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連載 ネパール・タライ平原の村から(129)
ルールを守って正しく留学?

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その129回目。



 ルールを守って国際化とか、オーバーステイ(超過滞在)とかいう言葉が日本でよく聞かれた1990年代から2000年代のバブル経済期。当時ネパールの移住労働者は90年:千数百人、2005年:6000人でした。2021年末現在、在日ネパール人は9万7109人。借金を抱え在留資格「留学」で入国し、全国643ある日本語学校へ入学する人が特に増えています。今やリスクの高い超過滞在をする人はほぼいません。

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 北海道に留学したパン屋の妹は今、群馬県で働き家族からあなたの国の家賃・物価が高すぎると。田んぼを売って群馬県に留学した親族のご近所さんの弟も日本へ。朝に「コンバンワ」と日本語で挨拶してきたご近所さんは神戸へ。「オジャを知ってるだろ」「オジャはあなたの家に近いか?」と聞いて来た郵便局員の息子は大阪へ。よく調べるとOsaka-Japanese 語学学校の略称OJAでした。他にも千葉、岐阜、広島にもご近所さんが留学中です。

 地元でのあまりの日本ブームに幹線道路沿いのSTUDY IN JAPANと看板を掲げた日本留学斡旋業者を数えてみました。千里の道も一歩からHIMAWARI、AKARUI、ともだち国際語学センター、SUBARASII、KOBE、HANAMIなど計14業者。こんなにあったのとただ驚きました。

 スマホで見たオタク・ナルト・コスプレ文化に憧れるご近所さんには、日本語学校のオンライン面接では、日本のテクノロジーが素晴らしいと聞いたのでそれを学びたいとか言った方がいいよと教えてあげました。これも一番つまらない解答例ですが。

 「ケータイSimカードを買った」と留学希望者。これは日本の入管から経費支弁者に確認の電話があるためです。斡旋業者がその新しい電話番号のSimナンバーに連絡が入ると、留学希望者のプロファイルに応じて質問に答えたり、あるいはうまく答えられない経費支弁者の親に替わって、留学希望者本人が経費支弁者として応答するためです。入管から留学先学校名といった基本的な質問もあれば、校長先生の名前は?など、答えられない方が正しいと思ってしまう質問もあるそうです。

 「学歴証明の卒業証書に学校設立年度がないので再発行してもらった」、「再発行した卒業証明の保護者名が苗字だけで下の名前が行外に付け足してあると指摘された」、「再々発行してもらったけどまた何か訂正があるかも」。これは斡旋業者による日本へ送る書類の事前確認のやりとりです。

 「書類を持って行ったら他の子もわめいていた」、「Higher Boarding School(後期高等寄宿学校)のはずがBoarding Schoolだけ記載の子もいた」、「再発行で村までとりに2日~3日の子もいる」と。

 ■民家の壁に記された留学斡旋業者の広告
 正真正銘の英訳証明書でも、誤字脱字が多々あり、偽物と疑われるため訂正しないといけません。「私の経費支弁者の収入証明書の農業収入は240万ルピーだった」。だいたい200万以上が相場のようです。ちなみに年収200万もある人に僕は会ったことがありません。

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 留学希望者も斡旋業者も日本語学校も入国管理局も、みんなこうした事実をわかっているけど“正しい書類”を準備して、ルールを守って正しく留学する(入国してもらう)ため、目を血走らせています。 

                                               (藤井牧人)


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