IPEN 2025年6月
クイックビュー:プラスチック条約 INC5.2
プラスチック汚染に関する国際的な法的拘束力のある条約策定のための
政府間交渉委員会(INC-5.2)再開会合のクイックビュー

情報源:IPEN, June 2025
Quick Views: Plastics Treaty INC5.2
Quick Views on The Resumed Fifth Session of The Intergovernmental Negotiating Committee (INC 5.2)
to Develop An International Legally Binding Instrument on Plastic Pollution
https://ipen.org/documents/quick-views-plastics-treaty-inc52

訳[翻訳ソフト併用]:安間 武 (化学物質問題市民研究会
更新 2025年8月6日
このページへのリンク:
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/INC52/
IPEN_250600_Quick_Views_Plastics_Treaty_INC52.html

健康を保護し効果的なプラスチック条約に向けて

 プラスチック条約に関する第5回政府間交渉委員会(INC-5)の交渉は2024年12月に中断され、12月1日に議長が草案として提示した条約の枠組みの改訂版をもって終了した。

 残念ながら、INC議長による現在の草案には、人々の健康を守るために必要な規定が欠けている。交渉は大きく進展し、いくつかの国がプラスチック生産の削減と有害化学物質の排除を約束しているものの、プラスチック条約案は、法的拘束力のある義務を通じて人々の健康と環境を効果的に保護するために強化されなければならない。

 将来のプラスチック条約交渉を最終決定するにあたり、INC は、意味のある世界的な規制が条約の健康保護の目的を支え、プラスチックのライフサイクル全体に対処することで、INC が UNEA(国連環境総会) の決議 5/14を遂行することを確保する必要がある。(訳注:UNEA Resolution 5/14 entitled “End plastic pollution: Towards an international legally binding instrument” UNEP 10 May 2022

 各国は、8月5日から14日までジュネーブで開催される INC-5.2 において、プラスチック汚染危機に意味のある形で対処できる野心的な条約の基盤を構築する機会を得ている。ジュネーブ会合では、交渉プロセスの欠陥を修正し、市民社会の役割を強化し、最終的な条約にプラスチックのライフサイクル全体にわたる強力で法的拘束力のある世界的な規制措置が含まれるようにしなければならない。

INC-5.2 代表者らへの重要なメッセージ

機能不全に陥ったINCプロセスの是正と、オープンなアクセスと参加の確保:
  • INC は手続きの規則を明確にし、少数の国々が進捗を妨害するのを防ぐため、投票を実施しなくてはならない。

  • プロセスは、市民参加、情報へのアクセス、そして司法へのアクセスを確実にしなくてはならない。議長は、交渉(文書案に関する議論を含む)が市民社会団体に開かれたものとなるようにしなければならない。参加制限の提案は、総会でその正当性が示されるべきであり、必要不可欠と判断された場合は、可能な限り限定的なものに留めるべきである。公益団体、先住民族、地域に根ざした活動家、そして低・中所得国のその他の人々は、プラスチックや有害なプラスチック化学物質類の危険性によって最も直接的な被害を受ける人々を代表していることが多いため、彼らの声はこれらの問題への対処において極めて重要である。
意義のある健康保護条約の文言は以下のようでなくてはならない
  • 汚染を終わらせるのに効果のない自主的な又は国家的な措置ではなく、野心的で法的拘束力のある世界的な規制を通じて、人々の健康を保護する。

  • 製品と化学物質類、設計、排出、放出、漏出、廃棄物管理に関する規定を強化し、条約に有害化学物質の削減と廃絶のためのメカニズムまたは手続きが含まれるようにする。

  • ”適切な場合”や”各国の事情に応じて”といった、世界的な規制を弱める文言を削除することにより、法的拘束力のある義務を維持し、世界的な取り組みを強化する。プラスチック危機は世界的な問題であるため、解決策も世界的なものでなければならない。

  • 合意形成に向けた努力が尽くされた場合、締約国会議が多数決で投票できるような効果的な意思決定プロセスを構築する。

  • 汚染者負担原則を導入し、一次プラスチックポリマーを製造・輸出するプラスチック生産国から、新規かつ追加的で持続可能かつ予測可能な財政的・技術的支援を提供する独立した財政メカニズムを構築する。資金は上流の規制措置に優先的に配分されるべきである。

