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地域・アソシエーション研究所 第20回総会 報告

否定的な現実に肯定的なものを見出す
次の20年に向けた運営体
制を目指す

 去る11月19日(金)、大阪・茨木市のよつ葉ビルで当研究所の第20回総会を開催しました。当日は各所から約30名のご参加をいただき、今期の活動報告・総括と来期の方針について論議することができました。20回目の総会を迎えることができたのも、ひとえに会員各位、関係者の皆様のご支援、ご協力のおかげと感謝します。以下、総会での議論を簡単に紹介し、報告とさせていただきます。


2年目のコロナ禍の中で

 例年どおり、はじめにこの1年を振り返りました。

 秋以降は落ち着きを取り戻した感がありますが、振り返れば今年は昨年にも増して新型コロナウイルス感染症が猛威を振るいました。感染者、死者の数も飛躍的に拡大し、それとともに政治・社会の問題点も一層明らかになったと言えます。

 すでに昨年、パンデミックへの対処にあたって既存のシステムが様々な不備を露呈し、各所からの批判にさらされていたことは記憶に新しいと思います。本来なら、初期対応の不備を総括し、次の事態に備えてしかるべきでしょう。

 しかし、現実に生じたのは、昨年以上の感染拡大によって、とりわけ大都市圏で医療体制が崩壊し、少なからぬ人々が医療を受けることができなくなり、「自宅療養」という名の放置を余儀なくされた事態でした。

 他方、急速な感染拡大の進行に対して、政治はおおむね後手後手の対応に終始しました。Go Toキャンペーン、オリンピック・パラリンピックなど不要不急のイベントを強行する一方、感染対策は依然として人流抑制、しかも相も変らぬ「自粛の要請」を繰り返し、むしろ政治に対する人々の不信を煽る結果になったと言えます。

 こうした政治のあり方に対して、当然ながら多くの批判が集中し、内閣への支持率は急落しました。

 ところが、秋以降、感染者が急激に減少し、ワクチン接種が普及する中で、人々の批判的な意識は急速にしぼんでいきます。

 10月末には衆院議員総選挙が行われましたが、結果を見る限り、不十分なコロナ対応を不可避とした政治のありよう、それを導いた安倍・菅政治に対して根本的な転換を求める意識は、それほど浸透していなかったように見えます。むしろ、与党代表の首のすげ替えや口先だけの路線転換で満足するような、一時的なものでしかなかったのかもしれません。

 また、昨年は一応話題になった、利潤中心主義や止めどなきグローバル化、人口過密な都市集中、人類の生態系への侵襲など、パンデミックをもたらす社会のあり方への反省は、今年になって一挙に影が薄くなりました。むしろ現在は、パンデミック以前の社会への回帰願望、それを可能にするとされるワクチンへの期待が幅を利かしているようです。

 とはいえ、私たちは一見否定的に見える現実の中にこそ、肯定的なものの兆候を見出していく必要があります。実際、コロナ禍が明るみに出した諸問題を直視し、社会のあり方を見直そうとする問題意識は確実に存在しています。

 コロナ禍は未だに終息しておらず、コロナ禍よりもはるかに長い歴史的射程とはるかに深刻な生態学的亀裂を伴う気候危機も、待ったなしの課題となっています。

 また、新政権は政策の一つの柱として「新しい資本主義」の実現を掲げました。口先だけだとしても、こうした文言を提起せざるを得ない状況にあることは見ておく必要があります。

■総会の模様
 前回の総会でも確認したように、私たちがこれまで行ってきた活動は、コロナ禍を必然的にもたらした現代社会のありようを深いところから批判し、それに代わる展望を模索することでした。

 今回の総会を機に、この点に確信を持ちつつ活動を継続し、さらに展開していくことが課題であると、改めて肝に銘じた次第です。


研究所の諸活動をめぐって

■研究会


 今期の当初段階では、農研究会、食べもの研究会、自分の頭で考えるためのテツガク茶話会、○○を読む会、オルタナティブ研究会――の5研究会を組織していました。

 その中で、若者労働者協同組合「北摂ワーカーズ」と組んで実施していたオルタナティブ研究会は、開始時に想定した課題についてそれなりに論議を尽くしたこと、参加者各々の問題意識が多様化したこともあり、2月に終結することになりました。

 また、食べもの研究会については、なかなか参加者が広がらず、また中心的な参加者が引退することなどから、今年いっぱいで終了する予定です。

 研究会は研究所活動の柱の一つであり、研究所と会員をつなぐ要でもあるため、活性化が求められるところです。そこで、来期の方針として、新たに2つの研究会を提案しました。

 1つは「地場野菜研究会第2弾」。3年ほど継続し前期に終結した地場野菜研究会は、関西よつ葉連絡会の地場野菜の取り組みについて、データをもとに現状を明確化するものでした。第2弾はそれを引き継ぎ、今後の地場野菜の取り組みのあり方について議論を深めていくものにしたいと考えています。

