ダブルバインド。
学生時代に教わった言葉を久しぶりに思い出しました。
もともとは心理学の言葉で、
相反する二つの命令(口頭だったりプレッシャーだったり)を受けて
とてもストレスを感じる状態、的なことだった気がします。
で、私が学生時代にやっていたジェンダー論でいくと、
たとえば女の子たちが
「今の女性は社会に出て行かないとダメよ! 自分らしい生き方を見つけなさい!」
と言われつづけながらも、
実は同時に
「やっぱり女は結婚して子どもを産んで一人前よね。小さな子には母親が必要よ。
家を守らなくちゃ」
みたいなプレッシャーも受けつづけるため、
自分でもどちらも正しいと思い、
でもどちらも全うするなんてできない! どうしたらいいの! と
とてもストレスを抱えているよ、というお話。
このお話に出てくる母子も
それぞれにダブルバインドにとらわれた状況下で
お互いに傷つけあい、苦しめあいながらも
結局は愛し合っているから
そこから逃れられずにいるんだなあ、と思ったのでした。
端から見ると確かに狂ってるとしか思えないし、
実際狂っているんだろうけれど(ゴミ屋敷に住んでたりとかね)、
でも彼女たちの中での確固とした正義のなかで
確かに生きていて、
ある意味幸せなのかもしれないなあ、とも思ったのです。
とりあえず、あらすじを書いてみようかな。
実際の人物のお話なのだそうだし。
1941年アメリカ、
ニューヨークはイーストハンプトンのグレイ・ガーデンズ邸。
この家に住む名門一家の令嬢イディ(彩乃かなみ)の
婚約パーティーの準備が進められている。
ケネディ家、
そう、あのJFKのケネディ家の長男・ジョー(川久保拓司)との婚約。
母のイーディス(大竹しのぶ)は専属ピアニスト・グールド(吉野圭吾)と
歌の練習に余念がないが、
今までの恋をすべて母につぶされてきたイディとしては、
今度こそジョーと結婚してこのグレイ・ガーデンズを抜け出し、
新しい人生を始めたいと切望している。
果たして婚約パーティーの時間が近づいてきたとき、
別居中の夫から届いた電報を見て試みだした
イーディスはジョーにイディの逸話「ボディ・ビューティフル」を
話し始めてしまった。
青ざめ、イディに事の真偽を確認するジョー。
それもそのはず、ジョーはいずれホワイトハウスに乗り込むための
貞淑なファーストレディーを求めていたのだ。
婚約はご破算となり、失意のイディは
母とグレイ・ガーデンズを捨ててニューヨークに出て行く。
1973年。
グレイ・ガーデンズはゴミ屋敷と化している。
ここに住むのは年老いたイーディス(草笛光代)と
ニューヨークでモデルになったものの夢破れて戻ってきたイディ(大竹しのぶ)、
そして無数の猫。
従妹のジャクリーンがケネディ家の次男と結婚して
ファーストレディーになったことから
二人の生活はマスコミの興味にさらされるが、
そんなことおかまいなしに二人は毎日のように過去の幸福を追い求めている…。
そうなの、
二人ともきっと周りからも求められ、自分も求めた
「自分らしい生き方」と「家・規範」を
上手く噛み合わせることができなかった人なのだろうと思うのです。
そしてそれって実はそんなに珍しいことじゃない気もするの。
ある程度の年齢になると、
たとえば私もそうだけれど、ある程度で折り合いをつけていく術を身につける。
だけれど彼らは「家」とか「規範」とか捕らわれることを忌避し、
あるいはいっそ乗り越えてしまったうえで
「自分らしい生き方」を見つけたのかな、と。
二幕のラスト、それこそイディが屋敷を出ようとするけれど、
結局微笑みながら戻っていく。
あれは決して「年を取った」から、落ち着いたから、諦めたから、
というわけではなく、
それこそが彼女の選択、なのだろうなあと思ったのでした。
うーん。
キャストの感想も少しずつ語っておきましょうか。
■イーディス(1幕)・イディ(2幕):大竹しのぶ
「女優」を肌で感じました。
実は初・大竹しのぶ。やっぱりスゴイですね。
ジョーに「ボディ・ビューティフル」の話をするあたりとか
女のいやらしさを隠しつつ女のいやらしさを思い切り出していたり、
かと思いきやモジモジくんルックも惜しげもなくさらしたり、
あのスカーフを取った後ろ頭…!
