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市民環境研究所から

カザフスタンを思う毎日


 この2年間の毎日、毎月の記憶はあるだろうか。コロナ以外の記憶が後年甦るだろうかと心配になる。筆者の場合はほとんどないと言ってしまいそうである。1989年以来、年平均2回以上は出かけていたカザフスタンへ一度も行けなく、何もできなかったと思う気持ちが記憶になってしまった。そしてこの2年の間に、コロナと暴動というカザフスタンにとっては忘れることのできない事件が発生したのである。

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 カザフスタン共和国はカザフ人やロシア人が人口の大半を占め、その他に130の民族がいる。総人口は1875万人で日本の7分の1だが、国土は7倍もある。1991年まではソ連邦に組み込まれていたが、連邦崩壊で独立した中央アジア5ヶ国の一つで、ロシア・中国・キルギス・ウズベキスタン・トルクメニスタンと国境を接している。独立後は中国が打ち出した「一帯一路」政策でいっそう関係が深まり、アジア大陸の平和を考える上で重要な国である。

 また、新型コロナ禍は極めて早い時期に始まり、感染者比率も高い。人口1万人あたりのコロナ患者数は608人と日本の4倍近く、死亡者数は日本の死亡者数と変わらないほど高い。中国に近いことや外国人の往来が多いことも影響して厳しい感染状況にある。筆者のカザフ滞在中、20年以上にわたって運転手を勤めてくれている人とその夫人もコロナ感染で入院したが、最近無事に退院し働いていると、電話の向こうで元気な声を聞かせてくれた。

 もう一人の知人で、筆者よりも7歳ほど年長の朝鮮人の男性によると、65歳以上は午後6時以降の外出は禁じられており、違反者は罰金が課せられるという。2021年には毎日の新規感染者が1万人を超えていたが、9月以降に1000人程度に減少し、2022年1月8日に再び5000人となり、この原稿を書いている1月中旬には1日平均で1400人まで減少したという。この季節のカザフの気温はマイナス10度からマイナス25度と厳しいものである。友人たちの無事を祈らずにはいられない。

 こんな気持ちで筆者もコロナ禍に巻き込まれないようにと静かに過ごしていたところ、1月5日に思いもつかないニュースが飛び込んできた。「中央アジア・カザフで、燃料価格の高騰をきっかけに始まった抗議デモが大規模・暴徒化し、政府が非常事態を宣言した」という。タス通信などによると、デモは燃料価格の引き下げを求めて南西部のマンギスタウ州で始まり、最大都市であるアルマトイや首都ヌルスルタンに飛び火したという。政府はデモが発生している地域に非常事態を宣言し、夜間の外出などを禁止したが、デモは拡大を続けているという。

 日本の新聞記事によると「カザフで大規模デモ、燃料高騰反発、死者も」とあり、トカエフ大統領は一部地域に非常事態宣言を出し、内閣総辞職を承認したと報じた。しかし、アルマトイ市ではデモ隊の一部が暴徒化し、大統領官邸などの占拠や放火などを繰り返している。アルマトイ市は筆者が拠点としている街であり、自分達の資材を置いているアパートもあり心配である。

 この事態の意味を知りたいと思い、知人に電話を入れたが、携帯電話は繋がらず、メールも届かない状態だった。1月6日になってデモ鎮圧のために、大統領はロシアなどと構成している集団安全保障機構に鎮圧部隊の派遣をも要請し、治安部隊と軍に警告なしにデモ隊に発砲するよう命じたという。

 いったい何が起こっているのかと不安になり、情報収集に務めたが分からないまま、11日にデモは鎮圧できたという大統領声明が出た。発表された死者の数は164人で、外国人を含む拘束者数は6000人だという。やっと国際電話が通じたが知人も実態が分からないと言う。

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 それにしても、独立以前からカザフの唯一のボスだったナザルバエフ元大統領の30年以上の独裁と、それを引き継いだのかどうか分からない現大統領トカエフの関係、ロシアの介入を求めた経緯など、これからのカザフがどうなっていくのかと心配する毎日であり、情報蒐集に務めている。

 昨夜、カザフでの環境調査や植林事業の相棒からメールが届き、「私は元気です。大丈夫、心配しないで」と書かれていた。

                       (石田紀郎:市民環境研究所)


  


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