●2010年開園式での労働会員の人々
●配送会員専用の野菜ボックス
●農園の圃場(ニンジン畑)
小毛驢市民農園のカンバン
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中国農業における新たな試み


中国における「地域が支える農業(CSA)」の実践

小毛驢農場の簡単な紹介


 【解題】かつて本誌に中国農村交流ツアーの報告を掲載した際、晏陽初郷村建設学院について記したことがある(第37号、2007年2月)。同学院は03年7月、中国における「三農(農業、農村、農民)問題」研究の第一人者である中国人民大学の温鉄軍氏を中心に、大学や研究機関、香港のNGO、行政機関などが協力し、河北省定州市の農村地帯に設立された実験学校である。各種の農民向け研修講座や自然と調和した新たな農業モデルの形成、中国内外における農村復興、農村自立の実践例に関する研究と交流、地元の村との共同作業など、意欲的な活動を展開していた。

 ところが、訪問からしばらく後、学院は閉鎖を余儀なくされる。表向きは「海外(香港)の団体から資金を受け、活動報告を行うことは好ましくない」との理由だったが、その実、中国にはありがちな、共産党-政府の内部における派閥争いのとばっちりだったようだ。とはいえ、その後も再生を目指す試みは続けられていた。その結実が、以下に紹介する「小毛驢(小さなロバ)市民農園」である。

 執筆者の潘傑(はん・けつ)さんは現在、香港大学の博士課程で学ぶ大学院生である。もともと大陸出身であり、国営研究機関「中国社会科学院」の副研究員だったが退職し、香港大学で研究することになった。研究テーマは「農村と都市の産直活動に関する日中の比較研究」だという。

 実は、晏陽初郷村建設学院の実務責任者だった香港NGOのSさんとは、その後も多少の連絡関係があり、昨年そのSさんがら、よつ葉グループの取り組みを潘傑さんの研究題材にしたいが、そのために1年弱の間よつ葉のフィールドワークをさせてほしい、と依頼された。

 そんな経過で、この6月から当研究所に拠点を置き、フィールドワークのための下調べを行っている潘傑さんにお願いし、以下の文章を書いてもらった。原文は中国語。邦訳は山口協である。(山口)



はじめに

 近年、中国の食品工業は速い速度で発展しており、食品工業の総生産量と販売収入はすでに数年にわたって中国製造業の中で最高位を占め、国民経済の発展にとって重要な産業の一つになっている。人々の食品の消費は次第に変化し、元々は主に家庭で調理していたものから、専門企業の加工生産が主要なものへと変わった。大量生産、運送、貯蔵のために、食品に多種多様な化学添加物がますます多く使用され始め、食品の安全を脅かしている。近年、食品の安全に関する問題がしばしば発生し、マクドナルド・ハンバーガー事件やネッスル沃素粉ミルク事件など、ブランド食品でさえ続けて問題が生じている。

 食品の安全に関する問題は、すでに日を追うごとに人々が強い関心を払う問題になっている。食品の安全に関する問題が日ごとに深刻化する中、中国政府は2009年2月28日に新たな『中華人民共和国食品安全法』を発布し、同年6月1日に施行を開始し、法律・法規の効果的な運用を通じて食品の安全に関する問題の解決を促進しようとした。同時に、有機食品を成育する多種多様な実践は民間の重要な努力であり、小毛驢市民農園は、まさにその一つである。

 筆者は2010年4月と6月、小毛驢市民農園と国仁緑色連盟を訪問し、こうした問題について農場の責任者にインタビューした。


小毛驢農場の設立の経過と概要

 小毛驢市民農園は2008年4月に開設され、約15ヘクタールの面積を有し、北京西郊に位置している。北京市海淀区政府、中国人民大学農業・農村発展学院と北京の緑色一族生態農業発展株式有限会社が共同で建設した産学研究基地であり、具体的な運営は、中国人民大学郷村建設センターに所属する国仁城郷(北京)科学技術発展センターが責任を負っている。2009年3月、小毛驢市民農園は正式に「地域が支える農業(CSA)」(訳注1)の方式で運営を始めた。こうしたCSA運営モデル、生態(エコロジー)農業、持続可能な生活の理念は、多くの北京市民の共感と参加を得て、2009年には55人がメンバーとなった。2010年、小毛驢市民農園のメンバーは320名あまりにまで増え、そのうち配送会員は200数名、労働会員は120名である(訳注2)。


