ピコ通信/第19号
発行日2000年3月16日
発行化学物質問題市民研究会
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目次

  1. 第2期・連続講座 第10回(最終回)「”奪われし未来”は取り戻せるか」( 村田 徳治さん)
  2. 水道水の鉛汚染(有田 一彦さん)
  3. 環境ホルモン国際シンポジウム in 神戸(4)
  4. 海外情報
  5. 化学物質問題の動き(2000年2月)
  6. 新刊(研究会編集)案内/編集後記

1.第2期・連続講座 第10回(最終回)「”奪われし未来”は取り戻せるか」
 2000年3月4日(土)に行われた 村田 徳治さん(循環資源研究所長)の講演より(文責・当研究会)

化学物質の実体
 今日は最後ということで、化学物質の総論的な話をします。「化学物質」とは、化学を知らない役人が化審法を作る時に作った言葉で、むしろ人間が人工的に作り出した「合成物質」と言った方がいいでしょう。
 人工的に作った物、自然界にない物がなぜ危険かというと、体内に入って来た時に代謝する酵素がないからです。また、自然界のものは安定性が乏しくて、必要がなくなればすぐに分解するけれど、有機塩素系みたいに非常に安定な化学物質は蓄積してしまうからです。
 アメリカのCASによると、化学物質は2,000万種あって、年間100万ぐらいずつ増えています。そのうちアメリカでは10万種、日本では5万種が使われていると言われていますが、推測にすぎません。OECDが年間1,000トン以上生産される物質のリスクアセスメントを始めて、人に対する健康影響、発がん性だけを考えてやられていたのを改め、生態系に対する影響も調べようということになりました。主要な物質ですらこんな状態で、他の何万という物質は全くデータがないといってもよく、規制もかけられていません。
 発がん性にしても、95年の国際がん研究機関による発がん性評価は対象が717物質のみで、うち発がん性が確認されたのが36、恐れがあるが240物資。他に動物実験で発がん性があると言われている物は3,000物質、催奇形性があるものが1,200ぐらい。調べられた物は、使われている物から比べると微々たるものです。
 PRTRも、製品にくっついて出る物質は対象外です。工場から漏れる量はわずかで、ほとんどが製品に入っているので、ドジョウを取り締まってクジラを逃がしているようなものです。さらに企業秘密という逃げ道もあります。

化学物質の氾濫は企業原理から
 なんでこんなに化学物質の種類が増えるのかというと、企業が特許逃れをするため、特許申請された物とよく似た別の物を開発するからです。本来なら一つでいいものです。企業という部分にとっての最適化が、社会全体にとっては非最適化になっているのです。PCBも、物を加熱するには水蒸気でやるのが一番いいのですが、ボイラーの設備を作らずにすませるために使われて、あげくの果てにカネミ油症事件を引き起こしました。
 企業は、日本人は科学知識がないから、いい加減なことを言っていればすむ、環境ホルモンの害も証明されていないと言って逃げ回れば、最終的に毒性が証明されたころには、もう当人たちもいないから刑事訴追も逃れられるし、補償は全部税金でやるからと、高をくくっているのです。

科学的思考の欠如
 日本の理科教育では、本質的なことが教えられていません。科学の知識が先進国14ヵ国中13位という調査結果もあります。私の娘の理科のテストで、天秤のどちらに分銅を置き、どちらに計る物を置いたらいいかというのがありました。どっちでもいいはずなのに、計る物を右に置くのが正解。計りやすいからというのです。こんなのを憶えさせるのが理科教育なんです。それをおかしいと思う子の方が自然科学がよくわかる子なんですが。

考えない消費者
 日本人の衛生好き、清潔好きというのも問題があります。きれい好きはいいけれども、抗菌グッズなんかで、なんでも消毒、殺菌すればそれで清潔だと思っています。しかし、菌が死ぬのは毒だからです。人の肌は、微生物がいて、表面に出てくる脂肪を加水分解して、酸を作って表面を酸性に保っています。普通の微生物は酸に弱いからそれで皮膚が守られます。抗菌剤は体にいい微生物まで殺してしまうので、とんでもない菌がきても防御機構が働かなくなります。
 安全に対する考えも、童話の「眠り姫」のように、まわりにある針をみんな取り除くのが安全教育だと思っています。王女に針を見せて、これで手を刺したら死ぬから触るなというのがほんとうの安全教育です。免疫力をつけるのが安全であって、菌を取り除くことではないのです。
 害虫や病原菌が死ぬのは毒だからであって、人畜無害な殺虫剤なんてものはないのです。哺乳類と虫とは違うけれども、動物という点では、生物という点では共通です。DNAはみな同じ成分で、並び方が違うだけです。
 殺虫剤のような皆殺しの論理が行き着くと、不快害虫、害も与えないのにただ不快だというだけで殺すことにもなります。自己中心で自分だけ生きようとすると、自分まで全部やられてしまいます。利便性を求めて、化学物質をいろいろ使っていると、必ずしっぺ返しがあります。シックハウス症候群というのはその現われの一つです。
 防虫剤、殺鼠剤、掃除用洗剤、カビ取り剤、芳香剤、消臭剤、ホルムアルデヒドなどが身のまわりに溢れています。芳香剤なんて必要でしょうか。水洗便所が臭いのは掃除をしないからです。知識がない人が、よく考えずにこんな物を買ってしまうのです。これはどういう物で、どういう目的で使うのか、ほんとうに必要なのか、ちゃんと考えないといけません。今私たちのまわりには、わけのわからない、必要もないものがはびこって、それを使わせられていると言った方がいいでしょう。何も考えずに、知らずに買ってくることが、今日の化学物質汚染の根源をなしています。
 室内から、家具から、食品容器から、様々なものが揮発、溶出してきています。カップ麺も、ラップも、本当は必要がないものを使って、それで溶け出す、溶け出さないとか言っているのです。使うから溶け出すのであって、使わなければ売れないから、作られなくなります。

