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コラム 南から北から
放牧場強化、はじめの一歩


 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。お正月といっても、私たち畜産農家には休みはなく、大晦日の夕方には「仕事納めだね~」と言ってエサやりをし、翌朝には「仕事始めだね~」と言ってエサやりをしました。日中は牧草なども集め、いつもと変わらない日々でした。

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 昨年、放牧場の上空をヘリコプターが超低空飛行したことがありました。しばらくしてどこかへ飛んでいきましたが、異様な飛行行動でした。そしてその日の夕方、牛たちの様子がおかしいのです。牛舎に帰ってくる時間なのに帰ってこない。山に探しに行くと、人間の姿を見て驚き、なんとか牛舎に帰ってきても何かに怯えている感じでした。翌朝には、いつも通りになっていましたが確かに異常でした。

 その影響なのか、妊娠していた可能性の牛が発情してしまいました。市役所に問い合わせると、消防関係も医療関係もその日時には飛行していないとのこと。公用以外にも一般のヘリコプターが飛行した可能性もあるそうです。いつも平穏な室戸の山なので、牛たちにとってはとても驚いたことでしょう。

 ふと、種子島に隣接する馬毛島のことを思い出しました。実家からの仕送りの荷物が包まれている地元の新聞を見ると、私が島を離れてから、ますます米軍の基地化に向けて加速している様子が伺えます。自衛隊の訓練の時でさえへリコプターの騒音が大きく、畜産農家は牛への影響を危惧していました。

 昨年は、結婚を機に種子島から高知へ移り、たまに実家に電話をかけては両親の安否確認と仕送りの催促をする程度でした。所変われば心も変わってしまうのか、地元の事でも実際に住んでいないと意識が薄れてしまうのだから、自分に縁もゆかりもない遠い場所で起こっている問題に関心を持たない人が多いのも当然かもしれないと、ハッとしました。

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 新型コロナや原油価格の高騰、中国の動向、異常気象により、畜産の現場も大きな影響を受けています。飼料価格の上昇や、輸入飼料(粗飼料)の欠品。肥料価格も上昇し、店頭に輸入肥料が並ばないこともありました。さらには、主食用米からの転作を促すための転作助成金が、来年度から厳格化されることになりました。今後5年間米を作らない農地については、交付対象から除外されるとのこと。

 今、牧草を作らせてもらっている農地は、放棄地になって長いところも多く、再び米を作るのは困難です。これまでは軽トラックの入らないような小さな農地にも牧草を作ってきましたが、作業効率の良い土地に集約せざるを得ないかも。一方で、子牛の価格は上がる見込みはなく、先行きが不安になってきました。さてさてこれからどうするか……。

 夫婦で出した答えが「山地放牧」です。今も室戸の山8ha で31頭の繁殖牛を放牧をしていますが、まだまだ狭く、開拓したばかりなので芝も十分に生えていません。でも、他国や補助金など外部の要因を受けやすい牧草を作るより、今ある放牧場を充実させる方が、これから先長い目で見たときに、持続的な形なのではないかと考えました。

 ■この地面が芝で覆われる日を夢見て…
 ただ、放棄地が増えていくという問題が出てくるので、春から秋は冬用の草として牧草も作る予定です。さらに、新たに放牧場を拡げることも視野に行動を始めています。今年は、放牧場強化年として全力で取り組んで行きたいと思います。放牧場が拡がり芝が十分に覆うには長い長い道のりとなりますが、はじめの一歩、しっかり歩んで行きたいです。

      (松本木の実:高知県室戸市在住)





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