小毛驢農場の人員構成

 現在は4人の管理者がおり、国仁城郷(北京)科学技術発展センターに所属している。ほかに地元の農民13人を雇用し、主に耕作と生産の指導を担っている。実習生とボランティアが合わせて20人ほどおり、そのうち香港嶺南大学の実習生2人、パートタイム・ボランティア3~4人を除いて、残りはすべて期間1年のフルタイムの実習生である。実習生は農場の生産、流通、諸活動を実施し、宣伝する主力であり、これらの実習生は、全国の大学、非政府団体(NGO)、失業青年などの中で、生態農業やCSAの運営、更には都市と農村をつなぐ事業に興味を持つ人々の中から小毛驢市民農園に集ってきた。小毛驢市民農園の初期の会員は知識人や有名人が多数を占めていたが、2010年の会員は大部分が自家用車を所有する中間階層であり、子供を持つ若い家庭および老人や病人を抱えた家庭も相当の割合を占めている。


現在の活動内容

 小毛驢市民農園の活動内容について、農園の資料では次のように紹介されている。

●労働会員:計画では100戸(実際は120戸)

 ・農園のサービス:30平方メートルの野菜畑、4月初めから11月末までの栽培に必要なすべての種子、150キロの有機肥料 、および必要な農機具、栽培技術のサービス。
 ・会員の責任:毎週不定期に農場へ菜園を管理しに行き、栽培と収穫に関するあらゆる仕事を引き受ける。農場の有機耕作に関する規定を守り、予め年間使用料1200元を支払う。
 ・会員の収穫:自分の土地にある有機作物すべて、家族と農耕の楽しみを共有すること。

●配送会員:計画では200戸(完全会員150戸、半分会員50戸)

 ・農園のサービス:5月末から11月中旬までの合計24週間の新鮮な旬の野菜を、完全会員には毎週2回配送し、半分会員には毎週1回配送する。24週間で配送される野菜の重量は、完全会員の場合は合計240キロ以上、半分会員の場合は合計120キロ以上である。毎週の野菜は計3種類以上、季節によって作られる種類は変化する。
 ・会員の責任:24週間のうちに農場を訪れ、計10時間以上労働奉仕に参加する。
 ・会員の収穫:毎週季節に応じて地元で生産された新鮮な有機野菜、また農場見学もでき、家族と農耕の楽しみを共有できる。

●配送方法は以下の四つ
ニンジン畑
 ①農場での野菜受け取り:毎週決められた時間内で、会員のために用意した野菜ボックスを直接農場までを取りに来る方法。完全会員は週2回で半分づつと週1回で全部とを選択できる。会員は予め会費を支払わなければならない。(半分会員1440元、完全会員2880元)

 ②指定場所での野菜受け取り:私たちは特別に蘇州街と回龍観に野菜受け取り所を開設しており、会員は毎週決められた時間内に指定した受け取り所で野菜を受け取ることができる。会員は予め会費を支払わなければならない。(半分会員1600元、完全会員3200元)

 ③定点配送:5人以上の団体は特別に一つの場所を指定することができ、私たちは人数に応した量の野菜を合わせて指定の場所に配送することができる。会員は予め会費を支払わなければならない。(半分会員1700元、完全会員3400元)

 ④戸別宅配:私たちは直接野菜ボックスを会員宅に配送することができる。会員は予め会費を支払わなければならない。(半分会員2000元、完全会員4000元)。(宅配範囲は北京の市街地に限定)

●特別製品サービス:農園以外に国仁緑色連盟に所属する50数軒の有機食品協同組合が提供する有機飼料で育てた豚肉、卵、各種キノコ類、穀類などの製品を提供している。しかし、このサービスは戸別宅配の会員に対してだけである。


国仁緑色連盟

 小毛驢市民農園の特別製品サービスに関連して、小毛驢市民農園の仲間である「国仁緑色連盟」について紹介したい。国仁緑色連盟も中国人民大学郷村建設センターの傘下にある一団体であり、2005年に創立された農民の協同組織の連合体である。最も重要な目標は、協同で北京に市場を開拓することである。当初、国仁緑色連盟には7つの農民協同組合が加盟していた。2005年には15の地方の協同組合が加盟し、2006年にはさらに20団体が加わり、現在は合計50あまりの協同組合が加盟している。

 国仁緑色連盟の主な業務内容は、たとえば、農民を組織して健全な生産協同組織を設立し、健康な農業生産を推進して有機・無公害農産物を生産することであり、あるいは、地域の消費者の組織を通じて健康な消費を提唱し、農民が生産する有機・無公害食品を私たち市民の食卓に送り届け、生命の有機的な好循環を形成することである。将来の事業計画は、さらに多くの農村で農民の協同組織の設立を支援し、国仁緑色連盟の健康な農産物の生産基地とすること、都市における健康な消費の協同組織の設立を推進し、農村における農民の協同組合の発展と力を合わせて、都市と農村の調和のとれた発展を実現することである。


