米化学会 C&EN 2010年8月9日
拡散剤の影響の議論/メキシコ湾の油流出 油処理の毒性についてもっと知る必要があると科学者らは言う 情報源:Chemical & Engineering News, August9, 2010 Dispersants' Effects Debated Gulf Oil Spill: Much needs to be learned about oil treatments' toxicity, scientists say By Elizabeth K. Wilson http://pubs.acs.org/cen/news/88/i32/8832notw1.html 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2010年8月12日 油拡散剤の環境へ及ぼす影響について、多くの疑問が残っている−と8月4日の米上院議会での公聴会で科学者らが環境公共事業に関する上院委員会に述べた。 しかし、8月2日の記者発表で環境保護庁(EPA)は、原油と、油膜を分解するために用いられる拡散剤との混合物は、繊細な海洋生物に対し、原油自身より毒性が高くなるようには見えないと報告した。 4月20日のメキシコ湾にあるBPの深海原油掘削基地の爆発事故以来、2億ガロン(約8億リットル)以上の油が海洋に流れ出した。8月3日、連邦政府の科学者らはこの流出事故を史上最大規模であるとした。BPは、100万ガロン(約400万リットル)以上の拡散剤 Corexitを、海面に形成された油膜の上にだけでなく、流出源である海面下数千フィートにまで注いだ。 ”このような深海での拡散剤の使用はかつて例のないことである”とドナルド J. ケンダルは8月4日の公聴会で証言した。ケンダルは、ラボックのテキサス工科大学環境毒性学部の学部長である。 先月、EPAは8種類の化学的拡散剤についての調査結果を発表したが、その全ての毒性はほとんど同じであるという結果であった(C&EN Online Latest News, July 8)。 EPA研究開発局室の副局長ポール T. アナスタスは8月2日の記者会見で、EPAの新たな調査は、これら8種の拡散剤はどれも低硫黄原油と混合したとき、アミ類(mysid shrimp)及び小さなシルバーサイド・フィシュ(silverside fish)に対する毒性は原油単独の場合より毒性が高いということはないということを示していると述べた。 BPは流出井戸にふたをし、当面は拡散剤の使用を中止したが、科学者らは拡散剤が環境に及ぼす影響を明らかにするであろう研究を積極的に継続している。拡散剤の毒性についての懸念がEPAの調査を促した。 EPAの結果は”非常に早まった”ものであるとケンダルはC&ENに話した。”都合のよい条件の下に2種類の生物をテストしただけだ”と彼は述べている。まだ大量の油が残留しており、冷たく、暗く、高圧の海面下数千フィートに生息する生物は、この汚染物質に対して全く異なる反応を示すかもしれない−と彼は指摘した。 ジョージア大学アテネの海洋科学教授サマンサ B. ジョイは、ケンダルの意見に賛成し、”このような結論は多種類の生物種で綿密なテストに基づく必要があり、その結果は複数の研究室で独立して検証されるべきである”と C&EN に述べた。 8月4日の委員会での聴取で、ロードアイランド大学大学院海洋学部副学長で教授のデービッド C. スミスは、”深海における油の拡散を含んで、油流出の全ての環境的側面についてピアレビューされる研究”に着手する油流出対応のための長期国家研究計画を作成することを求めた。 拡散剤の使用は環境的なトレードオフであるとルイジアナ州立大学の名誉環境科学教授は公聴会で述べた。”沖合いでの拡散剤の使用は、海岸の油汚染によるダメージは沖合い環境へのダメージよりはるかに深刻であろうということを考慮した上で決定しなくてはならない”と彼は述べた。 8月4日の公聴会は、”この先例のない災害によって提起された疑問に対する答えを得るための重要なステップである”と委員会議長バーバラ・ボクサー上院議員(民主 カリフォルニア)は述べた。 訳注:関連情報 |