 もっとも、単独で毎月実施するのは実務的な負担が大きいため、同様の問題意識を持つ農研究会の中で、年に何度か地場野菜に特化して実施するつもりであると提案しました。

 もう1つの提案は「情勢を考える研究会」です。一面ではオルタナティブ研究会の問題意識を引き継ぐ形で、国内外の情勢について自分の観点でまとめられるようなスキルを身に着けることを目指しています。研究所と連携する地域の大衆的政治団体「北摂反戦民主政治連盟」と組む形で実施する予定です。

■企画・参加

 研究所の企画については、とくに広く呼び掛けて行う講演学習会などの取り組みは、コロナ禍のために行うことができませんでした。他団体が行う同様の取り組みも、リモートを除けば開催自体が減少しており、参加の機会はほとんどありませんでした。

 とはいえ、感染状況の推移を見つつ、各地・各領域の取り組みについて積極的に訪問を実施したことは成果と捉えることができます。農の取り組みが中心ですが、それなりに深掘りすることもできました。

 また、前期は断念した「沖縄/福島」への訪問について、東日本大震災年目の節目に福島を訪れ、現状を報告できたことは、昨年に勝る成果だと感じています。来期は沖縄を対象に取り組みたいと思います。

 いずれも、活動の成果は可能な限り機関誌上で報告しました。

■機関誌類

 『地域・アソシエーション』については、上記のように、今期も企画や訪問・参加に関する報告を中心に編集しました。

 ただ、今期は合併号を2回発行することになってしまい、反省しています。1つは年末年始で時間が足りなくなってしまったこと、もう1つはインタビューを行い、まとめ原稿まで作成しながら、相手の都合で断念せざるを得なかったことが原因です。来期は定期発行を堅持したいと考えます。

 海外論文翻訳と日録(News Clips)で構成している『News Letter』について、 これまでは論文の選定も含めて翻訳者の脇浜さんに依存してきたものの、前期から独自翻訳を増やし、今期はほぼ独力で作成することができました。来期も中国関連とそれ以外の領域を毎月交互に行う形で、さらに時宜に応じた内容を追求していきたいと思います。

■組織・財政

 5年前に専従者を2人にした結果、支出が収入を上回ることになり、3年ほど財政難への対応に迫られてきました。経費の削減を徹底化するとともに、前期から連携団体の会報作成を請け負ったことで黒字基調に転換しました。

 来期は別の連携団体の会報作成に協力することで、収入の拡大を見込める予定です。

 ただし、中長期的な展開を考えると、検討課題は少なくありません。年齢上の問題から、今後5年ほどで専従者の交代が必要になります。人材の確保と育成、それに伴う財政面での裏付けは避けられないところです。


変化を印象付ける総会

 今回の総会の中では、人事面で大きな転換がありました。研究所創設当時から運営委員を務め、初代・第二代の代表でもあった津林邦夫、津田道夫の両名が、今期をもって退任されました。

 一方、新たな運営員には、関西よつ葉連絡会淀川産直センターの田野浩幸さん、同川西産直センターの上西達也さんが参画されることになりました。

 いずれも40代であり、研究所の世代交代を印象付ける出来事だったと思います。

 実は、今回の総会をめぐっては、研究所の性格について議論がありました。

 当研究所は、いわゆる「関西よつ葉グループ」の諸活動を基礎にして設立されましたが、経済組織としての関西よつ葉連絡会には直接所属しておらず、あくまで連携団体との位置づけです。一方、財政的な基盤が関西よつ葉連絡会各社からの法人会費にあることも事実です。

 そのため、独立の研究所を目指すのか、「関西よつ葉グループ」を基礎にした研究所を維持するのか、折に触れて議論が持ち上がってきました。たしかに、論理的には普遍性を目指し、独立の研究所たるべきでしょうが、これまでそうした方向性について日常的に論議したこともなければ、対外的な状況調査などもしたことはありません。その意味では当面、後者の方向を意識的に継続しようと考えています。

 ただ、そうだとすれば、関西よつ葉連絡会各社との連携をさらに深めていく必要があります。すでに各社では世代交代が進んでおり、当研究所創設期に関わった人々とは、問題意識も社会経験も異なる人々が実務の第一線を担っているからです。

 今後、関西よつ葉連絡会の各社を、さらに「関西よつ葉グループ」各領域を牽引していくであろう世代と共同で研究所の運営を行うことで、次の20年の展望を見出していきたい――、今回の運営委員交代にはそんな意味合いも含まれています。

 また、今回の総会には東京から3人の若者が飛び入りで参加しました。今年初め、運営委員の吉永剛志さんが、かつて思想家の柄谷行人を中心に設立されたNAM(New Association Movement)を総括する著作を刊行されましたが、それを読んで吉永さんに連絡を取り、当日に至ったとのことです。

 いずれも自己紹介の中で、利潤中心の経済や抑圧的な権力システムが幅を利かす現代社会で、アソシエーションを軸に解放を目指したいと語っていましたが、当研究所と通じる問題意識を持った若者が東京にもいると分かり、感慨深いものがありました。

 現実は否定的なものが支配的なように見えて(実際そのとおりですが)、それを覆す肯定的な兆候は確実に存在する――、そう捉えることの重要性を再認識したところです。

 ともあれ、来期も今期以上に有意義な研究所活動を展開する所存です。会員・関係者の皆様には、引き続きご支援、ご協力をお願いします。

                                       (山口 協:当研究所代表)



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