Food & Water Watch 2025年6月26日
大手 IT 企業が原子力発電の復活を狙う
それは、やはり恐ろしい考えだ

ナタリー・バルブエナ&ミア・ディフェリーチェ
情報源:Food & Water Watch, June 26, 2025
Big Tech Wants to Bring Back Nuclear.
It's (Still) an Awful Idea.

By Natalie Balbuena and Mia DiFelice
https://www.foodandwaterwatch.org/2025/06/26/
big-tech-nuclear-small-modular-reactors/


訳[翻訳ソフト併用]:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2025年7月22日
このページへのリンク:
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_25/
250626_FWW_Big_Tech_Wants_to_Bring_Back.html


 大手 IT 企業と原子力推進派は、小型モジュール炉を”気候変動対策”として推し進めている。しかし、原子力は太陽光や風力といった再生可能エネルギーの脅威となり、その妨げとなる。

(訳注:小型モジュール炉( Small Modular Reactors: SMR)は従来の原子炉よりも小型の核分裂炉。一般的な原子力発電所の電気出力が 1基100万キロワット程度であるのに対して、SMR は30万キロワット以下、または熱出力が 1000 MWth未満の炉を指す。送電インフラがない地域で発電できるほか、大きな電力を得たい場合は複数のSMRを連結することを想定している。SMRは工場で製造され、設置場所に輸送されるように設計されている。・・・ウィキペディア

(訳注:3.2 日本国内の SMR 開発支援政策:日本原子力研究開発機構

 大手 IT 企業はエネルギー消費量を大幅に増やす計画を立てており、その実現策として原子力発電に目を向けている。業界は、ソーシャルメディアで見られる動画ストリーミングから急成長の人工知能(AI)まで、あらゆるものを支えるエネルギー大量消費のデータセンターを全国各地に次々と建設している。

 AmazonGoogleMicrosoft といった IT 企業は、(既に疑わしい)気候変動対策目標を堅持するため、原子力開発企業に加わり、小型モジュール炉(SMR / small modular reactors)の開発を進めている。SMR の支持者たちは、SMR は従来型原子力発電所よりも”安全で安価な”代替案だと主張している。しかし、これは非常に誤解を招くものだ。

 実際には、小型モジュール炉は従来型原子力発電と同じ多くのリスクをはらんでいる。つまり、SMR は危険で、費用もかかるのだ。こうした原子炉の普及を許せば、エネルギーコストが上昇し、既に疎外されている地域社会を危険にさらす可能性が高い。

 さらに、原子力発電所の建設は、太陽光や風力といった、原子力よりも安価で安全、そしてはるかに危険性が低いことが既に証明されている真の再生可能エネルギーの開発を阻害することになる。

 それにもかかわらず、開発業者は、従来型原子力発電や先進原子力技術の発展のために、納税者資金によるさらなる利益を追求している。彼らは政府やテクノロジー企業と提携し、”小型”モジュール炉を地域社会に導入しようとしている。

 これを許してはならない 4つの理由を挙げよう。

1. SMR は実証されておらず、十分に研究されていない

 小型モジュール炉は、従来型原子力発電所よりも小型である。工場で部品として製造され、輸送・設置される。サイズは様々で、数十エーカー(訳注:1エーカーは約 4047m2)もの土地を覆うほどの巨大なものもある。

 これらの原子炉は、今のところ実際にはそれほど多くの電力を発電していない。世界で稼働しているのはわずか 3基で、米国には 1基もない。

 数十年にわたり開発が進められ、今では他のほとんどの発電形態よりも安価になっている風力や太陽光といった再生可能エネルギーと比べていただきたい。より優れた解決策が目の前にあるにもかかわらず、実証されていないSMR に投資することは、地球への影響がそれほど深刻でなければ、笑いものになるであろう。

2. SMR は原子力の環境汚染問題を解決しない

 米国は、従来型の原子炉を数十年にわたって稼働させてきたにもかかわらず、いまだに核廃棄物問題を解決できていない。原子力発電は、ウランの採掘と濃縮から使用済み核燃料に至るまで、そのライフサイクル全体を通じて放射性廃棄物を排出する。

 現在、米国には使用済み燃料の長期貯蔵の選択肢が存在せず、そのほとんどは原子炉敷地内に保管されており、これは放射性物質の放出につながる可能性がある。 2011年のある調査では、調査対象となった 65か所の原子炉施設のうち、少なくとも 48か所から放射性物質が漏洩しており、一部の物質は飲料水井戸を汚染していることが明らかになった。

 SMR の導入は、既に処理が困難な核廃棄物をさらに増加させるであろう。従来の原子炉と比較して、使用済み燃料の量が増える可能性さえある。

 原子力エネルギーは、健康や環境に悪影響を及ぼしてきた重金属であるウランに完全に依存している。研究では、ウラン採掘が鉱山労働者の肺がんと関連していることが示されており、採掘によって放射性金属が近隣の水源を汚染する可能性もある。また、ウランは農業用土壌に付着し、作物に吸収される可能性もある。

