Beyond Pesticides 2006年3月21日
多種化学物質過敏症は健康被害だけでなく
生活の困窮をも余儀なくさせる


情報源:Beyond Pesticides / Daily News, March 21, 2006
Multiple Chemical Sensitivities Cause of Poverty as Well as Ill Health
http://www.beyondpesticides.org/news/daily_news_archive/2006/03_21_06.htm

抄訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年3月23日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_06/06_03/060321_bp_mcs.html



 困窮と環境に焦点をあてた特別シリーズの中で、『グリスト・マガジン(Grist Magazine)』は、人々が多種化学物質化学物質過敏症(MCS)のために、健康被害だけでなく、多くの場合困窮をも余儀なくされているということを明らかにした。MCSの症状は家庭内、職場、及び公共の場所における、通常の人々が影響を受けるよりもはるかに低いレベルの暴露で引き起こされる。その症状は一般的に、ひどい頭痛、食物不耐性、呼吸困難、吐き気、目、耳、鼻、喉、皮膚の痛み、方向感覚の喪失、混乱、その他多くの症状である。

 化学物質過敏症の人々の非営利団体である化学物質傷害情報ネットワーク(Chemical Injury Information Network (CIIN))によれば、MCSは治癒の困難な慢性症状である。残念ながら医学会の主流は環境がこの病気に果たしている役割について遅々として認めず、多くの医師らはMCSのことを知らないか、又は、それが本当の症状なのか疑いを持ったままである。この病気を認めている人々はしばしば、治療の選択肢についてよく知らない。

 したがって、MCSの人々は、しばしば複合ヘルスケアの開業医を訪ね、感情的で金銭的に高い診断を受けることになる。多種化学物質財団の委員会メンバーであり、ニューメキシコMCSタスクフォースの議長であるアン・マッカンベルは、”1988年までは私は健康で、陸上競技の選手であり、ロックバンドでドラムをたたいていた。一年後、私は多種化学化物質過敏症でひどい状態になった。他の多くのMCSの人たちと同じように、私は住んでいる所に耐えることができず、家の庭や、車の中や、当座しのぎの避難所で暮らすことを余儀なくされた”−と述べた。

 他の多くのMCSの人々と同様に、アン・マッカンベルはなぜ自分が過敏症になったのかわからず当惑した。この病気になると、彼女も他の患者らも自分の家から外に出かけることができる場所が限定される。出かけるときには、彼女は具合が悪くなるのでタバコの煙、農薬、香水、車の排気ガス、洗浄製品、その他の有害な蒸気(ヒューム)を避けなくてはならい。

 MCSの人々が社会から隔絶されてしまうひとつの理由に、ほとんどの人が化粧品を使っていることがあるが、近年、少しは改善された。いくつかの職場やワシントン州オリンピアのエバーグリーン州立大学のような学校は、香料自粛政策を制定している。しかし一般的に、MCSの人々は雇用主、土地所有者、政府、又は医療機関からの助けや保護をあまり当てにすることはできない。

 MCS研究の発展が思わしくないことも、もうひとつの問題である。この病気を研究している学者はほんのわずかであり、彼らはその病因を理解しようと努力するが挫折する。現在のMCSに関する理論は、遺伝的素質、化学的傷害、神経学的損傷、解毒酵素の異常、いわゆる環境要因に対する”有毒物質誘引の不耐性”など範囲が広い。ある有毒物質に暴露して体調を狂わせると、その後は、その他の広範な有毒物質に暴露しても体調が狂い対応できなくなる。

 MCSの症例の定義が存在しないことも、もうひとつの障害である。症例定義がないのは医師らがそれに同意できないからである。症例定義に合意できないとキャッチ22−シナリオ(訳注:不条理な状況のこと。米国の小説家 Joseph Heller の同名の小説(1961)で、軍規により狂気なら戦闘を免除されるが、狂気という届を出すと正気とを判定されるから、どのみち戦闘参加となる)を作り出す。MCSの被害を受けている人々は、MCS研究の基金を確保することが難しくなるが、一方MSC研究に必要とされることはこの病気のよりよい理解、定義、そして治療である。

 化学物質傷害情報ネットワーク(CIIN)の代表であるシンシア・ウィルソンによれば、現在、MCS研究者と患者が非難されることのひとつは、今までに合意を得るために3つの試みがなされという事実にもかかわらず、まだ合意された症例定義がないということである。しかし、アン・マッカンベルのような活動家らは、MCSの暫定的な定義はすでに存在しており、標準化された症例定義がないことを研究をやめたり、患者にとって重大な便宜を図ることを否定する言い訳にすべきではない−と主張している。

 グリスト・マガジンによれば、MCS被害者の数は900万人〜1,700万人いる。その数に含まれるうちのある人々は、確かに、家のカーペットを取り除いたり、空気や水をろ過したり、環境に十分にやさしいクレンザーやパーソナル・ケア用品を用いたり、有機食品を食べたり、農薬や溶剤のような有毒物質に触れないよう制限したりして、生活様式を変えることができるが、しかし全ての人々がそのようにすることができるわけではない。

 ビデオフィルム ホームシック(Homesick)で、ニューメキシコ州サンタフェの歌手でMCSのビデオ作成者であるスーザン・アボドは、MCSの人々が安全な家を探すためにいかに大変な思いをしているかを描いている。アボドによれば、この病気に対処するためには、”資金とリソースがなくてはならない・・・。もし、お金があれば、いつでも他の家を見つけることができ、その家を安全な製品で改装することができる。しかし、私たちのようにお金をたくさん持っていない人、借家している人、政府から住宅を援助されている人は多くの制限に直面する。”

 CIINのシンシア・ウィルソンはその通りと同意して、”引っ越したり安全な家を探すこためのお金がない低所得の人々にとって、それは切実な問題である。MCSの人々の多くは、最後には車の中で過ごすことになる”と述べている。他の人々は、友人の裏庭で、エンジンを取りはずしたキャンピングカーの中で、又は公共の土地にテントを張って、暮らすことになる。そのために、住宅の状況は冬になるとますます悪くなる。人々はキャンプに行くことができないどころか、屋外で過ごすことすらできなくなると−ウィルソンは述べている。彼らはまたホームレスの人々のための従来の支援制度も受けることができない。

 MCSの人々が安全な仕事を見つけることはもっと難しい。たとえ、職場そのものは耐えられる環境であっても(有毒建材がいたるところで使われているので、稀なことであるが)、基本的な仕事関連での一般の人々との対応は不可能である。あるMCS患者は、安全な家を探し、家で仕事をすることにしたが、その選択肢もほとんどの場合、貧しいアメリカ人は安い賃金で技術のいらない単純作業を押し付けられることとなる。

行動!:もしあなたがMCSか又はMCSの人を知っていたら、MCS希望の標識財団のアメリカ心の登録("MCS” Beacon of Hope Foundation / Hearts Across America Registry)に登録してください。氏名、番号、州、安全な家の必要性、その他特別な宿泊設備が登録できます。


訳注:(関連記事)
Beyond Pesticides 2006年10月23日/農薬やその他の化学物質がMCSの症状を悪化させる(当研究会訳)



化学物質問題市民研究会
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