●ヤギに青草を与える筆者
●急峻な山の斜面に作られた畑
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ネパール・タライ平原の村から ④

どんな作物を栽培しているのか

 今年からネパールの農村で生活を始めた、元よつ葉農産社員の藤井君による、ネパールの人々の暮らしや農業に関する定期報告。今回は、その四回目。

 農繁期の夏にヤク(高山牛)が放牧される高度4000m以上のヒマラヤ山脈から、穀倉地帯が広がる低地・タライまで、南北わずか170kmのネパール。こうした高度差の激しい地形は、標高や地域に応じて、様々な農業を生み出しています。といっても、実際には、まだほんの一部しか見たことがありませんが。

 主要な作物は、水稲だけではなく、小麦・大麦・シコクビエ・そば・トウモロコシ・じゃがいも・陸稲と多岐に渡ります。とくに十分な水を確保できない山岳部では、米以外の雑穀が主食となります。今回は、滞在するタライの1年間の作付けを例に、ネパールの農業について考えてみたいと思います。

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 1月~3月。雨が降らない日が何ヶ月も続く乾季後半にあたります。穀類が収穫され、休耕田では牛・ヤギが放牧されます。牛・ヤギの糞尿は、そのまま堆肥となります。

 4月~6月。気温40度を超える日が続くようになり、時に強風や雷雨が訪れ、不安定な季節となる雨季直前です。畑地ではトウモロコシの播種が始まります。そして6月になると、水田の一角に苗代が作られます。

 7月~9月、年間降水量の約8割が集中する雨季です。家畜飼料として利用される野草や低木が一斉に伸び始め、水田では水稲が栽培されます。畑地では、トウモロコシの収穫を待たずにシコクビエが混植されるところもあります。

 10月~12月、再び長い乾季へ。稲が収穫され、その稲ワラは牛の飼料となります。水田地帯では裏作として、ダル豆(レンズ豆)・小麦・大麦・そば・アブラナ(油料種子)が栽培され、水利条件の良い場所では、米の二期作もあります。

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 こうした気候条件と作付け体系を見た時、日本と大きく異なる点は、ネパールが温帯ではなく亜熱帯に位置するということです。亜熱帯・熱帯性気候の大きな特徴として、①雨季と乾季が明確、②高温で日射量が強いため、土に蓄えられる有機物がすぐに作物に分解・吸収され、植物の生長が早い、などが挙げられます。これらは、日本を含め、温帯に多い先進諸国で考えられた生産技術、つまり近代農法が、そのままあてはまらない理由の一つでもあると思います。

 気候条件だけではありません。農業そのものも大きく異なります。例えば、水田以外の畑では、必ず数種類の作物が「不規則」に混植されます。また、日常の作業では、森林や田畑の野草を青刈りして家畜飼料の青草を確保することも不可欠です。農産物には、大きさや形、色合いといった「規格」の概念がありません。ほとんどが自家消費か、村内で売買・分配されるため、日々の農作業の向こう側に、消費者がいるという意識もありません。村の中では、農業を「一つの産業」として語る人は誰もいません。まさに、日本とも西欧とも異なる自然条件や土地柄に根ざしたネパールには、ネパールの農業があるのです。

                                                         (藤井牧人)


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