NIEHS プレスリリース 2006年7月27日
多くのエアーフレッシュナー中に存在する化学物質は
肺機能を低下させるかもしれない
1,4-ジクロロベンゼン


情報源:NIEHS Press Release July 27, 2006
Chemical in Many Air Fresheners May Reduce Lung Function
http://www.niehs.nih.gov/oc/news/airfreshener.htm
Original Research:
Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 8, August 2006
Volatile Organic Compounds and Pulmonary Function in the Third National Health and Nutrition Examination Survey, 1988 - 1994
Leslie Elliott, Matthew P. Longnecker, Grace E. Kissling, and Stephanie J. London
http://www.ehponline.org/docs/2006/9019/abstract.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年9月1日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/niehs/060727_niehs_air_fresheners.html


 新たな研究が、多くのエアーフレッシュナー、トイレ脱臭ボール、クリーナー、モスボール(防虫剤)、消臭剤などに存在する化学物質は肺に有害かもしれないということを示している。国立健康研究所(NIH)の一部門である国立環境健康科学研究所(NIEHS)による人間集団での調査研究が、1,4-ジクロロベンゼン(1,4 DCB)と呼ばれる(訳注:パラジクロロベンゼンとも呼ばれる)揮発性有機化合物(VOC)への暴露が肺機能が少し低下させるかもしれないということを発見した。

 ”たとえわずかな肺機能の低下でも肺に有害である”−とNIEHSの研究者でこの調査研究のリーダーであるステファン・ロンドン博士は述べた。”あなた方自身、特にぜん息又はその他の呼吸器系疾患を持つ子ども達を守る最良の方法はこれらの成分を含む製品や物質の使用を減らすことである。”

 研究者らは953人の成人を代表サンプルとして、11種の一般的な揮発性有機化合物(VOCs)の血中濃度と肺機能との関連性を検証した。VOCs は、タバコの煙、農薬、塗料、及び洗浄剤など一般的によく使用される多くの製品からガスとして排出される様々な化合物である。VOCs はまた、自動車の排気ガスからも排出される。研究者らは、ベンゼン、スチレン、トルエン、アセトンなどを含む一般的な VOCs を分析した中で、1,4-ジクロロベンゼン(1,4 DCB)だけが肺機能の低下と関連し、この影響は注意深い喫煙の調節の後ですら見られた。
 研究者らはサンプル集団の96%から検出可能なレベルの 1,4 DCB を血中に見いだした。アフリカ系アメリカ人が最も高レベルの暴露を示し、非ヒスパニック系白人が最も低かった。

 この特定の VOC である 1,4 DCB は独特の香りを持った白色の固形化合物であり、モスボール(防虫剤)と同類である。一般的には部屋の消臭剤、便器及びトイレ用の脱臭ブロック、及び防虫用の燻蒸剤などの製品中で空間消臭剤として主に使用されている。

 人々はこれらの製品が使用されている屋内で多くの時間を過ごしているので、たとえわずかなレベルであっても呼吸器系に影響を及ぼすことを理解することが重要である−と NIEHSの この研究調査の研究員レスリー・エリオット博士は述べた。”職場を除けば、この特定の化合物の健康影響に関する研究はほとんどなされていない。”

 研究者らは第3回全国健康栄養試験調査(NHANES)からのデータ及びアメリカ人集団における一般的な農薬と VOCs のレベルを評価するために特別に設計された調査の要素を用いた。この NHANES III は、アメリカ人の健康と栄養状態を把握するために1988年から1994年の間に疾病管理予防センター(CDC)により実施された全国レベルの調査である。(訳注1

 VOC 血液測定及び肺機能測定をした20歳から59歳までの成人953人のデータは EHP の8月号に掲載される研究の中に示されている。(訳注:http://www.ehponline.org/docs/2006/9019/abstract.html
 分析には4つの肺機能測定値が用いられた。研究者らは血中の 1,4 DCB 濃度が上昇すると肺機能が少し低下することを見いだした。

 努力性肺活量(Forced Expiratory Volume)における最高及び最低レベルの間の初めの1秒間に呼出した量(FEV1)を測定するテストでにおいて約4%の低下が見られた。FEV1 は気道の機能と障害を評価するために一般的に用いられる指標のひとつである。

 研究者らは肺機能及び 1,4-DCB への暴露に関連するかもしれない個人の環境的要素の影響を評価した。暖房のタイプ、木材燃料の使用、家屋の年数、毛のあるペット、職業、社会経済的状況、環境的タバコ煙(訳注:二次喫煙)、喫煙歴、ぜん息又は肺気腫の診断などである。著者らは、調査対象者はこの調査では評価されなかったが呼吸器系の悪化と 1,4-DCB のレベルの双方に関連する他の作用因子に暴露していたかもしれないということに言及した。

 ”この研究は、1,4-DCB は呼吸器系疾病を悪化させるかもしれないことを示唆している”−と NIEHS の所長デービッド A. シュワルツは述べた。”NIEHS の新規疾病傾注アプローチの一部として研究者らはこの情報を呼吸器系疾病の病因論のより良い理解のために用いるであろう。”
 NIEHSは本年5月に、科学界が疾病の原因を理解し人の健康を向上させるために環境健康科学を用いることを 促進することを目的として”環境科学と人の健康の分野の新たな開拓”という新戦略を発表した。この計画は、http://www.niehs.nih.gov/external/plan2006/ でアクセスできる。

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 国立健康研究所の一部門である国立環境健康科学研究所(NIEHS)は、環境が人の健康に及ぼす影響を理解するための研究を支援する。環境健康のトピックスに関する詳細情報は、http://www.niehs.nih.gov/home.htm をご覧いただきたい。

 国立の医学研究機関である国立健康研究所(NIH)は、27の研究所とセンターを含み米保健福祉省の一部門である。それは基礎的、臨床的、そしトランスレーショナル(訳注:基礎的研究から臨床的現場への橋渡し的)医学研究を実施し支援する主要な連邦機関であり、一般的及び稀有な疾病の原因、手当て、治療を調査する。詳細は http://www.nih.gov をご覧いただきたい。

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オリジナル論文参照: Elliott L, Longnecker MP, Kissling GE, and London SJ. Volatile Organic Compounds and Pulmonary Function in the Third National Health and Nutrition Examination Survey, 1988-1994. Environmental Health Perspectives. Volume 114, Number 8, August 2006. View Article Abstract
http://ehp.niehs.nih.gov/docs/2006/9019/abstract.html


訳注1
米疾病管理予防センター(CDC)2005年7月21日/ヒトの環境化学物質暴露に関する第3回報告書 2005年 エグゼクティブ・サマリー(当研究会訳)

訳注2(参考資料)
Beyond Pesticides 2006年6月23日/モスボールやエアーフレッシュナー中の農薬成分に発がん性 コロンビア大学科学者が発見(当研究会訳)

詳細リスク評価書 p -ジクロロベンゼン −小野 恭子(産業技術総合研究所)


化学物質問題市民研究会
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