イスラエル左派は自殺の道を選択   

『イェディオト・アハロノト』2005.3.23     タニア・レインハルト/訳:脇浜義明

                  
 最近の政治ディスコースから判断すれば、今日左派であることは、シャロンを支持することを意味している。シャロン政府は不法入植地前哨地解体を先送りばかりしているが、入植地解体を政治の俎上に載せただけでも彼の真剣さの証明だという。彼はガザを撤退するだろう。その次に入植地前哨地を解体、そして最終的には西岸地区から軍を引き上げるだろう、という。こういうことを最も固く信じているのが、左派諸政党。いったいその根拠は?
 シャロンは真実を語らないことで有名な政治家だ。レバノン戦争のとき、彼は自分の作戦計画をベギン首相からも隠した。平気で約束をして平気でそれを破る。この3年間、自分の任期中に作られた不法入植前哨地を即座解体するとブッシュ大統領に約束し続けているが、実際はどうか? 何や彼や口実や事情を設けて、約束実行を先送りしている。彼の常套手段である。だから、ガザ撤退は別だと信じる理由はあるのか。これに対する左派・右派の返答は一様で、シャロンが変化した、というものだ。心理学では興味深いかもしれない答かもしれないが、事実問題として、その主張を支える裏付けは乏しい。現時点では、7月に予定されているガザ撤退はないという複数のシナリオを想定する方が、より妥当のように思える。
 例えば、撤退する入植者の待遇問題。彼らは政府の要請でガザに入った。当然、政府は撤退後の彼らの生活再建を補償しなければならない。本来なら、7月まで撤去できるように、すでに補償金を支払っているべきである。1982年のヤミト入植地撤退のときは早くから補償金が支払われて、期限になる前には入植地が空っぽになっていた。居座って抵抗した少数の者がいたが、彼らは外部からきた活動家であった。そこで生活の根拠を築いてしまった入植者にくらべ、活動家の場合は対処が簡単である。入植地解体局長ヨナタン・バッシによれば、現在ガザ入植地の住民の過半数が立ち退きの意志を表明している。では、何故シャロンは、彼らに補償金を支払って即座に立ち退きをさせてやらないのか。おそらく、第一次強制執行で、子どもや老人を抱えた家族を住み慣れた住居から追い出す光景をテレビ中継したいからであろう。国民や世界の人々に「悲劇」を見せて、入植地解体の困難をアッピールしたい計算なのではないか。
 それに、その補償金予算の決定が何故こんなに手間取っているのだろう。予算に反対する右派は、予算決定の前に国民投票をすることを要求している。入植者陣営主流派も、イスラエル社会から完全隔離する覚悟はなく、国民投票で多数派の意志が明確になればそれに従うと言っている。だとすると、ことは簡単で、要求どおり国民投票をやって、彼らのハッタリの化けの皮をひん剥いてやればよいのだ。これまで随時行われた世論調査によれば、ガザ撤退に賛成している国民は全体の60-70%という安定多数だ。数日前、テルアビブのステージ・クラブで起きた自爆「テロ」の直後に行われた世論調査でさえ、66%の人が、国民投票が実施されればガザ撤退にイエスと答えると回答している。だから、国民投票ではガザ撤退案が通ることは分かりきっている。右派もそれを分かっている。それなのに、何故シャロンは国民投票に反対しているのだろう。ひょっとして、国民投票の結果入植者が折れて、国民多数の意見に従うのを恐れているのではないだろうか。国民投票ではっきりすれば、いやでも早晩撤退を実行しなければならない。右派や入植者の反対が続いて、ぐずぐず引き伸ばしておきたいのが、彼の本心ではないだろうか。
 シャロンが変化した、とよく言われる。それを理由にして、左派政党のほとんどが彼の下についている。どんな政権にも名を連ねたがる労働党はもちろん、ガンジー(元将軍、元観光相だったレハヴァム・ゼエヴィのこと。極右国粋主義者、反アラブ主義の筆頭で、パレスチナ人の「トランスファー」を公然と唱えた人物。2001年に暗殺された。現シャロン・労働党内閣が彼を追悼する国民記念日の設定を決定した)の党も、ヤハド党(ヨッシ・ベイリン党首の穏健派シオニスト党)も、ハダッシュ(ユダヤ人・アラブ人連合の非シオニズム組織。正式名は「平和と平等のための民主戦線」。ムハマッド・バラケが議長。イッサム・マホール率いるイスラエル共産党もその中に入っている)も、シャロン支持だ。シャロンが、辛うじて残っている社会福祉予算を切り捨てるひどい搾取予算を提出しているのに、彼ら左派は、ガザ撤退案を提出していることを理由に、その極悪予算を通せと主張している。
 1年前のガザ撤退を要求する左派政党主宰のデモに参加した10万人の支持者のうち、今週末に行われた同種のデモに参加したのは、そのうちの1万人であった。参加しなかった9万人の人々は、左派から裏切られたという気持ちを抱いているようである。イスラエル左派は自殺の道を選択した。もはや有権者から見放された。彼らには、シャロンにすがる道しか残されていない。