IPEN 2022年5月
IPEN プラスチック条約 プラットフォーム
有害な化学物質類から人の健康と環境を守る

情報源:IPEN, May, 2022
IPEN Plastics Treaty Platform
Protecting human health and the environment from toxic chemicals
https://ipen.org/documents/ipen-plastics-treaty-platform

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会
更新 2022年5月30日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/IPEN/
220500_IPEN_Plastics_Treaty_Platform.html

有害化学物質類から人の健康と環境を守る

 プラスチックは、化学物質の複雑な混合物でできた材料であり、多くの場合、人間の健康や地球規模の生態系に有害であることが知られている化学物質類が含まれている。

 赤ちゃんは、プラスチックに由来する有害な化学汚物質類ですでに汚染されて生まれてくる。プラスチックの生産と使用に関連する残留性が非常に高い化学汚染物質類は、人体と、人間が依存している陸生及び海洋の野生生物と食物連鎖を汚染する。さらに、プラスチックの生産と環境中のプラスチック材料の分解の両方が気候変動に影響している。

 プラスチック及び化学製品の世界的な脅威は非常に懸念されており、プラスチックの生産は 2050年までに 400%増加する一方、プラスチック添加剤の市場も同様に拡大すると推定されている。また、2050年までに、プラスチックを含む石油化学製品の生産により、世界の石油需要は 50%増加すると予想されている。

 我々は人間の健康と将来の世代を守るためにプラスチック汚染を終わらせるための世界的な合意が必要である。

 我々は 2022年国連環境総会(UNEA)の決議訳注1)を歓迎する。それはプラスチックのライフサイクル全体に対処する法的拘束力のある世界条約の交渉を約束した。この条約の目標には、プラスチック汚染の原因や経路の中でも特に海洋プラスチック汚染を含んで、プラスチック汚染の防止、削減、及び廃絶が含まれる。

 意味のある条約を首尾よく開発するために、政府間交渉会議(INC)のプロセスは、参加がオープンで、包括的で、透明であることを保証しなければならない。 INC は、全ての交渉会議への実質的な参加(virtual access)を保証する必要があるが、世界の全ての地域の公益組織が直接参加することの重要性を認識し、低中所得国の組織への財政的支援を確保する必要がある。

 IPENの世界規模の組織ネットワークは、市民、労働者、脆弱な人々、及び先住民らの健康、並びにプラスチックに含まれる有害化学物質類に関連する環境に対するプラスチックの有害性の影響を排除するために、共同で取り組み続けるという公約を再確認する。プラスチック中の有害化学物質類の有害な影響を取り除くには、プラスチックの製造、使用、輸送、及び廃棄の全ての側面に対処する必要がある。

 プラスチックの健康への影響は十分に報告されている。プラスチック製造中に添加される化学物質類のほとんどは、健康にさまざまな悪影響を与えることが知られている。プラスチックに含まれる化学物質類のいくつかは内分泌かく乱化学物質であり、ホルモン系に害を及ぼし、不妊症、がん、神経発達障害を引き起こす可能性がある。ストックホルム条約及びバーゼル条約に基づくプラスチック及びプラスチック廃棄物に対する既存の国際的規制は重要であるが、十分ではない。残念ながら、これらのプラスチック類の多くは、妊娠中に母から子に移る可能性のある危険な化学物質類を放出し、将来の世代の健康を脅かす。

 したがって、我々は政府と利害関係者らに、プラスチックに含まれる有害化学物質類が我々の食品、体、水、土壌、及び空気を汚染しないよう、プラスチック条約交渉プロセスを 2030年までにプラスチック材料の完全な無害化を達成する機会とするうよう要請する 。

 我々は政府に対し、プラスチック条約を、空気、水、土壌、食料を得るなどの権利や、あるプラスチック成分によって脅かされている子どもを産む権利などの人権の享受に対するプラスチックの悪影響を取り除くためのツールとするよう求める。社会的に弱い公式及び非公式の両部門の労働者らは、特別な注意を必要とし、プラスチックの製造、使用、輸送、廃棄における、特に含有化学物質による有害影響に最早苦しむべきではない。

 この目標を達成するために、プラスチック条約は次のことを行わなければならない。
  1. ストックホルム条約の第1条と同様に、予防原則に基づいて、有害物質や気候汚染物質の抑制を含んで、プラスチックの全ての悪影響から人の健康と環境を保護するという全体的な目標を持つこと。

