらに追求して、たどりついたのがぜんそく治療の気管支拡張剤と抗ヒスタミン剤でした。お医者さんに頼んで飲むのをやめたら、症状がよくなりました。飲んでいた治療薬が相乗的に働いていたのです。過敏症で重症の方は、飲んでいる薬についても、注意を払う必要があります。医療的なことなので、化学物質過敏症について理解するお医者さんが増えてこないと、原因特定すら難しいのです。
歯医者さんの歯の詰めものの問題もあります。金属アレルギー問題は解決の方向が見えたと思っていたら、新しい樹脂が開発されたらしくて、昨年あたりから増えています。ビスフェノールAのような物の溶出の問題だと思うのですが、歯医者さんがカルテを公開してくれないので、特定できません。
医療分野の方は化学物質過敏の問題に無理解です。治療に使ったものが分からないと、原因が特定できず、問題が解決しませんが、それを阻むものが医療システムそのものなのです。シックハウス問題では、工務店さんは分かって下さるようになりましたが、医療分野では遅れています。化学物質過敏症の要は、医療関係者の情報公開と過敏症に対する理解にかかっています。これが私たちの今後の活動のテーマです。
アレルギーとジェンダー問題
アレルギーの問題は、ジェンダーと差別の問題につながります。家庭で対策をする時に、姑や夫の協力を得られないので、女性が自分たちの価値観をいかに周りと共有していくかということも重要なテーマです。北里大学の石川先生や、そこを退職された難波先生の話では、化学物質過敏症の7割以上は女性、それも30代よりあとの方が多いそうです。室内空気汚染に曝される時間が長いからと推測されます。女性が症状を訴えると、大体更年期障害で片付けられます。若い人には若年性更年期障害というわけの分からない名前がつけられます。でも、自分は更年期ではないので、そう思って話を聞いて下さいという電話相談が多いのです。
ある女性の例を上げると、原因はマンションの下の人が焚いたバルサンだったのですが、こんどはファクスに反応するようになりました。夫がおかしいと言って、その女性を精神病院に入れようとしました。その夫の説得にまた時間がかりました。家族の協力がなければ原因物質の特定はむずかしくて、女性の場合それが顕著です。男性の例では、ある70歳のお爺さんの体調がおかしくなり、リフォームした壁紙が原因とつきとめられましたが、それは家の中心人物だったからで、家族中が協力したからです。アレルギーや化学物質過敏症は、ジェンダーという社会的背景と切り離して考えることはできません。
症状は複合的
アレルギーと化学物質過敏は、原因はまったく別ですが、かかっている人は重なっています。電磁波に過敏な人も重なっています。感受性の高い方、許容量の低い方が、複合してかかっているのです。資料の中の、東京都によるアレルギー調査をご覧下さい。大気汚染の認定患者と3歳児のアレルギー疾患とを調査しています。ここでは、アレルギー疾患は、複合的な症状の起こし方をしているということを、行政として初めて取りあげています。化学物質過敏は違うテーマのため、ここでは取りあげられていません。原因は別ですが、患者の側に立つと、重複している人が多いので、この調査でも化学物質過敏も調べていたら、もっと総合的なことが分かったのではないかと思い、残念です。
アレルギーは増えているか?
厚生省統計情報部が、1991年に国民の3人に1人がアレルギーという数字を出しました。メディアが、これを、3人に1人がアトピーと報道しました。それが修正されて、乳幼児の3人に1人がアトピーと言われるようになりました。私たちも、1991年に江東区の保育園の協力で調査を行ない、2.26人に1人がアトピー性の皮膚炎、ぜんそくという数字を出しました。食物アレルギーは1〜2%で、数としては少ないです。3人に1人というのは他の調査でも出ています。
厚生省では38万人という数字を出していて、これがアトピー性皮膚炎の患者数だと認識されてます。厚生省母子保健課が98年に幼稚園児の年齢の8%がアトピーと発表しましたが、それ1回しか数字がないので、増えているかどうか、数字として出ていません。増えているという感触はありますが、経験的に分かっているのは、治りにくい、難治化傾向にあるということだけです。数字については、ちゃんとしたものが出た時にまたご報告したいと思います。
会場からの質問
質問 | ステロイドをどう評価するか。 |
赤城 | 私たちはステロイドを「悪魔の薬」だとは言いません。ステロイドを第一選択にしてはまずいけれど、症状によってはステロイドを使わざるをえないこともあります。これは私自身の体験からも言えることです。 |
質問 | 食品のアレルギー表示についてどう考えるか。 |
赤城 | アレルギー表示以前の問題として、使っているもの全てが表示されていれば問題はありません。アレルギー表示は、微量混入表示の有無にかかっています。同じ工場内で、別ラインでうどんとソバを製造している場合は、微量混入ありということになります。メーカーも、原材料中に微量のものは何が含まれているか知らない場合が多いので、メーカーの教育も必要です。アレルギーの問題対策は情報開示につきます。その人にとって特定のアレルゲンが問題なのですから、全ての情報が開示されていたら、患者は自己防衛が可能になります。 |