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連載 ネパール・タライ平原の村から(134)
グロウ爺さんのお話-民俗知の今②

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その134回目。



 グロウ爺さんは、昔ジャミンダールと呼ばれる大地主だったと聞いていたので、どの当たりの地主だったのか、最初に尋ねました。そしたら「デングリとタルワとバドゥルワ」と3村の地所名が…。ようするにお会いした場所から見える景色180度、その全てがグロウさんの土地だったと。

 大地主と聞いて古い封建時代の地主に搾取される農民像を教科書的に連想してしまう僕ですが、先住民タルーのジャミンダールというのは、いくつもの家や親族、集落をまとめる「長」の存在だったようです。そんなグロウ爺さんに、その辺に何気にある植木、花、遠方の木を指さしてはその植物の効能、利用法について聞かせてもらいました。

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 例えば、果樹グアバの葉を煮出した汁は、食当たり消化不良などに効くとのことです。日本にもグアバ(の葉)茶があります。

 畦や休耕地に必ず蔓延るオオカッコウアザミは、冬越しする多年草でやっかいな雑草です。おまけに家畜も食べないことで知られています。それでも唯一の利用法が止血に葉をすり潰し傷口に塗る時とのことです。これは誰でも知られる利用方法で僕らも草刈り時に誤って指を切ってしまうと、まずその辺のオオカッコウアザミの葉をちぎり傷口に塗布します。

 シソーの木と呼ばれる白檀(ビャクダン/サンダルウッド)は、換金用家具材として外から導入された香木。家具材ですが葉にも有用性があるとのことで、シソーの葉と茎のつけねの葉柄の部分を燻したのが家畜のヒヅメ病、皮膚病に効くと。

 チニジャール(和名不明)と呼ぶ鑑賞花の葉は喘息の薬。マンゴーの乾燥樹皮は、粉砕して暑季に水に溶かして浴びると身体を冷やす効果があるとのこと。

 アユルヴェーダの万能薬として知られるインドセンダン「ニーム」の葉も、浸した水を浴びると身体を冷やす効果、湿疹・発疹など皮膚炎にも効くとのこと。さらにニームの薪で調理すると高血圧にゆっくり効き、葉を粉砕した粉の苦み成分は不妊薬になり、家畜ではヤギに抵抗力がつく飼葉として利用するが他の家畜は喰いつかないとのことです。

 ベルノキは、乾燥樹皮を粉にして痛みのあるところに湿布のように塗ると鎮痛効果、疲労回復に。熟した果汁は身体を冷やす効果があり、果肉は下痢止めでヤギにも効果的とのことです。

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 今、ここで書き記したのは、その辺でよく見かける有用植物の一事例です。メモを家に持ち帰り、ネット検索や植物事典、資料で調べると、なるほどと共通する科学的根拠もあれば、特に根拠が見当たらない点もありました。

■近代化の象徴・自動車教習所で在来知を学ぶ
 それはグロウ爺さんが語った植物利用や効能は、研究室で実証される普遍的な情報とは異なり、そこでの集落の暮らし、自然との関わりの中で培われた在来知・経験知でもあるからです。普遍的な科学知と同じではないのです。

 こうした膨大な在来知の蓄積から、生きていくために在地の一木一草を熟知しなければいけない時代があったことをグロウ爺さん94歳から学んだ次第です。

           (藤井牧人)


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