 市民参加、情報へのアクセス、救済へのアクセス、そして司法へのアクセスを確実にする。

プラスチック製品に関する第 3条は、健康を守るために不可欠である。これらの規定が人の健康を確実に保護することを保証するために、INC は以下の事項を確実にしなければならない。
  • 条項のタイトルには、規定の範囲を反映して”化学物質類(chemicals)”という語を含める。IPENは”プラスチック製品及び化学物質類というタイトルを推奨する。

  • 化学物質の特定、評価、管理において、化学物質類のグループを含むグループ化アプローチを採用することにより、有害な(いわゆる”残念な”)プラスチック化学物質の代替を防止するためのメカニズムを設ける。

  • 現在パラグラフ 8bis に規定されている、既知の有害化学物質の透明性と追跡性に関する義務は、個々のプラスチック製品に含まれる化学物質の入手可能性と追跡性を確保するため、維持される。

  • プラスチック材料への使用が禁止される化学物質群の初期リストが提供され、特にストックホルム条約で規定されていない化学物質(フタル酸エステル類、ビスフェノール類、鉛、カドミウム化合物類、その他の内分泌かく乱化学物質類、生殖毒性物質類及び発達毒性物質類、発がん性物質類など)に重点が置かれている。

  • この条約は、COP に対し、化学物質リストを随時更新するための勧告を提供できる科学的検討委員会を設置する。

 議長草案には、人の健康と脆弱な集団の保護を強化するための更なる勧告が含まれている。
  • 第1条 目的:人の健康と環境の保護は、条約の目的の中核を成すものでなければならない。

  • 第5条 プラスチック製品の設計:この条項は、すべての有害化学物質が特定され、製品設計の改善を通じて、より安全な代替物質に段階的に置き換えられるよう、強化されなければならない。

  • 第6条 供給 [持続可能な生産]:INC が、プラスチックの供給と生産量に関する世界的な法的拘束力のある管理と透明性要件を維持することが不可欠である。規制介入がなければ、プラスチックの生産量は劇的に増加し、気候、環境、人権、健康問題が増加すると予測されている。プラスチックの生産量の増加は、汚染の増加を意味する。人の健康と環境を保護するため、プラスチック条約は第6条を強化し、プラスチック生産の即時削減と制限のためのメカニズムを確立すべきである。科学的証拠は、化学物質とプラスチックによる汚染が”地球の限界(planetary boundaries)”を超えていることを示しており、これはプラスチックの生産と排出が地球全体の生態系の安定を脅かしていることを意味する。プラスチックの生産量全体を削減するメカニズムがなければ、条約の他のいかなる規定も効果が低下し、実施コストが大幅に増加することになる。

  • 放出、排出、漏出に関する第7条:第7条の適用範囲は、汚染物質排出移動登録(PRTR)に関するキエフ議定書に基づくプラスチック汚染排出移動登録制度(PRTR)を含む、プラスチックのライフサイクル全体にわたる有害化学物質類および化学物質群(重金属を含む)の放出と排出を包含するように強化されるべきである。

  • プラスチック廃棄物管理に関する第8条:リサイクルは、プラスチックが有害化学物質類を含まない場合にのみ促進されるべきである。さらに、熱分解(有害化学物質の排出につながる化学リサイクル)を含む焼却、廃棄物固形燃料(RDF:セメント窯、発電所、産業用ボイラーで使用される)、プラスチックペレット、ブリケットの製造といった廃棄物管理慣行は禁止されるべきである。プラスチック廃棄物のエネルギー回収に関する言及は削除されるべきである。

    (訳注:RDF/ごみ固形燃料:生ごみ・廃プラスチック、古紙などの可燃性のごみを、粉砕・乾燥したのちに生石灰を混合して、圧縮・固化したものをさす。乾燥・圧縮・形成されているため、輸送や長期保管が可能となり、熱源として利用される。・・・RDFを焼却する処理施設は、ダイオキシン類をはじめ、大気汚染物質の排出抑制措置がとられ、粉塵の飛散防止、廃ガス処理、ダイオキシンの濃度測定などが義務付けられている。|EIC ネット

