EHN 2015年2月9日
ミシガンのハクトウワシは難燃剤でいっぱい
ブライアン・ビエンコースキー(EHN)

情報源:Environmental Health News, February 9, 2015
Michigan's bald eagles full of flame retardants
By Brian Bienkowski(EHN)
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2015/feb/
michigan2019s-bald-eagles-full-of-flame-retardants


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2015年2月15日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_150209_Michigan's_bald_eagles_PBDEs.html


 新たな研究によれば、ミシガン州のハクトウワシは、廃止されている難燃剤によって地球上で最も汚染された鳥類のひとつである。

 先月、『Great Lakes Research』誌に発表されたその研究は、この五大湖における最上位捕食動物は、既に禁止されているのにいまだに環境中に広がっている難燃剤にひどく暴露していることを見つけた。

 ミシガンにおけるハクトウワシの生息数は安定しているが、この化合物は他の鳥類においては、生殖障害、奇妙な行動と発達、及びホルモンかく乱に関連している。

 ”ハクトウワシの PBDEs への感受性はまだ調査が必要であるが、ここで報告されている暴露は副作用と関係しているかもしれない”と、ミシンガン大学在任中にこの研究を率い、現在はカナダのマギル大学准教授ニル・バスはe-メールで述べた。

 40年以上前、各社は、製品が燃え始めた場合、その延焼を抑えるために家具のクッション、電子機器、衣料品などにポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)を入れ始めた。

 この化学物質は人体及び環境中に急速に蓄積した。PBDEs は、2000年台の初め頃からその使用が廃止され始めたにもかかわらず、現在も、空気、埃、人々の中に、そして五大湖を含む事実上地球上のどこにでも見出されている。

 この化合物は、それらが使用されている製品から漏れ出し、環境中に長い間留まることができる。ハクトウワシは汚染された魚を食べて暴露した可能性が最も高い。しかし、この化学物質はまた、それらを含む製品が埋立地に捨てられて、付着した埃をハクトウワシが吸入する、または羽をなめて体内に取り込むこともあり得ると、バスは述べた。

 この化学物質は、”いたるところに存在する”とバスは述べた。”それらは食物連鎖中に入り込み、ハクトウワシのような上位捕食者に最も高いレベルで蓄積する”。

 難燃剤は、アメリカから中国まで、世界中の鳥類の体内に見出される。

 研究者らは、ミシガン州天然資源局により2009年から2011年までに収集された33羽の死んだハクトウワシの肝臓組織をテストした。彼らは PBDEs の中の一般的な4種類をテストしたが、2羽を除くハクトウワシの肝臓中にそれら4種類の全ての化合物を検出した。

 PBDE の濃度は、”全ての野生動物の肝臓組織で見いだされた中で最も高いもののひとつであり”、あるハクトウワシの肝臓中の PBDEs 濃度は 1,538 ppb であったと著者らは書いている。アメリカ人の体内の PBDEs レベルは世界で最も高いもののひとつであり、米国人の母乳研究は PBDE 濃度は、PBDEsの種類は変化するが、その中央値は約 30 ppb であることを示した。

 ミシガン州天然資源局の野生生物病理学者トム・クーレイは、なぜ動物がミシガン州で死ぬのかを調べる任務についている。ハクトウワシについては、感電死、車との衝突、鉛中毒などがしばしばみられると彼は述べた。同州は通常、野生生物中の難燃剤を調査しない。

 ハクトウワシにみられる4つの主な PBDE 化合物は、ペンタ−PBDE 混合物として商業的に販売されており、プラスチック、電線絶縁材、車、ある織物製品などに使用されている難燃剤に由来していた。

 2009年に、ペンタ−PBDE はもうひとつの一般的な混合物オクタ−PBDE とともに世界中の国で廃止されるべき残留性汚染物質として国連のストックホルム条約に加えられた。

 しかし化学的前駆物質としていったん環境中に入り込むと、 PBDEs は”非常に高い残留性”を示すと、インディアナ大学の准教授マルタ・ベニエルは述べた。

 ”我々は、野生生物中に長期間 PBDEs が留まることを見ることができる”と、彼女は述べた。今回の研究では、研究者らはまた、ウイスコン州で2009年から2010年に収集された35体の死んだカワウソの肝臓組織中に PBDEs を見出した。

 ハクトウワシはミシガン州全体に営巣するとクーレイは述べた。このミシガン州の鳥は他の州と同様に、1950年代から1960年代の初めに絶滅の危機に瀕したが、その理由は主に、PCB 類と農薬中の DDT であった。

1960 年代後半に研究者らはこの問題に気づき、これらの化学物質の禁止と種の保護により回復をはかった。

 現在、ミシガン州の個体数は安定しており、増加しているとクーレイは述べた。”州内全体には”約750の巣がある”と彼は述べた。PBDEs についての研究は、この化合物に暴露した鳥はひどく損傷していたかもしれないことを示唆している。

 ワシ類は難燃剤だけに暴露しているわけではなく、数百という潜在的に有害な他の化学物質にも暴露しているので、”大きな懸念”があるとバスは述べた。”我々は、汚染物質がどのように健康に影響を及ぼしているのかについほんのわずかしか知っていない”と彼は述べた。

 PBDE 暴露が鳥類にとって何を意味するかに関する研究の多くは、捕獲したチョウゲンボウでなされていた。カナダの研究者らは、胎芽期のこの化合物への暴露は、オスの鳥に発達及び生殖障害を引き起こすことを見つけた。

 彼らはまた暴露を、低温度の巣殻の薄い小さな卵、遅い産卵、及び少ない求愛鳴き、少ない摂食のような異常な行動に関連付けた。

 化学物質は全ての鳥類に同じ様に影響を及ぼすわけではなく、したがってこの化合物がミシガンのハクトウワシに影響を与えているとしても、それがどのように影響を与えているのか明確ではない。

 ”もし健康問題があったとしても、それはレーダーの盲点のようなものであり、我々はここで報告されたように、必ずしも死んだ鳥に見い出すとは限らない”とクーレイは述べた。

 ハクトウワシは、最近の研究が示しているよりもっと多くの難燃剤を体内に持っているかもしれない。”研究者らは、 PBDEs の狭い範囲に焦点を当てていた”とベニエルは述べ、研究グループが調査した4種類以外に多くのその他の混合物があると付け加えた。

 バスは、禁止された PBDEs は、最終的にはワシ類の体内で減少するであろうが、”それが起こるまでには数年又は数十年かかるであろう”と述べた。

 さらに、現在は代替難燃剤もあり(訳注1)、よくわからないが潜在的な環境的健康リスクの懸念がある。

 ”難燃剤の市場は、幾分もぐら叩きゲームのようである”とベニエルは述べた。”ひとつが廃止されると同じ特性を持つ他のもうひとつが代替として導入されるので、きりがない”。


訳注1
EHP Science Selection 2015年2  代替難燃剤をたどる: 成人における手から口への暴露

米化学会 C&EN 2014年4月4日 科学者ら 新たな臭化難燃剤を消費者電気製品中に発見


化学物質問題市民研究会
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