プラスチックと塩ビ
 プラスチックや、その添加剤はどうしてこんなに種類が多いのでしょうか。プラスチックは安定なものというのは誤解で、安定剤を入れないと成り立ちません。薬漬けの半病人と言ってもいいです。安定性が高くて、添加剤が少ないと言われるPETにも、添加剤はたくさん入っています。塩ビに至っては添加剤の塊りです。添加剤の種類が多いのも特許逃れのためです。一つに統一しても問題はありません。使い捨てにされるのに、酸化防止剤等よけいなものが入れられています。
 プラスチックの中でも、原理的にだめな樹脂と、改良すれば安定する樹脂があります。ポリエレチンやポリプロピレンは、新しい触媒を使うと直線性の長くて、安定な製品が作れ、そうすると安定剤も少なくてすみます。塩ビはもともと安定性が悪いので、原理的にだめな樹脂です。
 塩ビ業界は、塩ビがないと困ると言っていますが、ポリエチレン製のガス管、水道や、非塩ビ製の電線もできています。エネルギーの使用量が少ないとも言っていますが、食塩水を電気分解してカセイソーダと塩素と水素を作る時にエネルギーが大量にいることを計算に入れていません。リサイクルをするにしても、高炉投入、製鉄のコークス化、セメント燃料、RDF、全て塩ビを取り除かないと使えません。ここでもエネルギーが余計にかかります。
 塩素系プラスチックがなければ、減量化、再資源化はかなり楽になります。塩ビのリサイクルといっても、280万トンのうち10万トンにすぎません。リサイクル率をほんとうに上げたら、カセイソーダを作る時の塩素の行き場がなくなります。70%リサイクルはごまかしにすぎません。

カドミウムと電池
 有害なカドミウムは日本が一番の消費国です。カドミウムは、鉛、亜鉛の精練で出てくる副産物で、塩ビと同じ構図です。日本では80%をニッケルカドミウム電池(充電池)にしています。企業はイタイイタイ病まぼろし説をいまだに唱えていますが、日本人の摂取量は多くて、腎症は2%ぐらいいます。それが高じるとイタイイタイ病になります。EUでは2002年に規制を始めて、8年までに全廃の予定です。
 以前、電池から出るエネルギーと製造の投入エネルギーとの比較計算をしたことがあります。業界でもやっていなかったので、数値がわかっている亜鉛、二酸化マンガン、鉄の製造エネルギーだけで計算したら、投入エネルギーの0.3%という結果で、自分でもびっくりしました。こんな製品はリサイクルする価値はありません。電池の使い捨てはやめて、さらに有害なニッケルカドミ電池をやめ、充電式で高性能なリチウムイオン電池、水素ニッケル電池に変えるべきです。

規制のあるべき姿
 トリブチルスズが問題になった時、10種類を規制しましたが、それに該当しないものはいくらでも作れます。トリブチルスズ化合物全体を規制しないといけなかったのです。一つ毒性があるのを規制しても、似たようなものが使われるので、一つ一つ規制して行ってもモグラ叩きで際限がありません。構造式が似ているものを一括規制し、どうしてもそれがないとだめなら、その中の毒性の低いものをとりあえず認可するという規制が必要です。農薬については、同じような構造のものは一つだけ許可するという方向になりつつあります。
 また、リスクアセスメントについては、化学物質の微量で長期の影響は今のリスク評価では測れません。利益の享受者とリスクを受ける人間が乖離しているので、リスク・ベネフィットの適用も問題があります。社会的弱者、身体的弱者、子ども、胎児にリスクが行くことを考えると、大人の健常者を対象としたリスク評価ではなく、弱者を基本としたものに変えて行く必要があります。


2.水道水の鉛汚染
  有田 一彦さん(水問題研究家)

 鉛の水道水汚染は深刻です。現在、水道水中の鉛濃度は水質基準ギリギリか、あるいは基準値を越えるような状況となっています。鉛の水道管、水栓・蛇口や管継ぎ手、それに塩ビ管からも鉛が溶け出してくるため、水道管路の至る所に鉛汚染の原因が埋め込まれているといえます。