    (訳注:プラスチックペレットは使用済みプラスチックを破砕、洗浄、溶融し、加工しやすいように直径3〜5mm 程度の粒状に成型した素材のことで、ほぼすべてのプラスチック製品の原料として使用される。・・・2021年5月、スリランカのコロンボ沖でプラスチックペレットの大規模な流出事故が起きた。インドからスリランカまで各種ポリマーのペレットを積載した422本のコンテナを含む1377本のコンテナを輸送中の船、X-Press Pearl 号が火災に見舞われ、一部が沈んだことによる流出であった。流出したペレットはスリランカの海岸線 300km以上にわたって漂着し、回収作業には多くの時間を費やすこととなった。|プラスチックペレット規制動向:EnviX

    (訳注:ブリケット(briquet)は、いわゆる豆炭と呼ばれる、石炭粉などを固めてつくる燃料のこと。バイオブリケットは、原料におがくずや稲わら、砕いたトウモロコシの芯などの植物性廃棄物(バイオマス)を15-20%混ぜ、脱硫のための消石灰を加えて、高圧で成形した燃料のこと。1980年代に日本で開発された。|EIC ネット

  • 第19条(健康に関する条項):健康に関する条項は、各国がプラスチック生産プロセスやプラスチック化学物質類の使用によるものを含め、健康への影響を防止するための戦略とプログラムを策定し、安全で健康的な労働環境を含む、清潔で健康的かつ持続可能な環境への権利を擁護し、WHO により推奨されるワンヘルス・アプローチを適用することを確実にしなければならない。こうした規定は、例えばバイオモニタリングを通じてプラスチックの健康影響をより適切に監視し、医療分野におけるプラスチック化学物質類やプラスチック汚染への暴露リスクを理解する能力を高めることを確実にすべきである。

    (訳注:ワンヘルス(One Health)とは:人や動物の健康と、それを取り巻く環境を包括的に捉え、関連する人獣共通感染症などの分野横断的な課題に対し、関係者が連携して取り組む概念|厚生労働省

 汚染者に負担させる(第11条 - 資金メカニズム)

 プラスチック汚染は、プラスチックおよび有害なプラスチック化学物質類の抑制されない過剰生産によって引き起こされる世界的な危機である。

 最近の調査によると、生産削減のための措置が取られなければ、2050年までにプラスチック生産による CO2 換算排出量は 2019年比で 2倍以上に増加するとされている。石油化学業界は、プラスチックやその他の化学物質類の生産に化石燃料をもっと多く投入することを検討しており、2060年までに地球上のプラスチックの量は 4倍になる可能性がある。生産量の増加は、プラスチックのライフサイクル全体を通じて、有害化学物質類を含む放出、漏出、排出量を増加させる。

 一次プラスチック市場の内部収益は年間 6,000億〜7,000億米ドル(約90兆円〜100兆円)と推定されている。現在、社会が負担している外部化コストは、年間 2,930億〜1兆5,000億米ドル(約43兆4,000億円〜222兆円)と推定されている。これは、地域社会がすでに生態系と人間の健康への影響という点で、プラスチック汚染危機のコストを負担していることを意味する。

 主要な汚染者は、プラスチック製造業者と、一次プラスチックおよびプラスチック製品を大量に輸出する国である。プラスチック条約には、”汚染者負担原則(polluter pays principle)”を組み込まなければならない。これは、一次プラスチックポリマーの主要純輸出国であるプラスチック製造国が、その活動に伴う環境および健康へのコストを全額負担することを確実にするためである。輸出国の産業は、健康コスト、環境影響、使用済み製品の管理など、これらの材料に関連する負債を内部化することなく、プラスチック輸出から利益を得ている。

 この不公平に対処し、効果的な実施を可能にするために、条約は以下の措置を講ずるべきである。
  • 上流の規制措置に資金を提供するための専用の金融メカニズムを構築し、予測可能で十分な追加資金を通じて、低・中所得国によるプラスチック汚染対策を支援する。

  • 資金は、一次プラスチックポリマーおよびプラスチック製品の純輸出国であるプラスチック生産国から調達されることを確実にする。

  • 汚染料や拡大生産者責任制度など、プラスチック条約に基づく規制措置の実施にプラスチック生産者が資金を拠出することを確実にする経済的手段を推進する。ただし、これらの経済的手段と料金が、プラスチックの有害な影響による社会、環境、健康へのコストを内部化できる範囲とする。


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る