HOME過去号>202号  

京都、有機農業の新たな動き 報告

「オーガニッ
ク&ローカル」を農の中心に
369(ミロク)商店・鈴木健
太郎さんに聞く

 この間、京都で有機農業の新たな動きが生じている。各地で若い世代の新規就農者が増え、街中では個人で八百屋を営む新規店舗も目立つようになった。ネットを舞台に新たなスタイルで有機農産物を販売し、注目を集める㈱坂ノ途中も京都発である。そうした新たな動きの中で重要な役割を担っているのが、以下に紹介する鈴木健太郎さん(南丹市園部町)だ。これまでの取り組みと今後の展望、その背景にある問題意識などについてお話をうかがった。文責は当研究所にある。(聞き手:山口協[当研究所代表])


環境問題から有機農業に関心

 南丹市園部町を拠点に、有機野菜の移動八百屋「369商店」を営むとともに「京都オーガニックアクション(KOA)」の中心を担う鈴木健太郎さん。まずは、来歴について簡単に紹介したい。

 鈴木さんは1977年、神奈川県の生まれ。小中学校の8年間を北米で過ごした後、京都の大学で美学を専攻する。卒業後、世界を巡るバックパッカーや人力車引きのアルバイトなどを経る中で仏教美術に惹かれ、南丹市にある工芸学校で仏像彫刻師を志す。

 首尾よく京都市内の仏像工房に勤めるも、間もなく業界の現状を思い知らされることになる。価格の安い中国製品が急速に技術水準を高めており、とても太刀打ちできないと悟ったそうだ。

 その結果、2年ほどで仏像工房を辞め、知人を通じて南丹市八木町在住の彫刻家の蔵に住むことになる。家主の彫刻家は里山を整備してバイオマスに活用するなど環境問題の活動も展開しており、それを手伝う中で鈴木さん自身も環境問題に興味を持つようになったという。

 当時、近くに農産物の生産を手掛けたり、周辺農家の作物を集荷する会社「オーガニックnico」があったことから、鈴木さんはアルバイトとして業務に携わることになる。同社は同じ農産物会社・坂ノ途中と協力する形で日吉町や美山町など南丹市各所の農家から作物を集荷し、共同で京都市内に運んでいた。鈴木さんは「こんなやり方があるのか」と興味を覚えたそうだ。

 オーガニックnicoで2年半ほど働くうちに、鈴木さんの中で、里山など地域の環境問題と有機農業を取り巻く状況とがリンクするようになる。

 「本来ならば田舎社会には、衣食住の全てを自給できるだけの資源が揃っています。にも関わらず、少子高齢化、過疎化、農地や山林の荒廃などが進み、田舎での生活は持続不可能だと思われているのが現状です。一方で、ライフラインを絶たれたら数日で破綻してしまうような都市が、まるで永遠に繁栄するかのように思われている。そこに、現代社会の矛盾を強く感じました。

■鈴木健太郎さん
 いろいろ体験した結果、田舎を持続可能にするためには、何世紀も続いてきた村落コミュニティの自治システムをアップデートする必要があるという思いに至りました。そのためには、今後ますます放棄されていくであろう農地や空き家を、持続可能な形で維持してくれるような農家、すなわちオーガニックの農家を支える仕組みが必要ではないかと考えました。」
(鈴木健太郎「Local×Organic=Sustainableの中立な話し合いの設計」京都市ソーシャルイノベーション研究所『SILKの研究』2021年8月12日)


京都オーガニックアクション(KOA)


 こうした問題意識が、後述する369商店の開店につながっていく。その際、行動に移すにあたって、一つのきっかけが強く背中を押したという。

 「当時、僕は3~4歳になる子どもを亀岡市内にある自然保育の共同保育所に預けていたんですが、そこに来ていたお母さんたちが、こんな悩みを話し合っていたんですね。『オーガニックの野菜が欲しいのに手に入らない。「たわわ」
(※)に行っても、「ガレリア」(※)に行っても買えない。どこにいけば買えるのかしら?』と。」(※いずれも亀岡市内の農産物直売所)

