米政府及びカリフォルニア州
鉱害について鉱山会社との長期和解案を表明

情報源:米環境保護局(EPA)プレスリリース 10/19/00
FOR RELEASE: THURSDAY, OCTOBER 19, 2000
U.S., STATE ANNOUNCE LONG-TERM SETTLEMENT FOR IRON MOUNTAIN MINE
Agreement will clean up one of country's most toxic Superfund sites
掲載日:2000年10月24日


 米国政府とカリフォルニア州は19日、スーパーファンド(Superfund)の指定地である”鉄の山鉱山”(Iron Mountain Mine、カリフォルニア州レディングから15キロメートル北西)の汚染浄化のための資金、約10億ドル(約1,000億円)をアベンティス社が負担することに合意したと発表した。
 米環境保護局(EPA)、米内務省、米商務省及び複数の州当局を代表するこの和解案は、単独の私企業との和解としてはアメリカのスーパーファンド計画史上最大規模のものである。これはまた、全米の州環境局にとっても最大規模の環境問題和解案である。

 この和解案によりアメリカにおける有毒金属の最大汚染源で、世界で最も酸性度の高い鉱山廃水源 として知られる”鉄の山”からの排出の95%を今後長期にわたり管理し、浄化することができる。
 サケの産卵場所として、またカリフォルニア州の水源地として重要なサクラメント川の上流に、今まで、この鉱山は1日当たり平均約1トンの有毒金属を排出していた。

 この鉱山の現在のオーナーであるアベンティス社(以前のローム・プーランク社)は、今後30年間、現地の管理と浄化をITグループ社に委託すると共に、2030年に、その後の管理、浄化のための資金として5億1,400万ドル(約555億円)を米政府及びカリフォルニア州に支払うことになった。
 アベンティス社は、財務保険及び和解のために特別に用意された独特な基金の仕組みにより、概略1億6,000万ドル(約173億円)を今後30年間の長期にわたる現地の管理と浄化の費用、800万ドル(約8億6,400万円 )をEPAへの費用、また約1,000万ドル(約10億8000万円)を各種天然資源再生プロジェクトの費用として賄うこととなった。
 また、過去に約1億5,000万ドル(約162億円)以上のコストが発生しているので、この合意によりアベンティス社が負担する金額は合計10億ドル(約1,000億円)近くに達することになる。

 米環境保護局地域担当官フェリーシア・マーカスは「この革新的な合意は、源流からサンフランシスコ湾に至るまでのサクラメント川流域にすむ全ての人間や動物にとって良い知らせである。最近5年間、この鉱山は冬の嵐の時には1日にタンク車150台分の有毒金属をサクラメント川に排出していた。しかし、多くの政府や州の関連機関の努力のおかげで、この鉱山が天然資源に及ぼしていたダメージを削減するための基金と人材を手にすることが出来る」と述べた。

 カリフォルニア州環境保護局長官ウインストン・ヒッコクスは「この和解案は政府と私企業が深刻な環境問題を解決しようと一緒になって取り組んだ、すばらしい事例である。環境もカリフォルニアの納税者も、両方が恩恵を受けた。サクラメント川は汚染が減少するであろうし、納税者はそのための勘定を支払わなくてもすむ」と述べた。

 米海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Administration - NOAA)の顧問クレイグ・オコーナーは「この大規模で危険な鉱山からの有毒物質の排出を管理すれば、サケが再びサクラメント川に戻ってきて産卵するであろう。キングサーモンやニジマスの保護と再生はNOAAにとって重要な優先事項である。我々はEPAと共同でこの重要な魚種の生息地を回復する解決策を見出したことに大変満足している」と述べた。

和解案の骨子

  • この和解案は、米農業調整局(Agricultural Adjustment Administration-AAA)との最も高額な保険契約を通じて長期に渡る資金調達を保証する。
  • ITグループ社は今後30年間にわたり、”鉄の山”の回復のために現地で維持管理を行う。
  • 天然資源管財人は1,100万ドル(約12億円)を受けとり、各種天然資源回復プロジェクトの実施に当てる。
  • 政府は2030年の時点で、約5億1,400万ドル(約555億円)を受け取り、その後の現地の維持管理に当てる。

鉱山の歴史

 19世紀の後半から1963年まで、マウンティン・カッパー社は、鉄、金、銀、銅、亜鉛、黄鉄鉱、等の各種鉱物の採鉱を、地下での階段状採掘や露天での採掘により行っていた。採掘により山は荒廃し、水脈の流れが変り、鉱滓が酸素や水やある種のバクテリアに曝されて酸性度の高い鉱山廃水となって近くの支流や水路に流れ込んだ。

