読書記録2000年6月
『東欧の歴史』
アンリ・ボグダン,訳:高井道夫(中央公論社)/歴史/★★★
タイトルそのまんま、原始、古代から現代まで、詳細な東欧の歴史。
こんなに分厚く情報量ギッシリの本を読むのは初めてだったかもしれない。読んでいて頭がくらくらした。民族、宗教、政治体制、列強からの支配…とにかく複雑、中世以前の歴史は全然頭に入っていない。中世も今まで思っていたキリスト教国対オスマン・トルコなんて単純な図式じゃないし。ずっと興味を持っていたテーマなんだが、結局私には難しすぎたということだ。
でもちょっと雑感を。
フランスのナポレオンや哲学者が東欧の「民族意識の自覚」にこれほど大きい影響を与えたとは全然知らなかった。1814年のウィーン会議以後長く続く革命や戦争を経て、第一次世界大戦後、ようやくそれぞれの民族の国を手に入れる…個々の民族が国家を持てたことが最近のことなんで驚いた。
ヒトラーが東欧の少数民族(ユダヤ民族を除く)に解放者のように慕われ、大いに支持を受けていたことにも驚かされた。
第二次世界大戦のあたりからがぜん面白くなってくる。この大戦後、ソ連はアメリカが日本にした以上のことをして東欧を共産圏に組み込んでいったわけだ。ソ連…したたかで恐い国だったんだな。社会主義が崩壊していく過程はだいぶ理解できた。
ほとんど記憶に残らなそうだが、とにかく、長い歴史を通して他の列強の国々に東欧はどれほど翻弄されたか、というのはわかった。あとこの間のNATOによるコソボ空爆のとき、なぜセルビア人とアルバニア人は対立したのか、なぜロシア軍が到着したとき、セルビア人はあんなに歓迎したのか、も歴史を知ることでかなり理解できたような気がする。
立花隆さんの書評にもあったが、人名索引しかないのは不便。「クリミア戦争ってなんだっけ?」とかいうとき探すのが一苦労。
大変だったが読んでよかった(でももうウンザリの)一冊。
『海からの贈りもの』
アン・モロウ・リンドバーグ,訳:落合恵子(立風書房)/エッセイ・人生/★★★
著者は北大西洋横断飛行を初めて成し遂げたあのチャールズ・リンドバーグの妻。長男を誘拐され(色々謎が多い)殺害されてしまった過去がある。
様々なテーマ、事柄が「貝」に例えて綴られる。わかりやすい哲学のよう。やりがいのない忙しい日々の生活の中で、本当の自己を取り戻すにはどうすればよいのか。本当の豊かさとは?自己を見つめ直すことで見えてくる世界とは?物や他者に縛られない自己を確立する、そして世界を捉え直す、というようなことが語られる。
フェミニズムの要素強し。ことさら女、女、と強調する事以外は多くのことに共感。なにも女性や中年でなくてもこういうこと考える。家事や子育てに疲れた三十〜五十歳位の女性が読めば楽しめるかな?
『O.ヘンリ短編集(三)』
O・ヘンリ,訳:大久保康雄(新潮社)/短編小説・アメリカ/★★★
有名な『最後の一葉』その他十四作。
私は単純だから少しひねった作品よりも、ストレートな『荒野の王子さま』が一番面白かった。こういう義賊の話、好きなんだよなぁ。いくつかは途中で結末がわかってしまった。しかしそれも、あぁやっぱり、と楽しい。
文章に所々どうも違和感がある、というかヘンだった。英語ができないクセにこう言うのはどうかと思うが、訳に問題あるのだろうか?
『子どもの聖書絵物語』
ケネス・N・テイラー,訳:西満(いのちのことば社)/絵本・キリスト教/★★★
旧約聖書、新約聖書を一冊でまとめているため、絵本とはいえページ数、文字数ともにけっこうな量。挿し絵がとても綺麗で美しく、ひとつひとつの場面が印象に残る。ちゃんと理解できているか、一節ごとに子供向けQ&Aがある。
私はキリスト教の知識ゼロ。で、聖書を読む前にその大まかな流れが知りたくてこれを読んでみた。…旧約の神ってこんな神なのか?積極的に人間に関わり、人間を試し、嫉妬深く…なんだかなぁ。旧約に比べれば、新約のキリストの説く神やその教えには拒絶反応が起きない。ただ奇蹟が多くて少しウンザリ。でもこれ子供は大喜びだろうな。「わ〜、イエス様ってすっご〜い」とか。その言わんとするものを読みとるにはこれでは全然足りない。徐々にオリジナルや関連図書に触れてみようと思う。
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2000/12 追記
今この感想を見ると本当に恥ずかしいね。なにも読みとれていないことがよくわかる。聖書は文字や言葉をそのまま読むものではない…。
『李陵・山月記』
中島敦(新潮社)/短編小説・中国古典/★★
『山月記』『名人伝』『弟子』『李陵』の中国古典をもとにした短編小説四作。
漢文に親しんでいて、儒教、道教など中国の思想をもう少し知っていればもっと楽しめたかもしれない。どういう意味だ、と首を傾げる箇所がいくつもあり、読解力の無さが情けなく思えてくる。わかるようなわからないような。力不足。
『ものがたり水滸伝』
陳舜臣(朝日新聞社)/小説・中国/★★★
『三国志演義』ほど有名ではないかな?同様の大衆的な活劇が、現代人にも読みやすく描かれる。フィクションだが、ベースは史実。
梁山泊に集まった、親しみやすく狭義に溢れる108人の好漢たちが活躍するのは爽快かつ痛快。横山光輝の漫画や他の本を読んでストーリーは知っていたので、好漢が新たに登場するたびニヤリ、と笑ってしまう。
後書きにあったが、宋江が頭領になった後もまだまだ話は続くそうだ。しかしこの好漢たちが朝廷に帰順し、死んでいくのを見るのは辛い。ここで終わるから、あ〜気持ちよかった、と言える物語かな。
『白きたおやかな峰』
北杜夫(新潮社)/小説・登山/★★
ヒマラヤ、カラコルム山脈に挑む登山隊のはなし。
劇画的だった落合信彦著『王たちの行進』を読んだ直後、また私には登山の知識がないこともあり、やや単調で退屈に感じた。しかしあちこちのクレバスの恐怖や体調不良のもどかしさ、アタックとその結末の緊張感は凄く伝わってきた。私は登頂を果たす登山隊よりもそれを導くシェルパの方が偉大だ、と思っているのだが、この小説のシェルパ共はどうしたことかヘッポコだ。
登山は地味なスポーツだが体力的にも精神的にもきつく、なにより命を賭ける苛酷なスポーツなんだ、ということを再認識させられた。