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アソシ研 リレーエッセイ
  『きばのあるヒツジ』が示すもの

 

 

 

新規就農者の育成を目的に創設した「よつば農業塾」。主な研修の場は、大阪の能勢町にある農業生産法人「北摂協同農場」の畑。講師も摂丹百姓つなぎの会に参加する地場の農家が中心です。実際の農作業、地場の農家や各地の有機農業の生産者に教えてもらう現地研修、自分で作付け計画を立てた圃場での実践栽培を中心に、2年間しっかりと勉強してもらうことを目指しています。

  その農業塾の座学を、今年の3月から任されることになりました。特定の考え方や農法を押しつけるのではなく、自分自身で考え、判断し、選ぶことができるように塾生のお手伝いができればと考えています。その上で、村や地域の人たち、同じ志を持つ仲間と共に生きていくことを身につけてくれれば嬉しいのですが、塾生や若い世代に限らず、最も難しく根が深い問題でもあります。

  前回の本欄にあった「現代文明の抱えている病巣」という文言を見て、『きばのあるヒツジ』という絵本のことが浮かびました。30年くらい前に読んだ絵本なのでうろ覚えですが、たしかこんなストーリーだったと思います。

  オオカミから身を守るため、死んだ動物の牙や骨を「アラビアのり」で口に着け、キバを手に入れた羊たち。オオカミと互角に戦えるようになったものの、草が上手に食べられなくなり、ついには仲間の動物を襲い食べてしまう。次第に性格も凶暴化し、別の動物に変貌していく……。

  アフリカ大陸の地殻変動で森を失った人類が、肉食獣のエサとなりながら生きてきた太古の歴史。一説によれば、二本足で大地に立ち、仲間と助け合いながら、手や道具を使うことで何とか生き延びてきた最弱の哺乳類こそ、人類の祖先だそうです。とすれば、人間にとっての「キバ」は手や道具を使うようになったこと? それとも、仲間と助け合いながら生き延びてきたこと?

  福島第一原発の事故から1年。まだ事故の収束も原因調査も終了していないのに、原発利権に群がる「原子力ムラ」の面々によって原発の再稼動にむけた強引な動きが進められています。世論調査によれば、国民の約7割が原発に不安を感じ、過半数が再稼働に反対とのこと。そんな中で再稼働に奔走するなんて、全くけしからん連中です。  しかし、仲間の動物を食い殺す「キバ」が生えているのは「原子力ムラ」の面々だけでしょうか。あくなき「利潤」を渇望し、「1%と99%」を作り出す資本主義のシステム。豊かな自然の恵みも先人が培ってきた知恵も根こそぎ失われ、市場原理が病原菌のように蔓延した現代社会。これこそ仲間の動物を食い殺す「キバ」であり、まさに「現代文明の抱えている病巣」でしょう。マルクスが『資本論』で示した19世紀のパラダイムを克服できずに20世紀が終わり、21世紀もすでに10年以上が経過した現在の問題でもあると思います。

  ※「よつば農業塾」は研修生を募集中です。入塾は毎年3月ですが、体験研修は随時受け付けています。詳しくはホームページhttp://www.kita-osaka.co.jp/~nogyojuku/をご覧ください。

      (田中昭彦:関西よつ葉連絡会事務局)

 


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