 「”鉄の山”からの排水は非常に有毒なので、作業者がうっかりシャベルを採掘口から流れ出る緑色の液の中に放置しておくと、翌日にはシャベルの半分は完全に腐食していた。この種の排水が、近隣の生態系に悪影響を及ぼすことは容易に想像できる。政府による浄化対策がとられるまでは、大きな嵐が来ると、”鉄の山”の排出口の下流側に大量のサケやニジマスがしばしば浮き上がったものだが、今は排水処理施設のおかげで、魚の大量死は過去の話となった」とマーカスは述べた。

 酸性度の強い鉱山廃水はまた、極度に高レベルの銅、亜鉛、カドミウム、その他の金属を含んでいる。EPAや州当局によって対策がとられるまでは、鉱山は毎日約1トンの銅と亜鉛を排出していた。これは全米の産業や自治体から地表の水路に放出される総量の4分の1に相当する。

 鉱山の採掘による激しい汚染は、数十年来知られていたことである。政府と州当局は鉱山からの酸性排水の問題、特にサクラメント川と上流の支流へ与える影響を報告してきた。1963年に政府は、”鉄の山”から汚染した水がサクラメント川に流れ込むままにせず、それを測定し管理するためにスプリング・デブリス ダムを建設した。

 EPAは1983年に”鉄の山鉱山”をカリフォルニア州の要請に基づき、政府のスーパーファンド指定地とした。EPAとカリフォルニア州の酸性鉱山廃水への対策の核心は、鉱山の有毒排水から99.99%の金属を除去する高密度鉱滓処理施設を1994年に建設したことであった。1994年以来、この処理施設は、放っておけばサクラメント川に流れ込んだ500万ポンド(約2,300トン)以上の銅やカドミウムや亜鉛等の重金属を除去した。ちなみに同時期にサクラメント市全域で排出した金属の総量は約10万ポンド(約45トン)であった。

 多くの政府と州の関連機関が共同でこの問題に取り組んだ。米環境保護局(EPA)、米海洋大気局(NOAA)、米国土管理局(BLM)、米司法省、・・・(訳注:以下省略)。

今後の予定

 排水管理に加えて、EPAはカリフォルニア州とともに今後数年間にいくつかの活動を実施する。
 まず、スリックロック川にダムを建設し、酸性排水を集めて鉱山の廃水処理施設に送る。これにより、現状の改善施設と合わせると、鉱山からの総排出の95%以上を管理することになる。
 また、ケスウィック貯水池に流れ込むスプリング川の堆積物の除去の研究とボウルダー川分水界の酸性排水源の除去の研究を行う。

”鉄の山鉱山”に関するさらに詳しい情報は下記のウェブサイトで入手可能である。
http://www.epa.gov/region09/features/ironmountain.html


【参考】
スーパーファンド法の概要をEPAのウェブサイトから紹介します。(訳者注)

スーパーファンド法(CERCLA)概要
http://www.epa.gov/superfund/whatissf/cercla.htm

 スーパーファンド(Superfund)と言う名で知られている”包括的な環境への対応、補償、責任に関する法律”(Comprehensive Environmental Response, Compensation, and Liability Act - CERCLA) は1980年12月11日に議会で立法化された。この法律は化学及び石油業界に税を課し、それを資金として連邦政府が、国民の健康や環境を脅かす恐れのある有毒物質の排出またはその恐れがあるものに直接対応出来るようにするものである。
 5年間で16億ドル(約1,700億円)の資金が集まり、危険廃棄物放置場所の浄化のための供託基金となった。

CERCLA骨子:

  • 危険廃棄物放置の禁止及び要求事項の確立
  • 危険廃棄物排出者の責任の明確化
  • 危険廃棄物排出者が特定できない時に現地を浄化するための供託基金の設置
同法に基づく政府の2つの行動:

  • 早急な対処が必要な排出またはその恐れがあるものに対する短期間での撤去
  • 直ぐには生命の危険はないが、深刻な有害物質の排出またはその恐れがあるものに対する危険性を恒久的且つ顕著に削減する長期的な回復処置。
 これらの行動はEPAのナショナル・プライオリティ・リスト(NPL)に挙げられた現場にのみ適用される。

 CERCLAはまた、ナショナル・コンティンジェンシー・プラン(NCP)を改訂することが出来る。NCPは有害物質、汚染物質の排出またはその恐れがあるものに対処するための指針及び手順を示すものである。またNCPでNPLを決める。
 CERCLAはスーパーファンド修正及び再委任法(SARA)によって1986年10月17日に修正された。

(訳:安間 武)

化学物質問題市民研究会
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