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    コラム 南から北から
   粗飼料生産農家か、山地放牧の拡大か


 ふと見ると、ゼンマイが顔を出し、馬酔木が花を咲かせました。どちらも牛にとっては毒ですが、春の訪れを教えてくれました。急に暖かくなり、牧草が一気にグンと伸びました。冬には、早く春が来て牧草回収を楽しみにしていたのに、すでに回収に追われ、ヒーヒー言いそうになっています。これから回収に種蒔きと忙しい季節の始まりですが、3月中旬から天気が続かず、思うようにいきません。さてさて、今年は無事に牧草回収が出来るのでしょうか。

 11月から続いている牛の事故ですが、2月も流産が起きてしまいました。予定日1ケ月前に産気づき、出てきたときには死んでいました。家畜保健所が解剖、調査してくれましたが、はっきりとした原因は分かりませんでした(前回お話した麦角菌も検出されず……)。原因が分からぬまま牛を飼うのは怖いです。でも、少しでも原因と考えられるものを除去しながら飼うしかありません。3月8日に無事にお産があり、ほっとしました。これまで無事に産まれてくるのが当たり前だと思いがちでしたが、こんなにありがたいことなのだと実感しました。

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 牛の事故が重なり、この先どうしていくのか、牛飼いを辞めることまで考えていました。牧草作りに忙しく放牧場の管理ができていなかったこと、子どもが産まれ生活リズムの見直しが必要だと感じたことを踏まえて模索する中、大きく2つの道が見えてきました。1つは、牛の頭数を減らしてWCS(飼料作物をラッピングして乳酸発酵させたもの)や牧草を作る粗飼料生産農家になること。もう1つは、放牧場を拡げて春~秋は芝で粗飼料を賄い、冬用に少し牧草を作ることです。どちらも粗飼料自給率を上げるのが目標ですが、WCSは補助金ありきなので不安定です。補助金があるため低価で売買できますが、この補助金がなくなれば利益は出ません。頭数が減っている中、収入を見込めなくなります。

 一方、山地放牧は土地資源に恵まれない日本ならではの飼い方で、粗飼料の自給だけではなく、山の景観を維持し、根張りの強い芝草地になるので土砂流出にも繋がります。芝は冬に枯れてしまうため、冬用の粗飼料として牧草を作ったり、カヤを刈ったりする必要はありますが、一度定着すると根を伸ばして拡がっていき、牛が食べて糞をすることで更に拡がっていきます。しかし、粗飼料を芝で賄うためには広い面積が必要で、今の8haの放牧場から目標の30haに拡げるには、木の伐採、搬出。柵代、設置費、芝代、定植作業の人件費等、多額の費用がかかるのが課題です。

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 現在、耕作放棄地や森林荒廃が問題となっています。畔草やカヤもたくさんあります。耕作放棄地でWCSや牧草を作ったり、畔草やカヤを刈るだけで感謝されるのです。今こそ小規模の畜産農家の出番です。最近は環境負荷の観点から牛肉を敬遠する動きも出てきていますが、畜産はこれからの社会に必要とされるものだと思います。海外情勢に大きく振り回されている畜産業界。輸入牧草に頼らない
畜産を目指さなければ、いつかやっていけなくなります。各地で、地域の特色を活かし、地域に根ざした小回りの利く畜産農家が増えていくことが、畜産の明るい未来へ繋がるのではないでしょうか。

■絶景だが荒廃したミカン畑でカヤを刈らせてもらう
 粗飼料生産農家になるのか、山地放牧を拡大するのか、どうなるか分かりませんが、この地の問題を解消しつつ、人と牛とが共存できる日を目指して、私たちにできることをやるのみです。

     (松本木の実:高知県室戸市在住)



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