●研究会のひとコマ(軽食付き)
HOME過去号>76号  


研究会報告―未来と食卓~食べもの研究会2010


食べ物と社会とのつながりを考える



 研究所では今年から、「未来と食卓~食べもの研究会2010」を開始した。食卓や食べものと社会や農業とのつながりを考えることが目的だが、よつ葉の各現場で働く人々と研究所の活動とが直に噛み合うような研究会が必要だと考えたからでもある。以下、この間の模様と参加者の感想を紹介する。


 研究会開催の発端には、研究所で食や農の情報を取りまとめる中で、よつ葉で働く人々が食べものや農業のどんな情報を必要としているか、かねて疑問に思ってきたことがある。さらに私自身が育児と農業に関わる中で、食卓や農業の在り方について考える機会が多くなったこともきっかけとなった。これまで食や農の問題を、様々な角度から考えてきたつもりだったが、今後の、未来の食卓と農業のつながりを考えるとたちまち答えに窮する自分に出会ってしまったのだ。

 これまで研究会で取り上げたテーマは、「米」「大豆」「味噌」「小麦」「野菜」「乾物」。世話人の私だけでなく、参加者にも報告していただいている。しかしいざ調べるとなると各テーマそれぞれ奥が深く、例えば米なら米でどんな角度から何を調べるか、誰が担当するか毎回研究会の最後に紛糾する。配送などの現場で働く人々がほとんどのため調べる時間がなかなか取れないにも関わらず、担当者みなレポートを作成し熱弁を奮って下さる姿に感服するばかりだ。

 ここで、「お米」の回の様子を紹介してみよう。話者は私と京滋産直センターの光久さんと中澤さん。そしてふるさと広場高の原店の肥田さん。テキストはそれぞれ『アメリカ小麦戦略と日本人の食生活』(鈴木猛夫)、『イネの歴史』(佐藤洋一郎)、『今、日本の米に何が起こっているのか?』(岩波ブックレット)。

 光久さんからは題名の通りアメリカの食料援助と日本の戦後の食生活との関係について資料を交えながら紹介していただく。よつ葉のコアメンバーであれば既知の事実であろうが、参加者には目からうろこが落ちたという感想が出てくる。中澤さんからは資料を読んだ感想を口頭で説明いただく。テキストは、確かにイネの伝来を調べたものであるが、学術的な内容で読むのに閉口したという率直な感想も出てくる。

 資料の選定は一番悩むポイントだ。各テーマの課題に沿った資料をあらかじめ用意しておくが、外れることも多い。肥田さんからは、テキストに偶然掲載されていたよつ葉取り扱いメーカー「芽吹き屋」を中心に発表いただいた。日頃実際に扱っている商品の背景情報だけに、参加者の関心も自然と高まる。実際の業務で関係するメーカーなども入り口に話題提供をする必要があると感じる。この点は研究会を実際開いてみて初めてわかった。私を先頭に試行錯誤を続ける姿を温かく見守ってくれる参加者に感謝することも多い。

 私としては、各テーマに沿ってよつ葉の商品の向こう側にある基礎的なデータを示し、取り扱う商品や背景にある現実を考えてもらえるよう心がけている。しかしこれがなかなか難しい。聞く側にとっては、情報が多すぎ、かえってわかりにくくなり、慣れない私の運営に頻繁に横やりが入り、話がさらに横道に逸れていくことが多い。ただ、これまでの学習会と比べると参加者全員が意見出来るという評価もいただくこともある。
研究会
 研究会も半年を過ぎたので、今後は良い面と悪い面が相乗効果を持ちつつ運営をしていくことが課題だと感じている。今年の目標は発表した内容をまとめてよつ葉の職員に情報を発信し、参加者以外の人々と議論を始めていくこと。そしてそこから研究会そして未来と食卓の関係についてのイメージが飛び交い始めることを期待している。

                  (松平尚也:研究会世話人)


【参加者の感想】

よくわからないけど、少しだけ賢くなっている…みたい!?


