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コラム 南から北から
新しい家族が増えました


 例年にない早さで梅雨明けしたと思ったら雨が続いたりして、牧草の種蒔きがうまくいっていません。降るときは予想以上に土砂降りになり、せっかく蒔いた種が水に浸かって蒔き直したり、トラクターが畑に入れず作業が進まなかったり。蒔く適期が限られているため、焦る気持ちでモヤモヤしています。

 そんな中、我が家に新しい家族が増えました。6月3日、元気な男の子が誕生したのです。夕方のエサやり前から軽い腹痛を感じましたが何とか終えて、晩ご飯は大好きなお好み焼き。フライパンをひっくり返すお腹にも力は入り、さらに痛みが規則的になってきたような……。

 “お、これは陣痛?”と思い、病院へ電話。病院に着いた時には子宮口が開き始めていて、あれよあれよと陣痛が強くなり、病院到着から4時間後のスピード出産となりました。もし、病院への連絡が遅れていたら……。

 実は室戸市には産婦人科がありません。1番近くて1時間半かかるため、妊婦健診の通院も大変でした。出生数は毎月片手で足りるほど、人口減少が問題となっている室戸市。人口が少ないから産婦人科がなくなり、産婦人科がないから人口が増えない。負のスパイラルです。

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 私は安産だった方ですが出産費用が結構かかり、出産育児一時金の42万円では足りずに、自己負担が10万円を超えました。地域によって差も大きく、東京では平均費用がさらに高いようで、東京在住の友人は、妊婦にはハードな仕事も続けて必死にお金を貯めています。政府は一時金を40万円台半ばまで上げると表明していますが、それでも足りません。

 また、保険適用でないため出産費用の内訳は病院のサービスによっても異なり、不透明なことも多いそうで、一時金が増えても病院側が出産費用を上げる場合があるそうです。出生数が減少傾向にある今、もっと大胆な改革や支援が必要だと感じました。

 今回の参議院選挙で候補者、政党の公約の中で重要視したのは、子育てに関するもので、出産を経て視点が変わりました。

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 妊娠、出産を経て、私たちの生活も大きく変わりました。日々のエサやりから草集め、牧草の種蒔きなど、これまで二人で行ってきた作業を主人一人でしなくてはいけません。牛をじっくり観察する余裕もなくなり、私は一日中泣き叫ぶ子と二人きり。お互い満身創痍でした。

 少しずつ仕事復帰をしていこうと思い、1ヶ月半経った頃から朝夕のエサやりを始めています。エサやりの間、子どもは牛舎に置いたベビーベッドに寝かせています。寝ているときは、牛がどんなに鳴こうがビクともしませんが、眠りが浅かったり、お腹が空くと泣き出します。

 大汗をかいて必死に訴える姿を見るのは心苦しいですが、なんとか頑張ってくれています。最近では、泣く時間が短くなり、寝つきが早くなった気がします。気力がなくなったのか、慣れたのか。諦めているのか。大人は都合のいいように解釈します。

■牛舎に設置したベビー・ベッド
 おかげでエサやりも早く終わり、家族で過ごす時間が増えました。牛もじっくり観察できるし、私も好きな牛の仕事ができて体を動かせるので、ストレス解消になり、子育ても楽しくなってきました。

 生後2ヶ月に満たない子に、畜産農家に産まれた宿命だと言い聞かせていますが、将来牛舎に行くのが嫌にならないか不安です。

  (松本木の実:高知県室戸市在住)




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