スクール・デイズ
連載小説第一回
文/蔡俊行
さい・としゆき
フリーの雑誌編集者を経て編集プロダクション兼制作会社ハッスル設立。この連載は、自身の子供のころの思い出から想を得た半自伝的なもの。

桜の開花は例年より早く、週末までもたないと夕方のローカルニュースでアナウンサーが予想していた。形式的な入学式はすでに済ませてあるが、春休みはまだ4日残っている。商店街の突き当たりにある控えめにいっても小山ともいえない雉の形をした山から、花見の酔客が数人降りてくる。
緩い上り坂とはいえ、後ろに人をのせ自転車で昇るのはかなりつらい。どっちが自転車こぐのかさっきジャンケンで決めたばかりだ。
自転車を押していた酔客が突然、方向を変え目の前に現れた。
「おいおい、二人乗りはあかんあかん。いま何時やと思うとるんや。おまえら小学生やろ」警官だった。
「ちょっと自転車おりてもらおか。名前は?」
突然だったので声が出ない。
「なんで黙っとるんや。この自転車は誰の、どこいくの?」矢継ぎ早に話しかけてくる。
「まあええわ、ちょっとポケットの中調べさせてもらうで」
ジャンパーのポケットにはショートホープが入っている。まずいと思った瞬間にはもう身体検査をされていた。
「あかんなあ、小学生がたばこなんかのんだら。まだ名前を聞いてなかった。おまえらどこのもんや」
嘘を言おうにもいい名前が浮かばない。焦れば焦るほど頭の中は混乱してくる。すると背中の方から甲高い声がした。
「郷ひろみや」。
「あほ。おまえな、すぐばれるような嘘をつくな。偽証罪ゆう罪もあるんぞ。正直にいえ正直に。正直にゆわんと交番まで来てもらうことになるで」
あきれ顔の警官がこっちの顔をのぞきこんできた。
「木村です」
「木村なんや?」
「木村光司」
「木村か、嘘やないやろな。学校はどこや」
言葉を飲み込んだ。適当な名前が思い浮かばない。
「朝鮮学校や」
また後ろから甲高い声が響いた。

●カエルブンゲイ唯一の連載小説。ただいま(2002.6/18号)では11回。在日の少年たちのバカバカしくも切ない日々が魅力です。
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