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コラム 南から北から
自然は優しいだけではない


 気持ちの良い秋晴れと適度な雨、素晴らしい天気に恵まれて、春牧草の種蒔きを無事に終えることができました。発芽も順調で、来年の春が楽しみです!

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 しかし、順調なことばかりではありませんでした。

 ある日突然、母牛2頭の体調が悪くなりました。食欲不振、40度越えの発熱。獣医さんに診てもらい血液検査をしてみると、赤血球、白血球、血小板の低下、低たんぱく、肝臓の数値が高い。しかし、肝心な原因が分からず、解熱剤や栄養剤点滴など対処療法しかできませんでした。

 発症から数日後2頭とも流産してしまい、流産した翌日に1頭は死んでしまいました。もう1頭も発熱が続き、食欲もほとんどなく、大きく改善はしていませんが、元気になってくれることを信じて治療を続けています。

 牛白血病やダニ媒介の感染症なども疑われましたが、陰性。最終的に絞られた原因はワラビ中毒でした。症状はほとんど当てはまるのですが、中毒になるほど大量のワラビをどこで食べたのか。

 放牧場にも少しワラビは生えていますが、よほど空腹でない限り、牛が生えているワラビを大量に食べることはないと思っていました。体調が悪くなる前日にあげた、近所の方が刈って干していた畔草の中に混入していた可能性はありますが、毎年もらっている所で、ワラビが群生しているような所ではないので疑問が残りました。

 原因追及のために、まずは放牧場を見回ることに。すると、一部柵が破れている所があり、その向こう側にシダ植物(ウラジロ)が群生していて、牛が首を出して届く範囲のシダはきれいに食べられていました。シダにも毒があるのかと調べてみると、シダ中毒症に関する論文があり、症状などもほぼ一致していました。

 他の牛は、シダにあまり興味を示しませんでしたが、発症した牛は葉っぱを見せると勢いよく食べようとしたので、シダを好んで食べていたのかもしれません。シダ植物の一種であるワラビだけではなく、シダ植物全般に毒があるという文献や話は聞いたことがなかったので驚きました。

 放牧をするにあたって、ワラビやしきびなど有毒な草については知っていましたが、心のどこかで、少しくらい大丈夫だろう、と考えていました。また、他にもいくつか毒草があることを知りませんでした。

 しかし、原因が分かったところで有効な治療方法がありません。有効だった薬は現在使われていないもので、入手困難。本人が自力で打ち勝つしかないそうです。

 いつもは定期的に柵の見回りをしていましたが、最近は種蒔きで忙しく、その時間を削ってしまいました。毒草撤去、柵の見回り、放牧する上での基本的なことを怠ったことで起きた事故です。この2頭が身をもって教えてくれたと思うと、辛く、本当に申し訳なかったと後悔ばかりです。今回のことを無駄にしないためにも、次の犠牲を出さないように気持ちを切り替えていかなければなりません。

■鏡餅の飾りにも使われるウラジロ
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 私たちは「山地放牧で牛を飼いたい!」。牧草作りも大切ですが、どんなに忙しくても、放牧場に入る時間をしっかり作ろうと決めました。まずは柵の補強とシダの撤去。頭数が増えてきて、目の前の作業に追われがちでしたが、大事なことに気づかせてくれた2頭に感謝しています。

       (松本木の実:高知県室戸市在住)


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