彼女が無意識でいればいるほどその、失礼だけどグロテスクさが際だって。
正直、ラストシーンではあやうく号泣しかけました。
カーテンコールのご挨拶時も口元がゆがむのを必死に抑えていたのだけれど、
彼女がモジモジくんルックで出てきたのに笑って
ようやく耐えることができたですよ。
さすが元祖マヤ。
■イディ(1幕):彩乃かなみ
役柄のせいか、『 THE LAST PARTY 』を思い出させました。
あのときもフラッパーだった彼女が
自分の存在意義を思って狂っちゃう役でしたね。
難しい歌もさすが。
ていうか、大竹しのぶさんは、歌はそんなに上手いわけじゃないのね。
役者さんだからいいんだけど。役にも合ってるし。
そういえば、かなみファン的にはあのキスシーンはどうなんでしょうね(爆)。
とりあえず私は来年、山口○一郎とか内野○陽とか武○真治とかに
オペラグラスを投げつけないよう気をつけなければなりません。
■ジョー(1幕)・ジェリー(2幕):川久保拓司
ジェリーはどんな子なんだろうね。
可愛そうな子だとは思うけれど。
でも、ジョーとジェリーと役作りが全然違ってて、
最初こそ顔一緒だ! と思ったものの、
ストーリーが進んでからはあんまり感じませんでした。
でも、私はケネディさんとは結婚できないなー。
■ブルックスシニア(1幕)・ブルックスジュニア(2幕):デイビッド矢野
てか別人だったんだ!(爆)
こちらは同じ人を演じてるのかと思ったよ。
確かに「執事」と「農夫」くらいの違いはあったな(^ ^;;。
でも執事さん、一番感情移入できる普通の人でした☆
そして「黒塗り超丁寧だなあ! 外の舞台はすごいなあ!」と思って
失礼しました。
地肌でしたか。
■ジョージ・グールド・ストロング:吉野圭吾
吉野さんはピアノ弾けるんでしょうかね。
実際に音はあのピアノからは出ていなかったと思いますが、
でも音と手足の動きがほぼ合ってた〜(*^ ^*)。
某これから目の前の劇場でピアノを弾く誰かさんとは違ってたよ…(^ ^;;。
■J・V・ブーヴィエ少佐:三枝昭彦
イーディスのお父上。「規範」の人。
まっとうな人ではあったけれど、
惜しむらくはイーディスであったりイディであったり、
ちょっと型破りな女の子の育て方が上手くなかった、ということなのかなあ。
■イーディス(2幕):草笛光代
第一声の歌声に正直おののいたデス(^ ^;;。
でもおばあちゃまだもの、と思いながら。
お芝居はさすがやね〜。一つ一つにリアリティがございました。
缶詰を開けられない悲哀とか…辛い…。
■こどもたちふたり(ごめん、Wキャストだったのでどっちの子か分からない(^ ^;;)
小さい子の歌声がとても良かった☆
そして二人ともどうしても大根演技だったのは仕方ないね(^ ^;;。
可愛かったから許そう。
観る前に「重い話だよ。ずどーん、どすーん、だよ」と聞かされていたので、
なんとかして月組千秋楽レポを
これを観る前にあげてしまわなければと思ったのでしたが、
重い、けれど、共感できる話、でした。
下手な歌を嬉しがって歌い続けるお母さんとか、
すでに自分に近い感じ…(爆)。
そうそう、シアタークリエ初観劇だったので、
それも楽しみました☆
シャンテに繋がってたとは驚き。
でも確かにラウンジが狭いから、
幕間はいっそシャンテに出た方がゆっくりできるかもね。
(トイレの列のはけかたは素晴らしかったけれど)
fin
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