小毛驢農場の価格設定

 北京と上海の有機食品市場に対する調査によれば、有機食品は普通の食品の価格に比べて一般的に30%~80%高く、一部の品目、例えば有機野菜の価格は普通の野菜の2~3倍である(訳注3)。こうした値段は多くの市民をしり込みさせるものであり、有機野菜は少数の富裕層の食卓にしか上らず、この間、有機野菜を食べられることが「中産階級」であることの一つの指標となっている。

 小毛驢市民農園は設立した当初から、普通の市民すべてが安心野菜を食べられるように価格を設定している。地元政府によるプロジェクトの運営を通じて、小毛驢市民農園は現地の農民を農園で雇用することを条件に、土地230ムー(1ムー=667平米)の無料使用権を獲得し、また実習生の制度を実行し、人力のコストも大幅に減らしたので、最終的に小毛驢市民農園の野菜の定価は普通の野菜に比べ、平均して50%高いくらいにまで下げることができた。国仁緑色連盟の米の価格は普通の米の平均価格に比べて30%高く、基本的に普通の市民にも消費可能だと思われる。


生産基準と認証基準

 小毛驢市民農園は無農薬生産、有機肥料使用の生産基準を堅持している。野菜、肉、卵を生産する上では小規模多品種を主張している。有機食品の認証標準については、中国にはまだ有機食品の国家基準がないため、多くは国外の有機食品の標準を採用している。しかし、国外の有機食品の基準は、欧州連合(EU)の認証機構QC&I、米国の認証機構IBD、オランダの認証機構Skalのように違いがある。中国国内では、FOFCC(QC&IやIBDと相互認可の協議で合意している)が有機産品に関する最初の認証機構の一つである。「市場では多くの食品が有機マークを付けているが、実はまったく規格に適していない。関係者によれば、中緑華夏有機食品認証センター(COFCC)と国家環境保護部有機食品発展センター(OFDC)などのマークがあるものは、すべて国家が認可した有機食品である」。小毛驢市民農園の責任者は、このように評価を述べた。だが「この二つの基準は認証のための費用が比較的に高い。卵を例にすれば、認証費用は書類審査、実地現場検査、検査報告の作成などを含み、各産品の認証費は、それぞれおよそ一万元が必要である。しかも、認証を受けるには少なくとも10トンからでなければならず、小規模の農産物の認証には適していない」。そのため、小毛驢農場と国仁緑色連盟は一貫して、すべて「感情認証」――信頼に基づく認証を採用している。

 「感情認証」は、国仁緑色連盟と小毛驢市民農園が発展する過程において、国仁城郷(北京)科学技術発展センターが一歩ずつ形成した、農村の分散した農家に適した農産物の品質管理の方法であり、正規の認証体系における認証方法とは異なる。国仁城郷(北京)科学技術発展センターが自らのこの認証方法を「感情認証」と称するのは、双方の関係を認証することを意味し、単純な商業規則に基づくものではなく、感情と関わっているからである。具体的に言えば、同センターの従業員は自ら「生産者」とともに慣行農業から生態農業への転換過程に参加しなければならず、この過程における「生産者」の苦労を体験し、彼らの転換期の苦痛について我がことのように思う感情を共有している。「感情認証」が成功するか否かは、「生産者」と同センターの間に相互の信頼関係が形成できるか否かにかかっている。


問題と今後の計画

 小毛驢市民農園はもちろん国仁緑色連盟も、いかに低コストを実現し、市場占有率を高めるために努力するかが依然としてさらなる発展の直面する主要な問題であることを示している。また、長距離輸送における鮮度保持の技術なども乗り越えるべき問題である。生産協同組合の活動内容に関する管理監督も、一つの重要な課題である。

 小毛驢市民農園は模範教育農場として、すでに基本的に業界と一般の認可を得ているが、今後の発展計画は各省にモデル農場を普及させることであり、また「消費者協同組合」と「生産者協同組合」をさらに発展させることが、国仁城郷(北京)科学技術発展センターの今後の主要な計画である。長期的な発展戦略は、農園と地域が農業を通じて結合し、公平な貿易と生態農業の理念に則って、地域の生産者と消費者の新たな相互協力を形成し、食品の安全、自然と調和がとれた都市と農村の持続可能な発展を推進することである。
           (潘傑:香港大学大学院)

【訳注】
 
(1)CSAはCommunity Supported Agricultureの略。米国で90年代以降に広がった、小規模農家を地域の消費者が買い支える取り組み。消費者が1年分の農作物を前払いで契約し、生産者は収穫した作物を直接消費者に届ける。日本における「提携」と「地産地消」に相当する。
 (2)配送会員、労働会員の「会員」は、原文では「  」。CSAで消費者を「Share Holder」と呼ぶことから、同義の中国語を適用した模様。「Share」には「分かち合い」の他に「参加」や「負担」の意味もある。
 (3)ここでの「普通」とは、都市の公設市場における商品を指す。中国では公設市場が小売りの中心であり、価格はスーパーの半額程度という。



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