フランス 24 2023年10月24日
ガザやそれ以外の地域で
紛争が気候変動に遭遇するとき


ララ・ビュレンズ
紛争の最前線で暮らす人々は、しばしば気候危機の最前線にも立っている。
スーダン、アフガニスタン、イエメンなど、気候変動に対して最も脆弱な国の
多くもまた、不安定さを経験しており、その課題に適応する能力が十分ではない。
そして、ガザ地区も間もなく、気候危機と武力紛争が出会うゴルディオスの結び目に
なるだろうと警告する人もいる。

訳注:ゴルディオスの結び目(英: Gordian Knot):フリギアのゴルディオス王が結んだ複雑な縄の結び目。これを解いた者はアジアを支配するという伝説があったが、アレクサンドロス大王が剣で両断し、アジアを征服した。転じて、難題。難問。(コトバンク/デジタル大辞泉

情報源:France 24, October 24, 2023
When conflict meets climate change, in Gaza and beyond
By Lara BULLENS
https://www.france24.com/en/middle-east/20231024-
when-conflict-meets-climate-change-in-gaza-and-beyond


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年11月1日
このページへのリンク:
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_23/231024_
France24_When_conflict_meets_climate_change_in_Gaza_and_beyond.html



2022年1月16日、ガザ地区北部のジャバリア難民キャンプを襲った豪雨の後、浸水した家から避難した男性を肩に担ぐパレスチナ人の消防士。(c)Mahmud Hams、AFP
 残酷な運命のいたずらのように思えるかもしれないが、紛争下にある国々は気候変動に最も脆弱な国々でもある。 2021年のノートルダム世界適応イニシアチブ(NDゲイン)指数で気候変動に対して最も脆弱とランク付けされた 25カ国のうち、イエメンアフガニスタンスーダン、コンゴ民主共和国を含む 14か国が現在、武装暴力に直面している

 気候変動と紛争の間に直接の相関関係はないが、戦争中の国々は国内分裂や進行中の暴力によって適応能力が損なわれているため、気候変動の影響に対処する能力が低くなっている。

 気候変動は、減少する必需品へのアクセスをめぐる既存の緊張をさらに高める可能性もある。

 ”一方が他方を悪化させる”と国際開発の専門家でヨーク大学助教(assistant professor)のイヴォンヌ・スーは言う。”ある場所が気候変動に脆弱な場合、人々は資源をめぐって争いを起こす可能性がある。”

 ガザ地区で暴力が再び勃発した今、専門家らは、ガザ地区の住民はこれまで以上に脆弱になっていると述べている。

広範囲にわたる影響

 気候変動と紛争はどちらも大規模な避難民化させる可能性があり、資源に負担をかけ、既存の緊張を悪化させる可能性もある。

 赤十字国際委員会(ICRC)が発行した2020年の報告書によると、紛争と気候変動の波及効果は、特に土地問題と資源に関して広範囲にわたる破壊を引き起こす可能性がある。 2021年2月の ICRC とのインタビューで、同組織の経済安全保障プログラムの元責任者イブラヒマ・バーは、”気候変動と武力紛争の影響がいかに広範囲に及ぶかを示す明らかな例”として中央アフリカ共和国を挙げた。

 サヘル地域とチャド湖地域の不安定により、多くの牛飼いや農民が家畜のための緑の牧草地を求めて中央アフリカ共和国に押し寄せている。 しかし、60年以上不安定に苦しみ、食糧不安が蔓延しているこの国では、これが新たな緊張を加えている。 この地域での武装暴力のため、遊牧民はもはや伝統的な移動ルートをたどることはできず、最終的には村や畑の近くに定住し、そこで土地や資源を求めて地元民と争っている。 通常、紛争の解決に協力してきた当局が安全上の懸念から特定の地域から撤退し、その結果、衝突が勃発している。

 バーはインタビューで、”この状況から金が儲かる可能性があるため、暴力行為に加担する武装集団がますます増えている”と語った。

 世界で最も気候変動に脆弱な国のひとつであるソマリアは、数十年にわたる紛争に苦しんできた。 長年にわたる暴力は一連の深刻な干ばつによって拡大し、国の国家建設プロセスに圧力を加えているだけでなく、より多くの人々を避難民化させている。

 2023年7月、ソマリアで紛争、干ばつ、
洪水により 380万人以上が避難民化していると国連は報告した世界銀行報告書によると、この大量の避難民化に起因する土地問題と紛争が緊張をさらに悪化させている。 たとえばソマリア中南部では、土地の占有問題が蔓延している。 長期間にわたって国内避難民となっていた人々が帰還すると、自分たちの土地が他人に占領されていることに気づき、衝突が起こることがよくある。

 国連によると、武力紛争と気候変動が食糧不安の 2 つの主な要因である。 紛争は、特に関係国が生活必需品の主要生産国または輸出国である場合、劇的な波及効果をもたらす可能性がある。 ヨーロッパの穀倉地帯であるウクライナは、世界の小麦生産量の約15パーセントを占めている。 ロシアとウクライナを合わせると、世界のヒマワリ生産量の 80パーセントを占める。 戦争により両方が不足し、世界中で食料価格の高騰をもたらした。

もう一度繰り返すが、今回は国連安全保障理事会(#UNSC)からではなく、サヘルの真ん中からである。
武装的暴力は食糧不安の主な原因であり、気候緊急事態は既存の緊張を長引かせ、脆弱性を永続させている:不作、水不足、地域間暴力など pic.twitter.com/8iiAhPAjAe

