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朱鷺の踊り....渋谷塔一

(00/10/30-00/11/10)


10月31日

ROPARTZ
Masses and Motets
Michel Piquemal/
Ensemble Vocal Michel Piquemal
MARCO/POLO 8.225126
ジョゼフ・ギイ・ロパルツという作曲家、だいぶ前から気になる存在でした。この前のサン・サーンスではありませんが、名前はしばしば目にするのに、実際に音を聴いたことがないというものです。中でも、彼の「レクイエム」は、どうしても聴いてみたいとカタログから探し出して、そのたった1種類のCDを注文したこともあるのですが、いまだに現物を手にしていません。
そんなときにリリースされたのがこのCD。レクイエムは入ってはいませんが、小さなミサ曲が3曲と、いくつかのモテットがカップリングされたものです。
ロパルツという人は、パリ音楽院では、最初マスネのクラスにいたのに、途中でそこを辞めて、セザール・フランクの門を叩いたというぐらいですから、オペラティックで感情過多なものよりは、内面的、神秘的なものを好んでいたのでしょう。
私のロパルツ初体験であるこのCDでは、そんな彼の魅力が凝縮された形で味わうことが出来ました。編成はオルガンと合唱、中には無伴奏の合唱だけのものもあります。私が特に惹かれたのは、無伴奏で歌われるモテット。おそらくガブリエル・フォーレの流れを汲むある種伝統的な書法なのでしょう、人を驚かすような響きは皆無。それだけに、純粋に透明な暖かいハーモニーに包まれる喜びを感じることが出来ます。「アヴェ・マリア」などは、1度きいたら忘れられない美しさ、もっと広く聴かれても良い曲です。
オルガン伴奏によるミサ曲も、「グローリア」などはそこそこ盛り上がりますが、それでも節度が失われることは決してありません。良くアマチュアの合唱団の演奏会でも取り上げているようですが、この感じを的確に表現するのは、もしかしたらかなり大変なことなのかも知れませんね。
で、歌っているのが、ミシェル・ピケマルが指揮する合唱団。じつは、昨日のサン・サーンスでも合唱指揮を担当していたのはこの人。偶然ですが、最近良く出会う名前です。有名なのは、NAXOSから出ているデュリュフレの全集ですね。ただ、あの頃は合唱団の表現にちょっと節度を欠くところがありました。ところが、ロパルツと彼らは相性が良いのでしょうか、ここでは見違えるような成熟された表現を聴かせてくれています。「おパンツ」などという下品なおやぢとは、とことん無縁の世界なのでしょう。

10月30日

SAINT-SAËNS
REQUIEM
Jacques Mercier/
Orchestre National D'Ile de France
RCA/74321-54050-2
(輸入盤)
BMG
ファンハウス/BVCC-34068(国内盤)
これだけマイナーなCDが数多く出回っているご時世にも、「話には聞くけど現物が見当たらない」というものが結構あるものです。サン・サーンスのレクイエムもそんな一枚。ちょっと前までは2、3種類出ていたのですが、このごろはとんと店頭ではお目にかかれません。
そんなところに出てきたのがこれ。録音が1989年とちょっと古いのですが、待望の新盤、喜んで買って帰りました。ところが、家に帰ってCD棚を調べてみたら、全く同じ物で以前ADDA(アダ)で出ていたものがあるではありませんか(581165)。レーベルもジャケットも全然違うので、すっかりだまされてしまいました(「恩をあだで返す」って、ちょっと違うか)。
この曲は彼のパトロンだったアルベール・リボンのために書かれたもの。忙しすぎるサン=サーンスを教会の義務から解放させるため、多額の遺産を遺してくれた友人への感謝と哀悼の気持ちが込められています。
曲の方は、第1曲目から神秘的なフレーズで何かが始まることを期待させてくれます。それに続くソロや合唱は期待にたがわぬ感動的な音楽です。2曲目の「Dies irae」は、例のグレゴリア聖歌を安直に引用していたり、多少こけおどしの感は否めませんし、6曲目の「Sanctus」の大袈裟な音の使い方など、ちょっと苦笑を禁じえない部分もありますが、その他の曲は素直に心に入ってくる美しいメロディーを持った素晴らしいもの。極めつけは、終曲「Agnus」。ここには、宗教とか信仰という概念を超えて、普遍的に訴えるものがあります。
この曲のようにある種の俗っぽさを持つものの中にも、人を感動させるものは確かに存在するのだという境地に達するのは、レクイエムとは敬虔なものでなければならないとする人々にとってはいささか困難を伴うものかもしれません。しかし、自らを「無信仰者」と公言してはばからなかったサン・サーンスだからこそ書きえたこのレクイエム、アンドリュー・ロイド・ウェッバーの作品を知ってしまった私たちにとっては、一つのチャーミングな声楽曲として「名曲」たり得るのではないでしょうか。
ただ、このCDの演奏には多少の不満は残ります。例えばソプラノのポレ。やたら声を張り上げて頑張って歌ってます。それがどうしてもしっくり来ないのです。合唱団もすこし響きが粗いですし。じつは手元にもう1種類の演奏があるのですが(SOLTICE SOCD 75)こちらの方は児童合唱を使っていてもっと散漫なもの。この曲を、たとえばイギリスあたりのちゃんとした合唱団とソリストが録音してくれれば、もっと広く魅力が伝わってくれると思うのですが。
併録の「詩篇18番」の方は、合唱もオケも活き活きしていて文句なしに楽しく聴けました。

きのうのおやぢに会える、か。


(since 03/4/25)

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