 話を聞いた鈴木さんは、オーガニックnicoの仕事で知り合った農家何人かの顔を思い浮かべた。母親たちに「10人ぐらい集められるなら、持ってきますよ」と誘ったところ、すぐに集まり、野菜セットにして毎週1回届けることになった。これが2014年の秋ごろ、369商店の始まりである。

 もちろん、それだけで生活ができたわけではないが、一定の手応えは感じたという。それ以外にも、亀岡でカフェを営む友人の店先などで野菜の販売を行い、なじみ客を増やしていった。その結果、ようやく2年目にして儲けが出るようになった。

 369商店を始めて3年、アルバイトで野菜の集荷に携わってから7年となる2017年を迎える中で、鈴木さんには有機農家と関わりながら、常に感じていたことがあった。

 「農家さん相互の横のつながりがないんですよね。もったいないなぁと感じていました。農家さんだけでなくて、八百屋さんや料理人も含めて、オーガニックに興味のある人がもっと幅広く関われる場があったらいいなと思っていたんです。」

 そんな思いから、鈴木さんは春先の3月、突発的に「百姓一喜~農家大宴会」と題する交流イベントを開催する。口コミによる呼びかけにもかかわらず、予想を上回る70人もの参加者が集まり、夜を徹して交流を繰り広げたという。

 しかも、単なる交流にはとどまらなかった。

 「当時、このあたりにはこんな農家さんがいて、こういうふうにつなげて、こことここの八百屋さんに持っていくというような計画をノートに書いていたんです。1コンテナいくらとして、何コンテナ積めばいくらになるかな、それなら僕の軽バンでもできるかなとか、いろいろ妄想を膨らませていました。

 4月の末ぐらいに、当時、京都一円でオーガニックの農家さんをつなごうとして動いていた「Mumokuteki」
(カフェや食堂をはじめ衣食住関連の事業を営む京都の会社)のRさんに相談したところ、「おもろいやん」という話になりました。一方で、百姓一喜に来られていた八百屋さん「アスカ有機農園」(京都市右京区所在)のⅠさんも、実は坂ノ途中と組んで同じような計画を進めようとしていたことが分かりました。アスカさんは丹後の有機農家さんとつながりがあるんで、丹後の野菜を京都まで運ぶ便の運行を考えていたし、僕は僕で綾部、京丹波、南丹の野菜を京都に運ぶことを考えていたんです。

 そこで意気投合して、アスカ有機農園、坂ノ途中、Mumokutekiそして僕の四者で話し合い、僕のノートをもとにして物流便を共同運行することが決まりました。」

 個々の農家への集荷ではなく地域ごとに集荷ステーションを設けたり、Googleのスプレッドシートを共有して受発注業務を効率化するなど具体策を固めた上で、百姓一喜から5ヶ月後の8月に共同の物流便事業が始動することになる。事業の名称は「京都オーガニックアクション(KOA)」と決まった。

 それから現在については以下、問答形式でお伝えしよう。


IT活用で利便性を高める一方、問題も

 ――現在の鈴木さんの仕事について、お聞かせください。

 
鈴木:一つは個人事業として、バンを使った移動八百屋「369商店」をやっています。宅配の軒数が60軒ぐらい、飲食店が10軒ぐらいのスモールビジネスです。一昨年から亀岡市のふるさと納税の返礼品で野菜セットを出すことになり、始めたら要望がかなりあって、いまはこちらの方が忙しくなっています。ただ、うちは「オーガニック&ローカル」を標榜しているのに、返礼品は6割ぐらいが首都圏に出しているんですよね。だから、もちろん売り上げは上がるんですが、僕の中では矛盾があります。

 もう一つが、京都オーガニックアクション(KOA)の事業で、今日もこれから2トントラックで丹後までドライバーが走って、集荷ステーションを回って八木町まで戻ってきたら、ドライバーを交代して、京都市内の八百屋さんへ順次届けることになっています。こうした配送を週に4便やっています。

