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アソシ研リレーエッセイ

即身成仏と高野豆腐


 前号で田中さんが書いていた「国賊といわれた親を持つ目の大きな女性」。ぼくも何回かお目にかかったことがあります。残念ながら一方的に話を聞かせてもらうだけで会話をしたこともありませんが、凛という字はこの人のためにあるのかと思うほどステキな人でした。松下竜一さんがこの人について書いた本を読んで、思い入れがずいぶんあったためかも知れませんが。

 同じ前号で石田紀郎さんが追悼している中南元さんは、もう少し近い存在でした。中南さんが所長となった環境監視研究所は大阪市港区の松浦診療所の中にあって、ウチのヨメさんがここで看護士をしていた関係で、ぼくも混ぜてもらって、いっしょに職員旅行に行って酒をくみ交わしたりしました。原則的で厳しい人なんですが、笑顔のステキな人でした。

 うちの田舎は愛知県の豊橋ですが、法事の精進料理というと必ず、大きなひろうすを甘辛く煮たものが出てきました。ひろうすと言っても、関西のそれのようにいろんな具が入っているわけではなく、しかも、野菜との煮き合わせでもなく、実にシンプルなものです。しかし、でっかくておわんにデンとすわっていて、存在感がありました。もちろん、おいしかったです。当時のわが家ではひろうすを食べる習慣がなかったこともあり、法事と言うとひろうすの甘辛煮を思い出します。

 ここのところ、日本の伝統食と仏教との絡みについていをいろ調べていて、面白いことがわかってきました。関西よつ葉連絡会の『ひこばえ通信』に二回にわたって書きましたので、興味をお持ちの方はそちらも読んで下さい。

 仏教と言っても特に禅宗が食べる物にうるさいようです。おシャカさんは殺生を禁じて動物を食べないことを戒律のひとつにしました。これがシルクロードを通じて中国に伝わり、それまでにあった本草学と融合することで、「動物を食べない」から「野菜や果物などの植物を上手に利用してどう食べるか」へ発展したように思います。

 禅宗は、信仰を説くよりも、成仏をするためのノウハウを説いているようなところがあります。そもそも栄西が中国から禅宗を持ち込んだ時も、当時普及していた天台宗や真言宗と対立して一派を立てるのではなく、それらの宗派にとりこんでお茶や禅を広めることに力を注いだようです。この点が、今でも栄西に対する悪評として残っていますが、一方で、鎌倉幕府の公認宗教となり一気に普及するもとになりました。禅宗が進める食べ物が健康にいいばかりでなく、坐禅を組むと自律神経のうちの副交感神経が優位になり、リラックスできてストレスが解消し、消化にもいいことがわかってます。

 空海は即身成仏してミイラになったと言われています。動物性のものを食べず菜食で便通がよくて宿便がなく、腸内がきれいな状態で、まずは断食をして、最後に水を断てば安楽死ができるはずです。エジプトのファラオは死後に開腹をして腸内をそうじしたそうですが、その必要はありません。あとは、冬の高野山であれば、高野豆腐を作るのと同じ要領でミイラ化するはずです。

                                                (河合左千夫:㈱やさい村)



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