*鉛の危険性
 鉛はあまりに日常的な物質であるため、その危険性を軽視したり無視してしまいがちです。しかし、鉛は神経系への毒物であり、発ガン性(IARCの2B)もあります。とくに、妊婦や幼児に対しては、カルシウムの代謝阻害を起こし発育障害にも繋がることもわかっています。
 一方、鉛は鉛蓄電池、ハンダ、塗料、合金製造、それにガソリンのアンチノック剤や潤滑剤として広く使われてきました。その有用性も有害性が問題になるにつれ、多くの用途での使用は減少しています。でも、水道関連は例外で、飲み水から鉛を摂取する危険性が相対的に高くなってきているのです。
 日本の水道法における鉛の飲料水質基準は、0.05mg/l(1992年12月の基準改訂前は0.1mg/l)。WHOの0.01MG/Lや米国の0.01mg/l(目標はゼロ)に比べると、約3〜5倍緩いものとなっています。基準改訂当時、日本には鉛の水道管などがたくさん残っていたため、もしWHO等の国際基準を採用してしまうと、日本各地で水質基準違反となり、水道事業体の責任問題に発展しかねません。裏で何があったか知りませんが、厚生省は国際的に恥ずかしくなるような基準値しか設定できませんでした。
 しかし、厚生省もこれではまずいと考えたのか、「長期目標値を0.01mg/lと設定し、おおむね10年間に鉛管の敷設替えを行い、鉛濃度の段階的な低減化を図る」と付帯文をつけました。つまり、業界や水道事業体に10年の執行猶予を与えるから、その間に鉛対策をしてくれとシグナルを送ったわけです。消費者不在の行政と業界擁護の構造がここにもありました。

*鉛管対策は進んできたが・・・
 「10年の執行猶予」を与えられた全国各地の水道事業体は、以前にも増して鉛管の取替交換を実行してきました。1996年現在で、送配水系で残っている鉛管は約46kmですが、静岡、群馬、神奈川、富山、福井、大分などの対応が遅れており、対策進捗状況の地域差がうかがえます。
 鉛管は水道の送・配水管(本管)だけではありません。ほんの少し前までは各戸への引き込み管用にも鉛管が施工されていました。ところが、この部分は各戸住人の資産であり、水道事業体の管轄部分ではないため、交換の対象にもなっていません。消費者にこの事実を伝えていない水道事業体がほとんどです。居住者が勝手に鉛管を選んだわけではありません。水道当局の「指導」の下で水道工事業者が施工したのですから、引き込み鉛管の放置は当局の無責任というものです。危険情報を開示するとともに、交換費用の行政側一部負担まで含めて検討すべき課題ではないでしょうか。
 加えて、蛇口までの配管経路には鉛管以外に鉛製品がたくさんあります。たとえば、水栓(蛇口)や管の継ぎ手は鉛入りの銅鋳物や銅合金製品がほとんどです。この4月から、TOTOが鉛溶出対策を施した水栓金具等を販売するとのことですが、既に使用されている鉛入りの蛇口は交換するしか手はありませんし、バルヴや継ぎ手等については、まだまだこれからの話。水道本管の鉛管を排除しても、鉛の危険性は未だ残されたままなのです。

*塩ビからも鉛!
 さらに厄介なことに、塩ビの水道管からも鉛が溶出します。なぜか。塩ビの添加剤には安定剤と改質剤(可塑剤や難燃剤等)がありますが、鉛化合物は安定剤として、あるいは加工性をあげる改質剤(滑剤)として入れられていました。配合は各社各製品で異なりますが、重量比で3〜5%程度。これでは水道水への鉛溶出は不可避です。
 当然ながら、先に述べた「10年の執行猶予」は塩ビ業界にとっても深刻な問題になったため、93年頃から鉛の替わりとして有機スズ等を使用した製品を出荷し始め、最近では鉛入りの塩ビ水道管はほとんどないようです。さきほど「入れられていました」と過去形で書いたのは、そういう理由です。
 しかし、90年代中頃までに生産し施工された塩ビ配管はほとんど鉛入り。塩ビ工業界からすれば、秘密にしていたわけではないと抗弁するかもしれません。しかし、鉛入り塩ビついて水道事業体や消費者はどれほど知っていたでしょうか。1992年以降も自治体は鉛入り塩ビ水道管を使い、個人住宅・集合住宅の給水管の多くも鉛入り塩ビ管での工事でした。もし塩ビ水道管が鉛入りである事実を知っていれば、鉛の入らないポリエチレン管等に変更したいという自治体や消費者もいたはずです。しかし、国や関連業界にとって大切だったのは自分らの利益・都合そして責任回避の方策であり、消費者の健康や安全ではなかったのでしょう。
 消費者はどうすればよいのでしょうか。簡単な対処としては、蛇口開栓後に十分な捨て水を行い、鉛濃度を減らすことが肝心です。朝一番の水や留守が続いた後の水には特段の注意を払って下さい。しかし、現在の鉛入り水道管の危険性を消費者が理解しない限り、その対処をしようという動機付けにもなりません。国・厚生省や水道事業体は、まず鉛入り水道水の実態と危険性を消費者に公開すべきです。(水問題研究家)

有田さんのホームページもご覧ください。
AR環境情報 http://www.arita.com/

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