 ――受発注についてはどうしていますか。これまでの実績を踏まえて注文が見込める野菜を選び、年間の作付け量を決めたりしているんですか。

 
鈴木:事前の作付け調整については、まだそこまではできてはいません。ただ、受発注については、「オーガニックがつながるファーモ」というサイトの中に受注管理とか生産者と買い手のマッチングのシステムがあり、それを利用しています。これは、もともと農水省が有機農業を広げるための支援策を受託する形で坂ノ途中が6年ぐらい前に開発したシステムです。
 ■「ファーモ」トップページ

 トップページに「さがす」「ひろば」とあって、「さがす」コーナーで生産者、買い手、作物を探すことができ、どんな農家なのか、どんな野菜があるのか見ることもできるし、小売店とか飲食店を探すこともできます。「ひろば」はSNS的な機能ですね。

 「ファーモ」は全国的なプラットフォームですが、KOAを始めた時に、地域ごとにグループ化できる機能があったらいいという話になって、その機能も搭載しました。KOAグループだけで共有できる受発注のグループですね。たとえば、福知山の〇〇農園は、何時から、どんな野菜が採れて、栽培の基準はどうか、もちろん価格、出荷量は総数と残数が分かります。発注画面で八百屋からの注文もできます。

 注文を入れて、「発注を更新する」にすると、メールで全部の農家に発注が飛ぶようになっています。僕からは来週発注している物の一覧が見れる、農家さんもそれが見れるという仕組みになっています。

 過去のデータは全部残っているので、KOAの中でシステム関係に強い農家の方がデータを抽出して、農家の出荷量や八百屋の買い付け予定などを考慮して、少しずつですが、「○○の作付けをもう少し増やす方はいませんか」といった話ができ始めたところです。

 ――よつ葉(関西よつ葉連絡会)の場合、産地野菜と地場野菜という二つの系列があって、地場野菜の場合は受発注ではなくて、毎年春夏野菜と秋冬野菜について4ヶ所の生産拠点と作付け会議をして、これまでの実績から必要量を算出し、各農家には想定の作付け量を出してもらって、削ったり増やしたりした上で、出てきた野菜は基本的に引き受ける形でやっています。ただ、思い通りにいくことはほぼないです。

 
鈴木:最初の頃は、僕がメンバーの農家を回って1軒ごとの作付け状況をリストにして、それを八百屋のメンバーと共有して、八百屋のほしいものをまとめて資料にしていたんです。当然ですが、八百屋さんが「忘れちゃった」とか、農家さんからすれば「買ってくれると言っていたのに、買ってくれない」なんて話も出てくるわけです。

 そこで、たとえばフェイスブックのメッセンジャーのグループで「取引きスレッド」というものをつくって、「マコモダケ、始まりました。注文お待ちしています」とか「賀茂ナスが30個採れすぎました、今日、誰か要りませんか」とか、リアルタイムで情報を共有する工夫をしたりしました。

 作付け通りにはいくことはあまりないとは思いますが、僕らとしては「ファーモ」のシステムがあることで、複数の八百屋と農家との取引が、すごく簡単にできるようになりましたね。

 ただ、利便性が上がった一方で、逆にコミュニケーションが少なくなくなってしまいました。数字を打ち込んだらいいだけですからね。それでも、コロナ前は僕ら八百屋が6、7軒集まって、年に2回は産地訪問をしていたんですよ。コロナ後は、それもできなくなってしまった。

 でも、今年の7月後半から8月にかけて豊作で野菜が溢れたのをきっかけに、8月のリモートで緊急会議をやったところ、思いのほかコミュニケーションをはかることができました。みんなズームに慣れてきて、今はもう月イチで、オープントークみたいな形で、今の野菜の状況とか、話をしようと考えています。

 ――鈴木さんを中心にして情報を集約しているのではなく、農家と売り手がそれぞれやり取りしているんですね。

 
鈴木:「ファーモ」のシステムがないと、複数の八百屋から情報を聞いて、整理して農家に発注をかけることになりますが、そうすると完全に卸業になっちゃうし、お互いがつながらない。それはしたくなかったんですよ。できるだけ、直でやり取りをする形にしたかったんです。回りくどいですが、それこそ有機的なつながり方をしているかなと思います。

