電子廃棄物の爆発的増加(その5)
中国の現状

情報源:Environmental Health Perspectives
Volume 110, Number 4, April 2002
e-Junk Explosion / The China Connection
Charles W. Schmidt
https://ehp.niehs.nih.gov/doi/epdf/10.1289/ehp.110-a188
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2002年10月20日
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https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_02/02_10/e-junk-5.html



 先進国での電子機器廃棄物についての議論は、技術規制及び環境規制が発展途上国に比べて相対的に整備されているという情況の中で行われている。
 長年、グリーンピースのような環境団体は、中国からパキスタンまでのアジア諸国では電子機器の野焼きが行われていると警告してきた。これらの事実を調査するために、バーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)の代表が最近、中国を訪問した。「我々は、リサイクル業界から廃棄物の輸出についていろいろ話を聞いて回ったが、実際、アジアで何が起きているのか誰も知らなかった。政府にも電子機器産業界にも訊ねたが誰も知らず、誰もそのことを気にかけていないことがわかた。そこで、自分達が中国に行き、自分達の目で事実を確かめることにした」とバーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)のジム・パケットは述べた。

テクノロジー廃棄物の山(中国グイユ市)
女性達が廃棄ケーブルの被覆をはがして
銅線を回収している。

 中国本土で地元の中国語新聞を読んだ人からかのメールによる助言を得て、パケットらは香港から北東に車で4時間ほどのところにあるグアンドン地区のグイユの町に向かった。彼らは2002年1月初旬に3日間、当地を訪問したが、彼らがそこで見たものは驚くべき事実であった。

 パケットによれば、グイユの辺りの村々は、この7年間、国際電子廃棄物取引の最前線にあった。ほとんどの廃棄物は香港の近くの港町ナンハイからグイユにトラックで運ばれてくる。ナンハイに、香港や台湾のブローカーを通じて、アメリカ、カナダ、そして日本からのコンテーナが毎日陸揚げされる。「廃棄物の移動には目を見張るものがある。整然としたトラックの列。作業する人々の数の多さ。次々と移動する粉砕されたコンピュータの流れ。目標は唯一つ、少しでも多くの鉄、プラスチック、銅、そして金を回収することである。我々は鉛処理をされたCRTのガラス管が回収されているのを見たことがない。CRTは内部の銅線コイルの回収が済むとただ捨てられるだけである。
 以前は田んぼであったこの地域も、今は、不要になったCRTのガラス管やコンピュータの残骸が灌漑用水に投棄され、それらで溢れている。

 地域の人々は環境悪化により健康が脅かされている。パケットの観察によれば、防護もなしに作業者達が、その多くは子ども達であるが、一日中、狭い作業場で、コンピュータチップを抜き出したり、金を回収しやすいように、回路基板の鉛半田を加熱して溶かしている。
 鉛やプラスチックが燃えると有毒な煙が排出し、それらは鼻から、口からそして皮膚から体内に取り込まれる。鉛の溶融残渣はただ地面にはきだされるだけである。
 パケットらが土や沈殿物、川の水を採取し分析した結果、その汚染レベルは先進国で安全とされる許容値の数百倍もあった。

 そのほかよく見かけたのは、コンピュータチップを王水と呼ばれる塩酸75%、硝酸25%の混合液の入ったピットに浸して溶かす方法である。
 「混合液のピットから出る煙と蒸気は1マイル(約1.6キロ)離れたところからも見ることがでる。我々は川の土手に沿って煙の立ち昇る方に歩いていけば、酸の混合液で処理している現場にたどり着くことができた」とパケットは思い出す。
 処理が終わると酸の混合液とスラッジは付近の川に放出してしまう。「川の土手はそれらの液とスラッジで一杯である。我々は土壌と水をテストしたが、ほとんどph値はゼロに近かった。土手の地面は酸で飽和していた」とパケットは述べている。

 グイユ近くの他の村では、プラスチック被覆ケーブルをオープンピットで、主に夜間、燃やしていた。夜間に燃やす理由は、燃やすと黒い煙が立ち昇り、当局ににらまれるのを恐れてのことであった。
 プラスチック被覆に含まれる塩ビと臭化難燃剤は低温で燃やすとダイオキシンを発生する。パケットは村全体が有毒なススで完全に黒くなっていると述べている。

 バーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)チームの調査報告書はシリコンバレー有毒物質連合(SVTC)との共著で『有害物質の輸出;アジアへのハイテクゴミ』というタイトルの下に2002年2月25日に刊行された。
 この報告書に対する公式な反応として電子産業連合会(EIA)は「EIAは、OECD(経済共同開発機構)の各国政府と連携して、国際的に認められている廃棄PCの環境に配慮した処置に関するガイドラインを作成している。我々は、このガイドラインに基づき、各国政府が自国のリサイクル処理施設を運用して、適切に規制し、環境を維持し、健康と安全の基準が守られることを希望する」と述べた。

(その6(最終回)に続く)

(訳: 安間 武)



化学物質問題市民研究会
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