ビバ! 座長公演
其の十一
文/ペリー荻野
ぺりー・おぎの
エッセイスト。新聞や雑誌やテレビなどで様々なテーマで活躍中。近著『お侍さん、ありがとう』(アスペクト)では中島らもや町田康ら同好の士と心ゆくまで時代劇を語っている。

ひいきの役者を持つことについて

2001年末、残念なニュースがありました。「坂本冬美休業宣言」です。
 私はここ数年、欠かさず「坂本冬美公演」を観てきました。座長の芸は、もちろん「ビバ!」に値しますが、もうひとつこの公演で大事なのは、私のひいきの「若林豪」が出ているということです。
私は現在、会員約4名で「若林豪保存会」を結成しており、会長となっています。会員数が「約」なのは、ひとりは音信不通だからです。行方不明。ですが、おそらく彼女もこの青空のどこかで「豪さんを保存しよう」と地道に活動していることと思います。
この「保存会」結成のきっかけは、2時間ドラマの中で、トレンチコートを着て、もみあげを見せながら、刑事でもなんでもない片平なぎさに事件の説明をする警部役の豪さんをしみじみみたことでした。いまどき、トレンチコートにもみあげ……でも、なんかその“変わらなさ加減”がいいじゃん。そう思った瞬間、「そうだ、若林豪は永遠にいまのままで保存しなければ」と決心したのです。
 意外にも賛同してくれる人たちが現れ(正直、そんな人が他にもいるとは驚きました)、私たちは「保存会」を結成しました。主な活動は、「若林豪出演作は極力観て、保存具合を確かめる」というものです。老練な俳優が激減する昨今、ちょっと油断すると、いつなんどき豪さんも「老け」にされるかわかりません。しかし、豪さんはずっと「濃い顔の二枚目」でなければ。もみあげを白くするなどもっての外です。
幸い、新橋演舞場の藤山直美公演でも、明治座の坂本冬美公演でも、豪さんは「陰のある二枚目」でした。よかった……。私たちは花道の横に陣取り、豪さん登場のたびに、ひときわ激しい「ヅカ拍手」(宝塚でひいきの役者が出ると、背筋をピンと伸ばして早打ちする拍手。命名byペリー)を送り、豪さんをビビらせたりしました。はっきりいって、保存会は、ご本人には何の役にもたっていません。
サインが欲しいとか、顔を覚えてほしいとかいう気持ちがまったくないのが、当保存会の特徴ですが、ひいきの人を持つことによって、ますますその公演が楽しくなることは確か。カーッ!!バシバシバシバシバシ、オラオラ、バシバシバシバシ……ヅカ拍手は意外にストレス解消にもなります。

●幼少のころより座長公演に通い続けた筆者の鋭くも愛にあふれた大劇場観察が人気の連載。そのうちスペシャルも。協力/明治座
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