物流便事業は端境期の対策が課題

 ――共同の物流便事業は順調に進んでいるんですか。

 
鈴木:去年の12月に初めて黒字化しました。4年目になります。ただ、最大の要因は坂ノ途中が北部の集荷を全部KOAに振ってくれたことです。物流便の売り上げそのものは非常にシンプルで、1コンテナ600円の手数料で運んだコンテナ数の分を八百屋さん側から払ってもらう。50コンテナなら3万円。それでだいたい、人件費や高速代、ガソリン代といった経費がトントンになっている状態です。だから、全く収入にはなっていません。最初は軽バンでしたが、いまはトラックになったので、最大120コンテナぐらい運んでいます。

■369商店の出荷作業場
 ――物流便事業を利用している農家さん、八百屋さんについて聞かせてください。

 
鈴木:いま便を利用している農家は30軒、八百屋は12軒です。農家さんは「ファーモ」の利用が必須だったりするので、比較的若い人が多いですね。一番上で50代ぐらいだと思います。
 八百屋さんも、もともと建築現場で働いていた人が食に興味を持って始めて25年とか、学生の時から始めて15年ぐらいされていたりとか。一方で老舗の三代目という方もいらっしゃいます。いろいろですね。

 ――過不足にはどう対応しているんですか。

 
鈴木:7月や12月はどうしても野菜が溢れてしまって、よつ葉さんなら溢れてしまった時の対処の仕方があると思うんですが、こちらにはその機能がありません。8月の緊急会議で出た話だと、たとえば福知山の中央市場とかに持っていくことはできないかとか、とりあえず行き先の道筋をつけることが課題になっています。

 端境期の時なんかは、結局トラックを赤字で運行することになります。その場合の野菜の確保の仕方は八百屋さんがそれぞれ自分で考える。369商店の場合、2~4月は地方発送をお休みにして、ごく近場しか配送しない、とかいう形で調整しています。

 いずれにしても3、4、9月あたりは赤字運行になりがちなので、なにか対策を考えないといけないとは思っています。いくつかアイデアが出ていて、加工場を持っている農家さんと協力して野菜の加工をやってみよう、とか。あと、検討段階ですが、家庭や飲食店の生ゴミをコンポストにして農家さんに還元できないか、とか。KOAには八百屋さんがたくさんいるので、一般家庭にコンポストを預かってもらって、野菜の配送をするついでにそれを集めて、協力してくれる農家さんのところに持っていけたらカッコいいな、なんて話をしています。

 ――赤字運行は厳しいですね。

 
鈴木:そうなんですが、KOAは物流便事業だけではないんです。実は、物流便事業を始めた翌年、2018年には京都オーガニックアクション協議会を立ち上げています。

 設立の中心になったのは僕ではなく、三重県伊賀市で有機農業の会社や研究会をされていたMさんという方です。物流便事業に興味を持っていただいたようで、生産者の勉強会とか経営の研修会なんかをする枠組みとしてKOA協議会をつくったらどうか、農水省の補助金も受けられるし、という話になりました。

 農家に対してはIT講習会や栽培技術のワークショップ、八百屋に対してはマネジメント講習、商談会や作付け検討会なんかを軸にして、農家と農家、八百屋と八百屋、それから農家と八百屋が自由に議論する場ができたんですよね。たぶんほかの地域ではあまり見られないプラットフォームになったと思います。

 先進的な農業をしている和歌山とか長野の農家を呼んで講演会をしたり、講習会をしたり。あとは市場の見学ですね。京都の中央卸売市場にある京果(京都青果合同株式会社)とか、東京の豊洲市場の見学に連れていってもらいました。僕はもともと農業業界にいたわけではなく、青果の流通についてはあまり知らなかったんで、すごく勉強になりましたね。

 ただ、かなり速い速度で物事が進んだために僕の理解が追い付かないこともあったし、物流便事業の範囲にとどまらず他府県からの参加者も増えていって、整理がつかなくなってしまったんですね。同じ場所で議論しても、物流便と関係のない人もいれば、物流便のことしか興味のない人もいる。そこは分けるべきなのか、どう分けたらいいのか、僕の中でもごっちゃになっていました。

