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市民環境研究所から

政権交代は日本の原則を破壊する?


 この酷暑の毎日は、夏好きの身にも苦しいものである。地球温暖化という言葉で説明できるのかどうか知らないが、酷暑とゲリラ豪雨は大きな被害をもたらし、繰り返し村を町を人を襲っていく。

 参議院選挙で民主党が敗北したが、自民党が勝ったわけでもなく、民主党菅政権は衆参両院の勢力ねじれ現象に苦しむ国会運営を強いられることになった。「政権交代」とはいったいなんだったのだろうと思う。衆議院選挙で掲げた「コンクリートから人へ」のスローガンは新鮮であり、無駄な無謀な公共事業にうんざりしていた国民の心をとらえたが、沖縄基地問題に関する処理の失態で人々に失望を与え、鳩山と小沢の金の問題が追い打ちを掛けた。

 菅政権になればと思っていた人もいるだろうが、7月27日の全国紙の朝刊に「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」からの報告書案なるものが報じられた。この懇談会は、菅首相の私的諮問機関であるという。どれほどの公的意味があるのか知らないが、その報告内容には怒りを禁じえない。

 「非核三原則に関して、一方的に米国の手を縛ることは必ずしも賢明でない」、「武器輸出三原則下の武器禁輸政策は見直しが必要」、「PKO参加5原則は修正を積極的に検討すべきだ」、「集団的自衛権を柔軟に解釈し、制度を変える必要がある」。

 戦後、我が国がまがい物であっても守ってきた原則を根底からひっくり返して、「基盤的防衛力の概念が有効でないことを確認し、離島地域への自衛隊の部隊配備する」というのである。まさに軍隊を早く持ち、戦前の国家に向かおうというものである。

 なぜ菅首相は、このような結論を出すと予測できるメンバーに私的に諮問したのであろうか。民主党が言い続けていた政権交代とは、日本の原則を根底から破壊することだったのだろうか。

 懇談会の全メンバーについて熟知していないが、中心人物の一人には見覚えがある。東南アジアの研究者として著名であるが、彼の現地研究は地域を歩き、人々の生活を知り、語らうことではなく、出迎えの政府の車で動くと言われていた。

 我が国のアフガン戦争加担決定時の新聞へのコメントでも、東大の国際政治学者の方がよほどリベラルな人間的発言で、京大時代の彼の発言はまさに軍事重視のみであった。

 このメンバーを選んだ段階から、菅政権はもっとも大衆とはかけ離れた存在になりたかったのだろうとさえ思う。「政権交代」で当選した民主党の若き政治家が、原爆投下の日の直前に発表されたこの報告書の真意を糺し、やりたかった政権交代の真意を国民に話すべきだろう。

                                                  (石田紀郎:市民環境研究所)



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