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市民環境研究所から

「暑」で表された一年


 短い一年だったと独り言をいいながら、年末までに仕上げなければならない原稿書きなどをしている。この原稿もその一つである。11月末から始まるミカン収穫と販売作業を終えると、気が抜けてしまって仕事が捗らない。

 今年を表す一文字漢字は「暑」だった。夏は猛暑だったから適当な選択だとは思うが、菅総理には「熱」という字を送って、もう少し熱く語れと云いたい。彼が総理に就いてからの発言で、心に残る熱い言葉が見あたらないのは寂しい限りである。政治は言葉であり、それが政策にもなり、国と国民を動かすはずだが、支持・不支持に関係なく記憶に残る言葉ない。だから「熱い」ではなく「暑い」になったのだろうか。

 酷暑のお陰でミカンの方は品質がよく、去年のように台風で果実が葉ずれしなかったので、収穫期の腐りもない。消費者には好評のものを省農薬栽培でも提供できた。とは言え、不作である。去年が豊作で、隔年結果現象がはげしいミカンだから当然のこととはいえ、収穫高は昨年の6割程度だった。ミカン一筋の生産者にとっては痛いが、去年の豊作と帳消しをしてもらうしかない。

 この省農薬ミカン園の調査と販売活動をしている農薬ゼミという自主ゼミは35年間も継続しており、現在も10名ほどの京大生や京都学園大生が主力を構成している。メンバーが欠けることもなく、よくぞ続いているものだ。主宰する筆者も不思議である。省農薬ミカン園の生産者は70才後半の夫婦だったが、うれしいことに今年から長男が会社を退職してミカン農家を継いでくれた。後継者難のミカン村では明るい話である。後継者と農薬ゼミの学生との交流が深められ、新しい栽培管理が始まりそうだ。確実に両者の世代交代が進めば、新たな省農薬ミカン園が創り出されると期待している。こちらは「熱い」が当てはまる。

 そんな後継者の誕生とはいえ、不作に追い打ちをかけるようにタヌキとイノシシがミカン山に現れた。ミカンが実るほどに枝は低く垂れ、タヌキが容易に食べられる高さになる。上手に皮を剥いて食べているようで、地面に皮が散乱し、後継者の言によれば100箱分(1トン相当)ほどやられたようだ。イノシシはあの図体で歩き回るから枝が折られる。以前からタヌキもイノシシもいることはいたが、ミカン園をこれほど荒らすとは。ついに電気柵を設置する羽目となった。

 各地でのクマの出没事件は、ナラ枯れの進行で動物の餌がないのが原因だろうと云われている。山の中では我々が知らないようなたいへんな現象が発生し、野生動物が山から下り、我がミカン園まで来なければならない状況があるのだろう。やはり「暑」が今年を表す一文字と納得して年が終わりそうである。
                                          (市民環境研究所:石田紀郎)



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