 そんなところにコロナ禍が重なった結果、今年の春に解散することになりました。だから、KOAは去年までは協議会が母体になっていたんですが、現在は母体がない状態になっています。


共同のプラットフォームを

 ――話し合いの場がなくなるのは惜しいですね。

 
鈴木:そうなんですよ。そこで現在、一般社団法人として改めて京都オーガニックアクションを設立し、物流便事業を行う一方で、「オーガニック&ローカル」という考えを広める活動を中心に位置づけていこうと、仲間たちの間で話しています。昨日も打ち合わせをしました。

 未公開ですがホームページもつくっています。参加している八百屋さんのマップや情報を掲載したりして、主に一般消費者の方に賛同してもらって、こういった八百屋さんで野菜を買ってもらえるような取り組みにしたいと思っています。

 実際、これまでの活動の中で農家と八百屋とのつながりはすごく強くなっていますが、一般の消費者とか、ほかの会社や団体とか、外部の人に対する発信とか、取り組みを知ってもらうことはほとんどできていません。でも、僕らが大切にしている価値観なんかをもっと社会に広めていく、というより、いろんな人と共有できる容れ物みたいなものをつくりたいんですよね。

 だから、これまでKOAの活動を共にしてきた仲間が中心にいるとはいえ、よつ葉さんのような食・農関係の方々はもちろん、たとえば出版社のような別の業界からも参加してもらえるような場ができればいいなと思っています。

 ――物流便の利用がKOA参加の条件ではないわけですか。

 
鈴木:そうです。僕らは一つの企業というより、組合みたいなもんですよね。生産者と八百屋が入っている組合として、こういう社会を思い描いています、と打ち出すことがしたいんです。だから、物流便を使っていようがいまいが、考え方に賛同してくれるならKOAのメンバーとして一緒にやりましょう、ということです。
■共同物流便の運営ルート「オーガニックをもっと身近に!京都オーガニックアクション応援カフェin南丹八木」『京都ちーびす(地域力ビジネス)』(https://www.kyoto-chii.biz/)2018年4月10日から

 実のところ、KOAは物流便を使っている八百屋と農家というイメージが強くて、掲げている理念はもっと広いのに、同じ京都でも城陽や大原の農家さんにとっては参加しにくい状態でした。協議会があったときは、混乱はありつつも、物流便とは関係のない農家さんも参加できたのに、協議会が無くなったことで他の人たちが参加できなくなってしまった。なので、今度はもう少し間口を広くして再建したいと考えているところです。

 そういうと、協議会の二の舞のように思われるかもしれませんが、協議会の場合は最初からそこをきちんと話し合わずにやってしまったのがまずかったと思っています。段取りを踏まずに立ち上がってしまって、理念のところで参加した人と実益のところで参加した人とのズレが解消できなかったわけですが、今回はKOAとして改めて理念を定義しなおして、便はその理念の具体化という形で考えたいと思っています。

 ――「理念」とは、どのようなものですか。

 
鈴木:まだ公開していませんが、いくつか柱のようなものは合意しています。例えば、環境を大切に、できるだけ環境負荷をかけないようにする。あるいは、目先の利益よりも将来の利益を重視する。それから、立場や考えが違っても対話を通じた理解を追求する。

 あとは、都市と農村が互いに補い合って持続可能な地域社会を目指すとか、安全な食と農のあり方を常に追求するとか、農業の持っている多様な価値を模索する、とかですね。

 ――僭越ですが、かなりレベルの高い内容ですね。

 
鈴木:そうですね。でも、やっていることすべてに通じていると思っているので、ここを共有する形でやっていきたいなと考えています。これまでも、参加したいと言ってくれている人は、だいたい共有できるという感触を持っていますね。

 逆に、これまでは基本的に「仲間」の関係を軸にやってきたんですが、これから関係がさらに拡大していくと、一緒にやっていけるかどうか判断を問われる部分が増えてくるかもしれません。要するに「お客さん」が出てこざるを得ないと思うんですよ。そこをどうルール化するのか、ですね。

