Environmental Health News (EHN) 2024年9月23日
論説:プラスチックは最大の気候の脅威か? 気候と健康のためのプラスチック条約は、プラスチックの過剰生産に対処し、 石油化学およびプラスチック産業の計画的な拡大をくい止める必要がある。 ユユン・イスマワティ、パメラ・ミラー 情報源:Environmental Health News (EHN), Sep 23, 2024 Op-ed: Is plastic the biggest climate threat? A plastics treaty for the climate and health must address overproduction of plastics and head off the petrochemical and plastic industry's planned expansion By Yuyun Ismawati and Pamela Miller https://www.ehn.org/plastic-and-climate-change-2669236513.html 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2024年10月15日 このページへのリンク: https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/news/240923_ EHN_Op-ed_Is_plastic_the_biggest_climate_threat.html 国連主催の気候週間に世界中の人々がニューヨークに集まっているが、世界がプラスチックによる気候への脅威に注目すべき時期は過ぎている。 (訳注:Climate Week NYCは、国連事務総長の「気候サミット」をサポートする形で、9月22日〜28日にニューヨークで行われる各種の関連イベントである。|国連広報センター) 数十年間、化石燃料産業は当然ながら気候対策の標的となってきた。昨年、国連気候変動会議が数十年ぶりに化石燃料からの移行を求めることに合意したことは大きなニュースとなった。しかし、多くの人々がその声明の抜け穴を見逃した。すなわち、化石燃料生産国は、移行が”エネルギーシステム”における化石燃料からの移行であるという但し書き付きでのみこの文言に同意した。この合意では、プラスチックや化学物質の化石燃料からの移行については何も述べられていない。 電気自動車やその他の電化技術が急速に普及する中、石油・ガス業界はプラスチックとプラスチックの原料となる化学物質を新たな主要市場として見据えている。プラスチックは石油とガスに化学物質を混ぜて作られていること(訳注:プラスチック添加剤)を知らない人も多い。そのほとんどは化石燃料から生産される石油化学製品だ。プラスチックは業界にとって金の卵を産むガチョウであり、業界は生産の大幅な拡大に向けて準備を進めている。最近の報告書によると、シェブロン、シェル、石油生産国は、石油化学製品とプラスチックの生産に多額の投資をして、業界の衰退予測に対応している。彼らはプラスチックこそが自分たちの未来だと信じている。 (訳注:プラスチック製品:【原油】→【石油精製工場】→【ナフサ】→【プラスチック原料】→【プラスチック加工】→【プラスチック製品】Pla Matels) (訳注:添加剤とは、改質剤とも言われるもので、プラスチックの物性を改質するために添加する薬剤のことです。添加剤を入れることで、プラスチックに柔軟性を追加したり、劣化を防止したりといったように性質を改良することができます。代表的な添加剤(改質剤)として、可塑剤(かそざい)、酸化防止剤、発泡剤、導電剤、難燃剤などがあります。|sanipak) しかし科学者らは、プラスチックが増えると気候への脅威も増えると警告している。今年初めに米国政府のローレンス・バークレー国立研究所が行った調査では、プラスチックによる温室効果ガスの排出量は今世紀半ばまでに 3倍になり、地球の混乱が耐え難いものになるまでの残りのカーボン・バジェット(炭素予算)の 20%を占める可能性があることが判明した。他の研究者たちは、プラスチックや化学物質による汚染が、地球上の生命を維持するための「プラネタリーバウンダリー」をすでに超えていることを発見した。リサイクルを増やせばプラスチックの問題が解決すると言う人もいるが、プラスチックのリサイクルは数十年間に世界全体で 10%未満にとどまっており、プラスチックは有害な化学物質で作られているため、リサイクルはこれらの化学物質を新しい製品に広げるだけである。 (訳注:「カーボンバジェット」(炭素予算)とは、人間活動を起源とする気候変動による地球の気温上昇を一定のレベルに抑える場合に想定される、温室効果ガスの累積排出量(過去の排出量と将来の排出量の合計)の上限値をいう。EIC ネット) (訳注:プラネタリー・バウンダリー:地球の環境容量を科学的に表示し、地球の環境容量を代表する9つのプラネタリーシステム(気候変動、海洋酸性化、成層圏オゾンの破壊、窒素とリンの循環、グローバルな淡水利用、土地利用変化、生物多様性の損失、大気エアロゾルの負荷、化学物質による汚染)を対象として取り上げ、そのバウンダリー(臨界点、ティッピング・ポイント)の具体的な評価を行ったもの。EIC ネット) 気候変動協定では化石燃料からの「移行」を求めているが、産業界は 2050年までにプラスチックの生産を 3倍にすることを目指している。これは、化石燃料の抽出と石油化学製品の生産を増やし、それにより潜在的に壊滅的な気候、健康、環境への影響をもたらすことを意味する。 北極では、化石燃料、石油化学製品、プラスチック業界の必然の結果を毎日目にしている。我々の最近のレポートでは、北極は世界中のプラスチック汚染が蓄積し、気候、食糧安全保障、我々の健康、環境を脅かす有害化学物質を浸出させる「半球シンク(hemispheric sink)」であると指摘している。この報告書は、化学物質、プラスチック、気候変動が相互に関連しており、それらが組み合わさって北極圏の先住民の土地、水、伝統的な食物を汚染し、彼らの文化や地域社会を脅かす健康への影響が続いていることを示している。 インドネシアやグローバルサウスの国々では、産業界が化石燃料、プラスチック、化学物質の生産の拡大と、焼却や化学リサイクルなどの有害なプラスチック廃棄物処理技術を推進しており、大量の温室効果ガスと有害排出物を生み出している。すでに、世界中で管理不能なプラスチック廃棄物が気候を脅かし、特に廃棄物処理場、焼却炉、プラスチックリサイクル施設の近くに住む人々にとって、空気、水、食物連鎖の有害汚染を引き起こしていることを示す証拠がある。 化石燃料由来のプラスチックの生産増加は、気候だけでなく我々の健康も脅かす。最近の調査によると、プラスチックに使用されている 4,200 種類以上の化学物質が健康や環境に”非常に有害”であることがわかっており、さらに数千種類のプラスチック化学物質が安全性をテストされていない。プラスチックによく含まれる化学物質は、がん、脳の発達や行動への影響、不妊、精子数の減少、テストステロンとエストロゲンの減少、神経発達や IQ パフォーマンスへの影響、免疫システムの損傷、内分泌のかく乱など、さまざまな健康上の懸念に関連している。 国連気候週間が注目を浴びる中、世界はもう一つの重要な気候協定、国連プラスチック条約の交渉も進めている。これはプラスチック危機への対処を目的とした世界的合意である。その重要性を考えると、この条約はプラスチックのライフサイクル全体にわたる気候と有害物質の脅威に対処する気候と健康に関する合意とみなすべきである。プラスチックを炭素(化石燃料)と化学物質の混合物として理解し、化石燃料を抽出してプラスチックを製造した場合、プラスチック用の石油化学製品が製造された場合、プラスチックの生産と廃棄が近隣の社会組織を脅かした場合、プラスチック製品が消費者にリスクをもたらした場合、の気候と健康への影響に対処しなければならない。 つまり、気候と健康のためのプラスチック条約は、プラスチックの過剰生産に対処し、石油化学およびプラスチック産業の計画的な拡大を阻止する必要がある。これらの汚染をもたらす有害な産業を抑制するこの機会を逃すと、今後何世代にもわたって悲惨な結果を招く可能性がある。 著者について
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