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    コラム 南から北から
   「牛飼いは一生勉強」


 新年明けましておめでとうございます。松本家の年末年始は、生後6ヶ月の息子が保育所から風邪をもらい、鼻水、せき、下痢。私たちもしっかり感染して、2週間咳が続き苦しい年明けとなりました(コロナではありませんでした)。

 昨年は、息子が産まれ、これまでの生活が一変して大変なこともありましたが、楽しく日々を過ごすことができました。しかし一方、以前も書いたように2頭の母牛が胎児ともに事故死(ワラビ中毒)してしまいました。その後も12月、放牧場の斜面に生えていた木に首が挟まり、1頭が亡くなりました。

 放牧場には二股の木がいくつかありましたが、これまで事故が起きていなかったので、「大丈夫だろう」と放置していました。またも気の緩みが招いた事故です。今は時間を作って木を伐るようにしていますが、見れば見るほど怪しい木ばかりで、これまで事故がなかったことが不思議なほどでした。またしても、牛が体を張って教えてくれました。

 本来は、未然に防がなければならないし、防げたことです。立て続けに事故が起きたことで、夫も私も気持ち的にしんどくなり、これからどうしていけばいいのか悩む日々が続きました。今でも悩みながら暮らしています。

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 今年こそは家族も牛も欠けることなく元気で過ごせますようにと思っていた矢先、年明け早々1頭が死産しました。予定日より16日早い出産で、産まれた時にはすでに死んでいました。胎児に奇形などもなく、親牛も元気で、原因が分かりませんでした。獣医さんも分からす、「牛を飼っていたらこんなこともある」と、私を含め、みんな諦めていました。しかし、夫は納得がいかず、自分なりに考え、調べていました。すると、「ソルガムの立毛貯蔵による麦角アルカロイド中毒」という文献を見つけました。

 「麦角はバッカク菌の感染により形成される菌核の一種。麦角の中に麦角アルカロイドと総称される毒素が蓄積される。反すう家畜の麦角中毒では、軽症の場合はヨロヨロ歩きなどの歩行障害。重症の場合は流産、後脚壊死などがある。菌のソルガムへの感染は、細長い子嚢胞子が開花時期に柱頭から子房内へ侵入することで始まる。」(「知っておきたい 牧草・飼料作物の家畜中毒症」より)

■黒く突き出ているのが、麦角菌の菌核である「麦角」。ソルゴーではここまで明瞭に判別するのは難しい
 この文献にあるように、私たちは、ソルゴー(ソルガム)を冬用の粗飼料とするため、立ち枯れさせて(立毛貯蔵)いました。よく見ると、収穫していたソルゴーの穂には麦角が出てきていました。毎年立毛貯蔵していましたが、これまで被害がなくて気づきませんでした。今回の流産も、「こんなこともある」と諦めていたら、まだまだ被害が出ていたでしょう。何か原因があるはずだと諦めなかった夫のおかげで新たな被害が出ずに済みました。

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 畜産に携わって約10年。最近は、最初のころの必死さがなくなってきた気がします。慣れてしまったのか、「こんなこともあるさ」が口癖になり、生きものを飼うことに責任感がなくなっていたことに気づきました。以前、牛飼いをしている方が、「牛飼いは一生勉強」と言っていたのを思い出しました。これからも牛飼いを続ける限り、想像もつかない事故が起きると思います。牛は機械のようにマニュアル化できません。経験に浸かるのではなく、経験を土台に、常に新鮮な気持ちで、夫とともに牛としっかり向き合っていきたいと思います。

                      (松本木の実:高知県室戸市在住)



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