 ――具体的な展開について、計画していることはありますか。

 
鈴木:マルシェイベントを通じて、もっと発信をしていこうという意見が出ています。関連して言うと、河原町御池に京都信用金庫が立てたQUESTIONというビルがあります。ソーシャルビジネス系の人たちが活用できるような仕掛けがいくつかあって、例えば1階はイベントスペースになっていて、マルシェもできます。5階は普通の銀行なんですが、4階が階段状のイベントスペースになっていて、講演やトーク交流も可能です。さらに、8階にキッチンもあります。

 実は、KOAメンバーの八百屋さんの中に、8階キッチンの運営にかかわっている人がいるんですよ。だから、そこを使っていろんなイベントをやっていこうと考えています。

 (ちなみに、この八百屋さんは先ほど触れた老舗の三代目の方ですが、「ソーシャル八百屋」を自称していて、市場で溢れた野菜を引き受けてはツイッターでお助けを求めるツイートをしまくっていたら、最近すごくヒットするようになって、“いくらでもいいから送ってください”という人も出始めたそうです。)

 京都市役所の斜め向かいなので交通の便もいいし、何でもできますよ。たとえば、京丹後の農家さんたちを呼んで1階で即売会をやってもらって、8階で料理人がそれを調理する。同時に4階では「オーガニックとはなにか」みたいな講演会をやったり。

 その中で、たとえばよつ葉さんにゲストとして、やっている取り組みを話してもらったり、それをズーム配信したり。そなふうに、いろんな方と連携して、京都オーガニックアクションの価値観を発信するプラットフォームにしたいと思っています。

 実は、昨日の夜、ちょうどその話をしていて、ようやくこういう形にしていこうという話がまとまったところです。半年以上かかりましたが。

農家と八百屋だけでなく

 ――そうした話をしているのは、どんな方々ですか。

 
鈴木:まず、どういう組織にしようか検討する組織委員会を4人でやっています。京都の岩倉にある総合地球環境学研究所(地球研)の方、京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)の方、安全農産供給センターの生産者の方、そして僕です。

 ウェブでどんな発信をしていこう、どんな人たちを巻き込んで、どんなイベントを、どういう仕組みでやっていこう――といったことを検討する広報委員会は10人ぐらいいます。

 去年まではほとんど農家と八百屋だけだったんで、かなり凝り固まってしまう面があったし、意図せずして排他的というか、参加したいけれども参加できないんですよね。内容が作付けのこととか取引の手数料のこととか専門的な話ばかりなんで、一般の人にとっては取りつく島がない。かと言って、イベントもやっていなくて、あくまでも協議会は生産者の支援のためにやっていたところがあったんです。

 それに対して、今回は最初から農家と八百屋以外の人たちに加わってもらっています。例えば、最近広報委員会に参加してくれた20代の女性は、本業は出版社の編集者をしていて、将来は自分で出版社を立ち上げたいと言っているんですが、SNSを通じた広報を担当すると言ってくれました。

 あとはアースデーというイベントを企画したり、亀岡市のSDGs関連の企画にも携わったりとか、多種多様です。やっと形が見えてきたところです。でも、これだけいろんな人がいると結構面白いかなと思います。

 ――物流便の路線を拡大することなどは考えていますか。

 
鈴木:はい。いま走っていないところに便を出したり、別の団体で同じような便を出しているところに共同利用を持ちかけるといったことも考えられます。

 それに関連して、何かメディアのようなものをつくりたいと考えているんです。例えば、この生産者はどんな人で、何を作っていて、どんな考えを持っているか、といった情報をピックアップして掲載する。じゃあ、その人の野菜がどこで買えるか、例えば京都の○○という八百屋さんです、というように紐づけていく。それを「オーガニック八百屋マップ」みたいな形でオンラインでつなげていけば、これは便に関係ないわけです。そういう情報の集まる場を作りたいと考えています。こういう広げ方もありますよね。