  2. 熱可塑性プラスチック(thermoplastics)、熱硬化性プラスチック(thermoset plastics)、熱可塑性エラストマー(thermoelastomers)を含む全てのタイプのプラスチックと、それらのライフサイクル全体で使用または生成される関連化学物質、及びマイクロプラスチックやナノプラスチックを含むあらゆる形態のプラスチック汚染に対処すること。

  3. プラスチックの必須でない使用を廃絶し、有害物質のない循環型経済のためのより安全で持続可能な材料への革新を促進すること。

  4. 削減と最小化に焦点を当てたプラスチックの持続可能な生産と消費につなげること。

  5. プラスチックの生産、輸入、輸出の種類と量(プラスチックとそれに関連する化学物質の全ての国境を越える移動に対する国際貿易 HSコードの使用の強化を含む)並びにプラスチック廃棄物の生成、収集、及び終了(end-of-life)の管理に関する報告と透明性を求めること。

  6. プラスチックの製造に使用される化学物質やプラスチックの原料として使用される化学物質の透明性を要求し、サプライチェーンで公開され、ラベル付けやデータベースを通じて市民に伝達されるようにすること。

  7. 有害化学物質のグループの特定と使用の段階的廃止につなげること。条約で指定されるべき段階的廃止の優先グループには、ビスフェノール類、臭素系難燃剤、塩素化パラフィン類、フタル酸エステル類、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤及び PFAS 類が含まれる。

  8. 有害で、ほとんどリサイクルされないポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン、ポリスチレン、フッ素化ポリマーなど、廃棄時に有害な汎用プラスチック類(優れた材料特性を必要としない用途向けに大量生産されるプラスチック類)の段階的廃止につなげること。

  9. 有害物質のない循環型経済へのスムーズな移行を確実にするために、有害な化学物質を含む既存のプラスチックの有害なリサイクルを確実に終わらせること。

  10. 予防原則に従って、プラスチックのライフサイクル全体にわたる健康への影響を評価することを求める。ストックホルム条約と同様に、科学的確実性が完全でないことを理由に行動を妨げてはならない。国の行動計画は、プラスチックのライフサイクル全体にわたる健康への悪影響を最小限に抑えることを特に目的とすべきである。

  11. ストックホルム、バーゼル、ロッテルダムなどの条約類、SAICM(国際化学物質管理への戦略的アプローチ) などの既存の環境協定の目的を推進すること。

  12. 廃棄物ゼロ戦略や非燃焼技術などの利用可能な最良の技術に焦点を当て、環境に配慮した”廃棄物の終了(end-of-waste)”(訳注2)政策を優先すること。プラスチック廃棄物管理からの有害排出物の生成と放出を防ぐために、政策は次の危険な慣行を防ぐ必要がある。野焼き、焼却、石炭火力発電所と廃棄物エネルギー返還プロセスでの同時燃焼、セメントキルンでの共同処理、及び化学リサイクル(訳注:主に廃プラスチックの油化・ガス化、コークス炉化学燃料化など)。

  13. 条約の実施のために新しく、追加の、持続可能で適切な資金を提供し、化学及び石油化学産業に、彼等の物質が引き起こす汚染の防止と修復への資金提供に貢献するよう求めること。

  14. 汚染者負担”の原則を適用すること。これは、プラスチックの生産、使用、投棄、輸入、輸出によって引き起こされる人間の健康、社会、環境への全ての影響の費用を、拡大生産者責任(extended producers' responsibility)などの政策を通じて回収することを求める。

  15. 市民社会のためのオープンで透明性のある包括的な参加を確保するとともに、公益団体が政府と協力して条約の実施とさらなる発展における協力的な複数の利害関係者のアプローチを可能にしつつ、特に低中所得国からの幅広い、性別及び地域的にバランスの取れた市民参加を確保するためのリソースを提供すること。

  16. 低・中所得の政府や市民社会に能力開発と技術移転のためのリソースを提供すること。

  17. 司法へのアクセスに関する規定を含む、条約の実施の有効性を確保するための法令遵守の仕組みを含めること。


訳注1:国連環境総会(UNEA 5.2)決議
訳注2:廃棄物の終了 (end-of-waste)


化学物質問題市民研究会
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