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アソシ研リレーエッセイ
SNSと「陰謀論」の悩ましさ



 仕事柄、やらないよりはやったほうがいいだろうということで、いくつかのSNSのアカウントを持っているが、あんまり熱心に利用しないからか、単純に人気がないだけなのか(こっちが有力説)、どれもフォロワー数が少ない。ツイッターなんかはフォロワー数49という有様で、おそらく全国の自治体議員フォロワー数ワースト3くらいに番付されている自信がある。

 それでも、毎秒毎分ドゥワー!と、いろんな情報が流れてくるなかに、たまに有益なものもあったりするし、SNSを介して人間関係が作られることもあるので、まったく意味がないかといえばそうでもない。

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 そんななか、特にコロナ以降、SNS上でいわゆる「陰謀論」にまつわる投稿が目に付くようになった。まったくの荒唐無稽なものから、ひとつの事実に複数のデマを織り交ぜた巧妙なものまで、多種多様なため、ひとくくりに「陰謀論」として片づけられない場合もあるのだが、SNSの困ったところはそういった「陰謀論」が相当な範囲に拡散していくことにある。

 私の知り合いも「マスコミは本当のことを言わない、これが真実だ」と書き《影の政府ディープステートが起こしたコロナ騒動と殺人ワクチン》的な動画のリンクを貼って投稿していた。で、そういう動画を作っている人物や団体は結構な割合で「慰安婦はデマ」「日本はアジア解放のために戦った」みたいなネトウヨ言説を流布する連中であることが多い。

 そのことをメールで指摘すると「日本はGHQと日教組の教育とマスコミに洗脳されている」ということなので、さらに文献なども示して「日本会議とか差別団体には注意したほうがいいで」と言っても聞き入れてもらえず、最終的に「左翼だって悪い」という謎めいた返事がきて、それ以降、交友がなくなった。「どこぞのネット情報よりおれは信頼がないんか」とか考えたが、まぁその程度の関係性だったのだと思うようにした。

 昨年の8月、宇治市の朝鮮半島出身者が住むウトロ地区で放火事件が起きた。死傷者が出てもおかしくないような火事で、地区の貴重な歴史的資料が焼失している。逮捕された容疑者が犯行に至った背景に「ヤフコメ(Yahoo!のニュース記事に書き込めるコメント欄)」から、“在日韓国・朝鮮人が不当に利益を得て反日活動をしている”などという偽情報を得ていたことが明らかにされている。

 容疑者いわくヤフコメは「偏っていない」「客観的」「正しい情報」が投稿されているとのことだが、こと韓国・朝鮮に関する記事へのヤフコメ欄はこれらとは全く逆で、大量のヘイトやデマ、陰謀論が書き込まれ、憎悪による犯罪(ヘイトクライム)を引き起こしかねないと指摘され続けていて、それが現実となってしまったのだ。

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 歳月をかけて調査・研究されてきた歴史的事実が、出所不明のデマにひっくり返され、デマが事実として扱われるといった現象がネット、特にSNSの普及で起きやすくなっている。しかも発信者は事実かどうかなんてはなからどうでもよく、閲覧数による広告費収入や関連書籍の売り上げなどビジネス目的で「陰謀論」を利用しているものも相当数いる。これまでそういった差別を助長する投稿を黙認してきたSNSやサイト運営企業の責任も問われるが、抜本的な見直しには至っていない。

 デマや「陰謀論」を信じきっている人に横から何を言ってもなかなか聞き入れられない。実に厄介だが、最近はロシアのウクライナ侵略にまつわる「陰謀論」を巡り、SNS上で巻き起こる論戦を目にすることが増えた。そのほとんどの議論は平行線をたどって決裂して終わる、という不毛なやりとりばかりで、つくづくSNSで議論をするのは無益だと思えてくるし、見ているこちらもだんだんしんどくなってくるので、そういうときは投稿をしない、見ない時間を作るようにしている。

 そのままフェードアウトすればいいのかもしれないが、何かしらんけどまた見てしまうんだよなぁ……。

                        (高木隆太:高槻市議会議員)



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