 最初に「たべもの研究会」のご案内をいただいたとき、弊店でとても行きたがっている人がいたのに、仕事の都合で通えそうになく、「資料だけでももらって来てね」とピンチヒッターで、私が出席することになりました。

 自他共に認める“食いしん坊”なのに、ここ数年はどうやら、トランス脂肪酸を含んだ食べ物に胃腸が反応するらしく、食事に気を遣うことが多くなりました。なによりも来店される方からの問い合わせや疑問に応えるためにも、参加させていただけてよかったです。

 数年前に栄養学の入門書の編集をしたことはありますが、食品についてのまともな知識もないし、最近は読書よりも台所に立つ時間の方が長いので、新聞も読めなくなっている身にはなかなか、ついていくのが大変です。松平さんの提供される資料やみなさんのレポートのおかげで、たとえ“耳学問”でも少しは賢くなっていくような気がします。

 特に、私たちの嗜好が戦後の戦略的な食料政策(主に米国の、そしてそれを受け入れた日本政府)の影響を強く受けているという参加者の方のレポートは、知っていたつもりでも衝撃でした。

 資料を読みこなす時間も少なく、みなさんの足を引っ張っているかもしれませんが、私は毎月、楽しみにしています。

                                 (肥田ひかる:ふるさと広場・高の原店)


楽しみながら調べて学ぶ場として

 正直に言います。僕はアソシ研の会報誌はなかなか読まない。この文章も、果たしてどれだけの人が読んでくれるのかな……。と、後向きな話はこれくらいで、研究会に初参加した経緯や感想を徒然に書き綴ります。

 研究会の募集があった当時、僕は週5日で配達に出ていた(今は週4日)。会員さんは十人十色で考えは多岐に渡っていて、日々お話しするのが楽しくて仕方ない。しかし仕事に追われる日々が続くと、会話もマンネリ化してしまう。同じ話で深みは出ているのかもしれないが、広くはならない気がしていた。食を通じて個人と個人がつながっていることを僕は実感したいし、会員さんにもして欲しいと思っている。そのための「引き出し」を作りたかった。これが一つ目の理由です。

 また、昨年の“よつ葉の学校”の津田さんの連続講座以降、もっと本を読まないといけないし、読みたいと心底渇望し出していた。にもかかわらず、自分で読むよりは他人の報告を見聞きしながら議論をしたいという他力本願な動機もあった。

 いざ参加してみると、各人がそれぞれ発表しあうという形で進めることになった。研究会なので当然なのだが、自分が甘えていた事に気付かされた。ならば他の誰かではなくて自分でと思い、発表者に手を上げてみた。また、参加前には、「次回はこれこれをやります」と形があって、それに沿って進めていくイメージだったが、そこはよつ葉らしく(!?)、参加者が自ら形を作っていくものでもあった。この曖昧さがアソシ研に対する堅いイメージを変えたのは事実だ。

 行っていることは、さながら小学校時代の夏休み明けの自由研究発表会、その大人バージョンと言えるかもしれない。楽しみながら調べて学ぶ場と僕は捉えている。事実、ここまでに“小麦博士のフィールドワークを中心に書かれた本”と、“お米研究の権威の学術本”の二冊を読み、要約し、発表をしたが、この研究会がなければ、一生読まなかっただろう。そこには、普段何気なく食べている食材の歴史、国家の戦略、そして暮らしの変化が垣間見える。

 こうしたテーマに沿って、参加者全員で体験や知識をもとに意見を出し合っている。ツボにはまった時の松平くんの知識は凄いし、参加者同士の意見交換が実に楽しい。そしてこれこそが、アソシエーションだと僕は考えている。

 この研究会が、どこに向かってまとまっていくのか、参加している僕らもまだ分からないが、これからも楽しみながら学んでいきたい。

                                  (中澤将元:よつ葉ホームデリバリー京滋)



©2002-2019 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.