ES&T 2006年1月11月
カナダ、よく使用されている防汚・防油・防水剤の使用制限か

情報源:Environmental Science & Technology: Policy News, January 11, 2006
Canada contemplates restrictions on well-loved stain repellents
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2006/jan/policy/rr_repellents.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年1月13日

 カナダは2004年にいくつかのフッ素テロマーポリマー(訳注)を世界で始めて暫定的禁止を実施したが、さらにこの化学物質類全体を禁止することを検討している。
 カナダでの最近の措置により、ファースト・フードの油が衣類を汚さないように、そしてカーペットに汚れがつかないように広く使用されている防汚・防油・防止剤がカナダでは姿を消そうとしている。

訳注
フッ素テロマーはフッ素を含む重合品(ポリマー)で、テロマーとは短鎖重合のことである。消火用泡、及び身体手入れ品、カーペット・繊維製品・紙製品等の防油、防汚、防油脂、防水など多くの製品中で使われている。フッ素テロマーは PFOA を用いて作られるわけではないが、フッ素テロマーのあるものは環境中で分解して PFOA になり、また生体組織中に取り込まれると代謝して PFOA になるといわれている。−EPAファクトシート(当研究会訳)

 昨年12月、カナダ政府は、フッ素テロマーとその前駆物質として知られる化学物質全体を評価し、規制し、制限し、禁止する計画を策定した。カナダ環境省(エンバイロンメンタル・カナダ(EC))担当官らは、フッ素テロマーは、パーフルオロカルボン酸エステル類(PFCAs)(訳注:PFOAもその一部)による広い環境汚染に関係していると信ずるとしているが、PFCAs は残留性と生体蓄積性があり、動物実験ではがんと発達障害に関連している。

 カナダ環境省は、長鎖(炭素が9以上の炭素−フッ素チェーン)の PFCAs の特性は、ストックホルム条約の残留性有機汚染物質(POPs)の基準に合致すると指摘している。

 カナダは、2004年に、フッ素テロマーポリマーのうち4種類に関して暫定的に2年間禁止し、この化学物質を規制する世界で最初の国となった。一方、アメリカとEUを含む他の諸国政府は、これらの物質の環境と人の健康への影響を調査中である。

 カナダ環境省担当官によれば、カナダの現状の暫定的禁止は法による永久化の手続きがなければ今年の6月に失効する。カナダのフッ素テロマーポリマー調査計画が永久禁止という結果を出して、既存及び新規のこのタイプの化学物質も禁止されるかもしれない。カナダ環境省担当官らは彼らの計画を練るために2月6日及び7日に会議を開催すると述べている。

 このような最近の措置はこれらの化学物質の全てに対し積極的にアプローチするためにドアが開かれている−と担当官らは付け加えた。”最近のカナダの措置が一連の規制措置の最初の一歩であるとうい推定は最もありそうなことである”−とスウェーデンの化学物質検査院 KEMI の代表エセル・フォルスベルグは述べている。2004年にスウェーデンは、関連する化学物質パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)を同条約に含めるよう指名した。

 カナダの措置の中心は、いくつかのフッ素テロマーに関する政府の既存の暫定的禁止を正当化するというリスク評価が昨年の12月にカナダ環境省によって発表されたことにある。これらの評価は、これら化学物質の環境的挙動についての比較的調査されていなかった側面、すなわち、これらの重合体は、ゆっくりであるが安定した人と環境に対する PFCAs 曝露の源であり、それらは発生源からはるかに離れた北極の動物や世界中の人の血液中に見出されているという側面に焦点を当てている。科学者らは、微生物又は加水分解がフッ素テロマーの化学的結合を解き、PFCAs に分解するのではないかと想像している。

 これらの評価は、長鎖 PFCAs は、ストックホルム条約で定義される POPs の基準に合致すると指摘している。2004年5月に発効した同条約は、DDTやPCB類を含む12の悪党汚染物質の製造を禁止している。同条約はまた、禁止又は管理されるべき追加POPsを指名する条項を規定している(Environ. Sci. Tech. 2004, 38 (9), 157A)

 カナダの評価は、”大雑把で広範なレビュー”であると米EPAの科学者でフッ素テロマーポリマーの結合破壊を調査する実験プロジェクトを率いるジョン・ワシントンは述べている。”しかし、”このレビューはこの問題について知見のある人々のひとつの意見ではある”−と彼は述べている。

 EPAのスタッフは現在、PFCA の中で最もよく調査されている PFOA のリスク評価を完了しようとしているが、PFOA は動物実験でがんやその他の有害影響との関連が示されている。EPA担当官らはフッ素ポリマー結合の破壊の可能性について関心を持っているが、それはEPAの科学者らは人々がどのようにして PFOA に曝露しているのかのパズルを解くことに役立つかもしれないからであるとワシントンは述べている。

 フッ素テロマーポリマーは広い範囲で数十年間使用されているので、たとえ結合の破壊が遅くても、その現象は環境に対し著しい影響を与えていると彼は11月のボルチモアでの環境毒物化学会で聴衆に語った。

 しかし、同会議でデュポンの科学者ウイリアム・バーチとロバート・バックは彼ら自身の短期的生物分解実験の予備的結果を発表したが、彼らは生物分解は起こらないということを示すと解釈した。デュポンの報道担当官ダン・ターナーはこの記事に関する電話での問い合わせに応じなかった。

 12月に、EPAは、デュポンは同社の9種類の過フッ素化学物質が生物分解するかどうか調べるために3年間で500億ドル(約5.5億円)を出すと発表した。この約束は、デュポンが PFOA の健康影響と同社のフッ素化合物製造工場周辺での曝露レベルについての情報のEPAへの報告義務違反に関する EPA とデュポンの歴史的和解金1650万ドル(約18億円)の一部である。EPAは、企業機密であるこれらの化学物質の名前を明かさないと述べている。

レベッカ・レナー(REBECCA RENNER)


訳注(関連記事)
カナダ フッ素系防汚剤を制限 強化する方向に(当研究会訳)
カナダ、防汚処理などに使用されるフッ素ポリマーを2年間暫定禁止(当研究会訳)



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