EHP 2006年4月号 Spheres of Influence
不公正な貿易−アフリカにおける電子廃棄物

情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 4, April 2006
Unfair Trade: e-Waste in Africa
http://www.ehponline.org/members/2006/114-4/spheres.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年4月12日

 アフリカのインフォメーション・テクノロジー分野の明るい面と暗い面は、ナイジェリアのラゴス近辺のイケジャ・コンピュータ村で明確に示されている。数千人の業者が、輸入された中古電子機器を修理し販売する3つの主要な拠点のひとつであるこのにぎやかな市場に群がっている。コンピュータ、ファックス機、携帯電話−、もしあなたが欲するなら、ここでそれを見つけ、こぎれいにし、そしていつでも売ることができる。しかしこの繁盛している店頭や山と積まれた改装品の裏には暗い側面が浮かび上がってくる。現地の業者の団体であるナイジェリア・コンピュータ及び関連製品販売業者協会によれば、このコンピュータ村に輸入される電子機器の75%は修理不可能なガラクタである。ナイジェリアは繁盛する製品修理市場であるが、電子廃棄物を安全に取り扱う能力は十分ではなく、結局埋め立てか不法投棄という結果になる。鉛、カドミウム、及び水銀などの潜在的に有毒な金属を含んでいることが多いので、”電子廃棄物”は有害であり、問題がある。さらに、電子機器は通常、燃やすと発がん性のあるダイオキシン類や多環芳香族炭化水素類(PAHs)を出すプラスチック・ケースに収納されている。

投棄場所の出現

 情報技術にあこがれるがその製造技術が限られているアフリカは、世界の中古電子機器が最後に行き着く場所である。これらの機器は多少は機能するし、善意の寄贈者によって提供されているものも多い。しかし、これらの輸出を行う業者はしばしば、使用できないガラクタを混ぜて船積みコンテナーに積み込み、特にアフリカの輸入業者に電子機器のガラクタを背負い込ませる。2002年に、シアトルを拠点とする環境団体バーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)は、アジアへの電子廃棄物の輸出の実態調査を実施した[参照:“e-Junk Explosion,” EHP 110:A188-A194 (2002)] (訳注1)。最近では、BAN はアフリカの電子廃棄物の問題を調査し、その結果を2005年10月に『ディジタルのゴミの山:アフリカへの中古品輸出と濫用(The Digital Dump: Exporting Re-use and Abuse to Africa)』と題する報告書を発表した(訳注2)。

訳注1
EHP2002年4月号 電子廃棄物の爆発的増加(その5)中国の現状
訳注2
BANプレスリリース 2005年10月24日 ハイテク有害ゴミがアフリカへ輸出/アメリカとヨーロッパは”再使用・修理”貿易でディジタルごみ捨て場を作り出す

 調査のためにナイジェリアを訪れた BAN の代表ジム・パケットは、地方のいたるところで巨大な電子廃棄物の山を目にしたが、それらの多くはアフリカ最大の港ラゴスから運ばれたものである。”我々は人々が電子廃棄物で沼地を埋めるのを見た”とパケットは思い出す。”山が高くなりすぎると彼らは火をつける。住民らは煙を吸い込んで不平を言うが、投棄場所は決して浄化されない。土地の人々の食糧である鶏やヤギはもとより、子どもたちも廃棄物の上を裸足で歩き回る。”

 パケットはラゴス周辺のゴミの山は氷山の一角であろうと言う。世界の電子廃棄物の輸出に関するデータは事実上存在せず、輸出商品の料率を規定する税率表は廃棄バッテリー以外の廃電子機器のコードを割り当てていないので、誰も確かなことは判らない。スクラップ(例えば、プラスチックや金属)及び新品の電子機器はタイプ別に(例えばコンピュータ・モニター、テレビ)関税分類は存在する。輸入業者は、新品のコンピュータと同じ税率の関税を5年使用した中古コンピュータに払いたくないので、彼らはしばしばスクラップの分類を使用し、重量で測定する−と正当な通商基準の確立を目指す非営利団体、世界リユース・リペア・リサイクリング協会(WR3A)の代表ロビン・インガースロンは言う。したがって、その容量、特性、及び電子廃棄物の輸出先は闇に包まれたままである。