パトリック・ユーセフ(赤十字国際委員会、2022年10月26日)

 武力紛争は、国の自然環境に大損害を与える可能性もある。赤十字国際委員会(ICRC)によると、紛争の80%以上は、世界の植物や希少種の半分が生息する生物多様性ホットスポットで起きている。 環境悪化は悪循環を引き起こし、気候変動を引き起こすだけでなく、気候変動に適応する人々の能力を低下させる。工業用地の急増や森林などの緑地の破壊により、大量の温室効果ガスが大気中に放出され、地球の温室効果ガスの再吸収能力が低下する。

 ”一般に、気候変動と紛争がどのように重なるかは、避難民や資源を巡る争いと大きく関係している”とスーは説明する。 ”完璧な嵐のようだ。”

 ”そしてガザは本当に資源が乏しい状況の一例である。”

ガザの気候や紛争から”逃げる場所はない”

 国際機関は、10月7日にイスラエルとハマスの間で戦争が始まるずっと前から、ガザ地区のインフラと衛生設備の深刻な不足について警告していた。220万人が住むこの地区は、長さわずか 41キロ、幅10キロで、ワシントン DC の大きさのおよそ2倍であり、世界で最も人口密度の高い地域のひとつとなっている。 住民は恒常的に食料、水、電気、医療サービスの不足に直面している。

 しかし、国家安全保障研究所(Institute for National Security Studies)の2022年6月の出版物によると、この地帯は気温の上昇、降水量の減少、海面の上昇、そしてより頻繁に起こる異常気象にも直面しており、これらはすべて気候変動によってもたらされているという。

 ”ガザにおける脆弱性の主な要因は紛争である。 そして、増大する気候リスクは人々の脆弱性を悪化させている”と、気候問題に関する取り組みを主導する赤十字国際委員会(ICRC)の政策責任者キャサリン・ルーン・グレイソンは言う。

 2022年1月、ガザでは激しい洪水が発生し、数百の建物が被害を受け、排水システム全体が停止し、人々は家を追われた。 もし今、異常気象がこの地域を襲い、基本的なニーズへのアクセスが不可能なほど制限されているとき、地元住民は対処する手段を持たないであろう。

 ”長期にわたる占領と封鎖により、ガザの人々は他の環境に比べて手段が限られている。 適応戦略のひとつは、たとえば、より肥沃な土地や水を求めて移動することである。 しかし、それはガザの人々にとって選択肢ではない”とグレイソンは説明する。

 スーは、この地域における気候変動によって引き起こされる異常気象の影響は”即時かつ恐ろしいものになる”と付け加えた。

 ”逃げる場所がない…人々は高い場所を求めてどこへ行くのだろうか? 災害が起きたらどこで再建するのか?”

 欧州委員会が発行した INFORM リスク指数によると、パレスチナ自治区は気候変動に対して最も脆弱な 25 地域のひとつである。

紛争により優先順位が変わる

 最良の状況下であっても、気候変動に適応するには、社会的、経済的、文化的な大規模な見直しが必要である。 たとえば、より耐性の高い作物を栽培するために農業システム全体を変える必要があるかもしれないし、気温の上昇によって発生する病気に対処する必要があるかもしれない。 紛争下では、当局は安全保障に重点を置くあまり、これらの課題を優先することができない。

 ”最下位にランクされた国々は、気候変動に対して最も脆弱であるだけでなく、適応する準備が最も整っていない。 彼らは(気候変動に)直接さらされることは少ないかもしれないが、あらゆる種類のストレス要因に対処する準備ができていないため、あらゆる種類のリスクに対して非常に脆弱になる可能性がある”とグレイソンは言う。

 ”紛争の影響は、死やインフラの破壊など、目に見えるものを超えている。 それは組織自体に影響を与える”と彼女は説明する。”水道、学校、保健センターへのアクセスなどの不可欠なサービスが破壊される可能性があり、それは経済に影響を及ぼし、社会の結束にも影響を及ぼす。つまり、社会があらゆるショックに対処する能力が低下することを意味する。 そして、気候変動により、気候関連のショックが増大している。”

 国際赤十字委員会(ICRC) によれば、安定した国と脆弱な国の間では気候変動対策への資金提供にも考慮すべき格差があるという。 多くの国は気候変動に対して最も脆弱な国であるにもかかわらず、財政面で無視されている。

 ”気候変動資金が紛争国にほとんど届かないのは紛争のためである。これらの環境では、機関が必ずしも強力ではなく、簡単に資金を流したり、資金を申請したりすることさえできない環境である”とグレイソンは言う。”紛争下にある国は、正当な理由があって、自国の領土の安全を回復することに非常に重点を置く傾向があり、気候リスクの長期的な影響に目を向けていない可能性がある。”

 しかし、これには非常に重要な警告が伴うと、赤十字国際委員会(ICRC)の政策責任者は指摘する。”フランスやスイスのような安定した国でさえ、現在、気候の変化に適応するのに苦労している”とグレイソンは言う。

 1977 年にジュネーブ条約に追加議定書が追加され、自然保護を確保する戦争規則が定められた。 国際法は、農地や飲料水インフラなど民間人の生存に不可欠な目標への攻撃を禁止している。

 赤十字国際委員会(ICRC)は現在、現在の課題に直面したガザの回復力を強化する方法に取り組んでいる。 ”例えば、発電に影響があった場合でも給水所が機能し続けることを保証する方法を検討している”とグレイソンは言う。

 ”私たちは紛争によるショックだけでなく、気候変動によるショックに対する回復力も高める必要がある。”

化学物質問題市民研究会
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