 あるいは、例えば京丹後の農家さんが、SNSで「人参の出荷が始まりました」と発信する。それに、「明日の朝、この八百屋さんとこの八百屋さんに並びます」と加えてもらえると、それをKOAのホームページやSNSでつなげていけば、それを見た消費者がその八百屋へ行くアクションにつながるかもしれません。

 SNSを活用したりQUESTIONという場を使ったり、いずれにしても、できるだけ地元の野菜を食べるという人を増やすためのオープンな連携の枠組みづくりですよね。KOAはそれらを囲い込むものではなくて、あくまでもハブ(軸、結節点)というイメージです。

地域をどうするか、大きな課題

 ――ところで、「オーガニック&ローカル」という基本方針はいつごろ芽生えたんですか。

 
鈴木:369商店を始めたころからですね。亀岡のお母さんたちが亀岡の有機野菜が買えないと困っていた、そこに引っ掛かりを感じました。オーガニックnicoで働いていたときも、作物はほとんど京都市内に運んでいたで、もったいないなと思っていました。

 その意味では、いま京丹後の野菜を京都市内に運んでいることについて、矛盾を感じる部分もありますが、これはどの範囲で「ローカル」を捉えるか、という話でもあります。

■配達のバンにKOAのロゴ
 ただ、例えば京丹後などは、実はほかの地域よりも進んでいるんですよね。中心的な有機農家のお弟子さんたちも地元でファーマーズマーケットのような取り組みをしているし、地域のスーパーにもけっこう並んでいるんです。僕があえて言うまでもない状況なんですね。

 ――いま住んでらっしゃるところではどうですか。

 
鈴木:ここには計画的に来たわけではなくて、以前に住んでいた八木町の家を、よんどころない事情で移らざるを得なくなり、知人の紹介で越して来たのが実情です。

 「オーガニック&ローカル」と掲げながら、この村の農業にはなにも貢献できていなくて、忸怩たる思いはあります。近所の人が慣行農法でつくっている万願寺とうがらしを買って、それでもいいと言ってくれる、付き合いのある飲食店に販売したりしましたが、身近なところが一番ハードルが高いなという感じがしますね。

 周りを見渡せば、京都の会社がラーメン屋で使う九条ネギの栽培を勧めたりしていて、気が付けば農薬をバンバン使ったネギの畑だらけになっちゃって、悲しい限りです。

 ――地域をどうしていくか、非常に難しい問題ですね。志のある個々の農家が持続すること自体も大変ですが、農業は地域あってのものだとは言え、地域全体で考えると、なかなか先が見えません。

 
鈴木:この村も、去年は2軒空き家が出ました。この前、その1軒を村人と総出で整理したんです。

 僕らがここに越してきたのが3年前です。かつてはここから歩けるところに小学校があったんですが、僕らが来る前の年ぐらいに合併して廃校になりました。園部は学校の統廃合がかなり進んでいます。うちの子供たちも外の学校へ行ったり、町に働きに行ったら、帰ってこないでしょうね。

 ――最後に何かありますか。

 
鈴木:最近、自分がやり始めたことの妥当性を確認する作業が、すごく大事だと思うようになりました。

 今年の春、先ほど言ったQUESTIONのイベントとして、KOAの八百屋4軒でトークショーをやりました。岡崎公園で行われたアースデーのイベントでも、農家4人で対談をしたんですが、どちらでもKOAの取り組みを紹介すると、20代の若い子がけっこう食いついてくるんですよ。彼らがどう受け取って、どう評価するのか。そこが一番重要かもしれないと思ったりしています。

 いっしょに組織委員会をやっている地球研の方、SILKの方、安全農産の方から見て、KOAがやっていることはどういう意味があるのか、世界のさまざまな取り組みとの比較とか、数十年にわたる日本の有機農業、提携運動の歴史とのすり合わせとか。

 そういうところから現状を自覚して、今後を考えていく視点が開けるのかもしれません。その意味で、よつ葉さんとの交流も深めていければと考えています。

                                      (10月25日、南丹市園部町にて)



©2002-2022 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.