 アフリカにおけるこの種の最初のものである BAN の調査は、ラゴス周辺の地域に限定され、隣の内陸国ニジェールには一週間ばかり出かけただけであった。BAN の直接の観察とその他の不確かな報告に基づき、パケットは現在、電子廃棄物はアフリカのいくつかの港を経由して運び込まれると信じており、それらの港には、ラゴス(ナイジェリア)に加えてモンバサ(ケニア)、ダルエスサラーム(タンザニア)、及びカイロ(エジプト)がある。パケットはニジェールでは電子廃棄物には出くわさなかったが、それは内陸国には港がないことが少なくともその理由のひとつであると推測している。

 BAN の調査で、中古電子機器を収納した船積みコンテナーが毎月約500箱、ラゴス港を通過することがわかった。それぞれのコンテナーは平均、800台のコンピュータ・モニター又はコンピュータ本体(CPU)、又は大型テレビ350台を収納することができる。BAN が聞き出した現地の専門家はこれらの中古品の25%〜75%は使用できないと見積もっている。この幅の最低の値を仮定したとしても、ラゴスだけからでも、毎月100,000台のコンピュータあるいは44,000台のテレビが電子廃棄物としてアフリカに入ってくることになる。

廃棄物貿易

 なぜアフリカの輸入業者らは売り物にならないガラクタ電子機器に金を払うのか? もし船積みコンテナーの中味が個々の価値の合計ではなくて、全体重量によって買われるのなら、廃棄物は積荷を平均化することによって輸送される。サンフランシスコを拠点とする非営利団体であるコンピュメントール(CompuMentor)のコンピュータ・リサイクル・リユース計画マネージャであるジム・リンチによれば、中古電子機器で満杯の40フィート・コンテナーのアメリカからアフリカまでの船賃は平均5,000ドル(約55万円)である。アフリカに到着すると、これらの中古電子機器のうちのあるものは高値で売ることができる。BAN のナイジェリアにおける現地担当であるオレイムル・アデサンヤは、機能するペンティアムVはナイジェリアの市場で130ドル(約14,000円)で売ることができ、一方、機能する27インチのテレビは50ドルで売れる。(スクラップ部品、特に機能するハードディスク・ドライブもまた、新たに出現してきた再組み立て業者に供給するためにナイジェリアでは容易に売ることができる。)したがって、船賃をカバーするのにそれほど苦労しない。実際、良好なペンティアムVが40個あれば、コンテナーの中味の大部分が使用できないガラクタでも、コンテナー1台分の船賃をまかなっても十分な利益を得られる。

 誰が電子廃棄物をアフリカに売っているのかという質問に答えるのは難しい。中古電子機器は政府の管理が届かない闇市場で多くの回収業者やブローカーらが介在するルートをたどって来る。電子機器回収業者はサプライチェーンの頂上にいる。これらの会社は巨額の経費を負担している。例えば、アメリカでモニター1台につき15ドル(約1600円)位かかる。

多くのガラクタの中からわずかな宝(上)
 数千人のナイジェリア人が輸入中古電子機器の修理と販売にかかわっている。残念ながら、輸入された電子機器の多くは修理することはできず、廃棄され焼却される(左下)。ケースが焼却されると臭化難燃剤や重金属が有毒物質を排出する。images: cBasel Action Network, 2005
 多くの回収業者は、これらのコストと利益を改装製品の販売と古い使用できない機器の引き取り料で吸収できる合法的な商売を行っている。しかし、そのように良心的ではない業者もいる。ある匿名回収業者によれば、回収業者がガラクタを海外に輸出するために輸出業者と提携することは珍しいことではない。ある場合には、輸出業者は開発途上国の買い手と交渉し、買い手は特定の価値ある品目と引き換えに引き取るガラクタの量を指定する。”私は、良品全体の半分の金とり、’もし、良品がほしければ不良品も一緒に持っていけ。そして全部をひっくるめて目方で売ってしまえ’と言う。そうするとアフリカ人は大雑把に数えて、’わかった。もう少しペンティアムVを入れてくれれば、商談成立だ’という”−とその回収業者は述べた。

 他のケースでは、商談はもっといい加減で、輸出業者はコンテナーにガラクタを詰めてそれを交渉の仕方も知らない経験の浅い買い手に目方で売りつける−と彼は付け加えた。しかし、このようなケースはまれで、買い手は価値のないガラクタで満杯のコンテナーに張り付いて、二度と同じミスを繰り返さないようにしていると彼は述べている。