 さらに、水冷式 SMR は大型の原子炉 に比べて効率が低いため、同じ量のエネルギーを生成するのに多くのウランを使用する。その結果、採掘、精製、輸送されるウランの量も増加する(それぞれにリスクが伴う)。

 そして、ますます水不足が深刻化する世界において、原子力は風力、太陽光、そしてガスと比べてもはるかに多くの水を必要とする。干ばつと水不安が深刻化するこの国で、原子力発電のために水を無駄に使う余裕はない。特に、はるかに少ない水で済む選択肢があるのに。


天然ガス、石炭、原子力、風力、太陽光の
1メガワット時あたりの取水量と消費量
原子力は1メガワット時あたり約 94立方メートルの水を取水しているのに対し、風力と太陽光はそれぞれ 0.001 立方メートルと 0.040 立方メートルである




3. SMR はより多くの地域社会を危険にさらす

 従来型原子炉 1基の出力を満たすには複数の SMR が必要であり、より多くの地域社会に原子力災害のリスクをもたらす。そして、これらのリスクは、すでに人種差別、階級差別、投資不足、そして不均衡な規模の汚染に直面している地域社会に降りかかる可能性が非常に高い。

 歴史的に、原子炉のような望ましくない施設は、政治的権力を持たない社会的に疎外された地域社会に建設される傾向がある。ある研究によると、原子力発電所の緊急計画区域(半径50マイル)内の地域社会は、区域外の地域社会と比較して、有色人種の割合が高いことがわかった。

 そして、不平等なのは原子炉の影響だけではない。SMR は依然としてウランに依存しており、ウラン採掘事業に従事し、その周辺で暮らす、無力な地域社会の人々に悪影響を及ぼしてきた暗い歴史がある。

4. SMR は大きな負担をもたらす

 小型モジュール炉は大型原子炉よりも建設費は安価であるが、大型原子炉と同等の規模の経済性を達成できないため、発電量あたりのコストは高くなる。モジュール化(個々の要素を大量生産し、輸送して現場で組み立てる)によってSMRは経済的に実現可能になる可能性がありるが、実際に適用された例はまだない

 これまでのところ、我々は失敗作しか見ていない。米国初のSMRプロジェクトは、2023年に中止されるまでに 2億3200万ドル(約343億円)の納税者の資金を費やした。

 しかしながら、連邦政府は原子力発電に注力している。バイデン政権は、巨大 IT 企業の影響もあって増加するエネルギー需要に対応するため、米国の原子力発電能力を 3倍に増強することを提唱した。同政権は、ミシガン州の原子炉を再稼働させ、SMR を2基増設するために、最大15億ドル(約2兆2000億円)の融資を承認した。現在、トランプ大統領は、太陽光発電と風力発電への資金を削減する一方で、原子力発電への連邦政府の支援を強化している。

 一部の州も原子力発電を推進していrる。例えば、ニューヨーク州はエネルギー省の助成金を求める開発業者の提案を支持し、州の気候変動対策目標達成における原子力発電の役割の可能性を検討している。キャシー・ホークル知事は SMR を推進しテクノロジー企業の州内誘致をはかっている。

 こうした動きの中で、ニューヨーク州当局は、同州が原子力発電によって痛手を負ってきた歴史を完全に無視している。 1995年、ロングアイランド・ライティング社(Long Island Lighting Company)は、一度も発電したことのなかった原子力発電所を閉鎖し、ニューヨーク州の電気料金支払者に42億ドル(約6200億円)の負担を強いた。

 同様に、2016年には、当時のアンドリュー・クオモ知事が、老朽化した 3基の原子力発電所に対する 80億ドルの救済措置を承認した。今日に至るまで、ニューヨーク州の料金支払者は、原子力発電所からのエネルギー(電気)を全く利用していない人々でさえ、高いエネルギー(電気)料金でその費用を負担している。

SMR 反対、大手 IT 企業反対 − クリーンで安価な、そして実績のある再生可能エネルギーを支持

 SMR は、大手 IT 企業が事業コスト(エネルギーコストから有害な放射性廃棄物まで)を、我々一般市民に押し付けるための、もう一つの手段にすぎない。地域社会が新しい原子力発電所の余波に対処している間、IT 企業はがっぽり稼ぎ続けるであろう。そして、彼らはその利益を、国民の税金からなる補助金や高いエネルギー(電気)料金を通じて、我々から直接収奪するのである。

 さらに、政府が原子力発電を支援し続ければ、風力や太陽光といった、より安全で低コストかつ信頼性が高いことが既に証明されている再生可能エネルギー源の建設に向けた取り組みが阻害されてしまう。今こそ、この問題の芽を摘み取り、大手 IT 企業の原子力計画に反対し、真に再生可能な未来を推進すべき時だ。

 
化学物質問題市民研究会
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