 同じ理由で、ある経験のない輸出業者は15,000ドル(約170万円)の価値があるシスコシステムズ社のルーターをコンテナーのガラクタと混ぜて出荷してしまう−と世界リユース・リペア・リサイクリング協会(WR3A)の代表ロビン・インガースロンと述べている。WR3A ではこのような積荷を”くじ引き券(lottery tickets)”と呼んでいる。

 インガースロンは、全ての廃棄物輸出業者が悪いわけではないと強調した。例えば、アジアの輸入業者は、まだ機能するCRT(4ポンド(約1.8kg)の鉛を含む)を新製品を製造する電子機器製造業者に売ることができる。他の輸入業者は壊れたCRTガラスを新しいCRTの原料とするために購入するかもしれない。”もし壊れたCRTガラスを浄化処理してアジアに送るなら、それは環境に良いことである。そうしなければ、新たに原料を採掘しなくてはならない"−と彼は述べた。

 実際、アジアでは、リサイクル原材料を製造業者に供給する電子機器回収業が繁盛している。そのような回収業では上述のような長所もあるが、それはまた、女性や子どもを労働力として使い、回路基板を処理し、ケーブルを焼き、銅のような貴重な金属を回収するために機器を有毒な酸に浸す作業を行っている。BAN は、2002年から2004年の間に中国を訪問して、悲惨な健康被害と生態系への影響をもたらすこれらの作業実態を報告した。しかし、BAN の調査団はナイジェリアではこの種の作業は目撃しなかった。パケットは、これはそこでの廃棄物の量が回収から利益を得るほどに十分ではないからであろうと推測している。しかし彼は、中国で観察されたのと同じような有害な電子廃棄物処理方法がラゴスの街頭経済をに現れるのは時間の問題であると示唆している。

潮流を止める

 電子廃棄物の輸出量は増え続けているが、それらの開発途上国への流れを制限しようとする多くの努力がなされている。その一部として、BAN はアメリカ政府が、有害廃棄物が開発途上国に廃棄されるのを防止することを目的として1989年に起草された国際条約であるバーゼル条約(この条約の下でも再使用とリサイクリングのための廃棄物の輸出は許されている)を批准するよう圧力をかけている。アメリカはこの条約をまだ批准していない世界で数少ない国のひとつである。現在アメリカからの電子廃棄物の輸出にかかわる法律は資源保護回収法(Resource Conservation and Recovery Act)だけである。輸出の目的が”リサイクリング”である限り、アメリカの輸出業者はそれらを合法的に好きなところに輸出することができる。

 何度も繰り返し要求されているにもかかわらず、EPA は、”リサイクル可能な物質の輸出は環境的に適切な方法で管理されることをもっと確実にする”プログラムについて、数年前に経済協力開発機構(OECD)と交渉したというだけで、電子廃棄物の輸出及び関連する環境への影響についてアメリカの立場を明確にしていない。今日までにこのプログラムに関する発表は何もない。

 一方、アメリカでは多くの自主的な電子廃棄物輸出削減のための取組が行われている。2003年、EPA は、”e リサイクリングをプラグイン”プログラムを立ち上げたが、これは消費者とビジネスによる電子機器の国内での安全なリサイクリングを推進するものである。BAN は、電子廃棄物を埋め立て、焼却、又は開発途上国へ送らないことを約束する会社が署名する”電子機器回収業者の誓い”と呼ばれる協定書を作成した。そしてWR3A は、電子廃棄物生成者が環境に適切な方法で処理する回収業者を見つけるのを助ける”e 認証プログラム”を開発した。

 電子産業は製品の陳腐化の上に成り立ている。コンピュータ、携帯電話、その他の機器は直ぐに陳腐化し、時には発売後1ヶ月でということもある。実際、電子廃棄物は、現在、アメリカにおける自治体のゴミ処理の流れの中で最も急増している廃棄物である。しかし、アメリカでは、他国においては訓練を受けた修理人の現実の収入をとなるような品物を捨てており、合理的な修理や再使用を行っていない。また、残り物に依存する経済構造のアフリカは電子ゴミの中から金目のものを拾い集める状態である。”アフリカにはもっと多くのガラクタが行く。アジアでは買い手は物について売り手よりよく知っている傾向があるが、アフリカではその逆である”−とインガースロンは述べている。

チャールス・シュミット(Charles W. Schmidt)



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