HOME過去号>201号  


コラム 南から北から
「土佐あかうし」御存じですか?


 朝晩が涼しくなり、慌てて冬物のパジャマを押入れから出したと思えば、昼間は熱中症になりそうなほど暑いときもあり、相変わらずの目まぐるしい気候で、ついていくのに必死な毎日です。

 お盆前後に続いた梅雨時のような長雨には苦労しました。紙袋のエサがカビ、乾草がカビ、ついには大きなエサタンクに入っていたエサもカビてしまい、タンクに入ってカビを取ることになりました。

 しかし、地上5メートルの入り口からタンク内に入るために必要な梯子がなく、近所に住むコウヘイさんに電話をすると、軽トラでいろいろなサイズの梯子を持ってきてくれました。ただ、それでもサイズの合うものはなく、縄梯子を作ることに。なんとか簡易の縄梯子ができて、夫の拓也さんがいざ突入。

 3メートルほど降下して表面のカビをすくい取り、上から垂らしたバケツに入れ、私がタンク入り口から引き上げ、それを下にいるコウヘイさんが受け取り、捨てる――地道な作業が始まりました。

 コウヘイさんは、拓也さんが牛飼いを始めるにあたり牛舎を貸してくれたり、牛飼いのいろはを教えてくれた大先輩です。3年前に牛飼いを辞め、今は柑橘を作っています。病気で昔のように働けないと聞いていましたが、その時のコウヘイさんは私たちより機敏で頼りがいがあり、かっこよかったです。

 3人でワーワー言いながらする作業は新鮮で、カビ臭かったり高所で怖かったりしましたが、私にとっては貴重な時間となりました。

            ★      ★      ★

 私たちは畜産農家の中でも繁殖農家で、母牛を飼育し種付けをし、生まれた子牛を生後7~9ヶ月でセリ市場に出荷して収入を得ています。現在は、母牛30頭、子牛9頭の比較的小規模な繁殖農家です。

 飼育している牛は褐毛和種で「土佐あかうし」のブランド名で流通しています。目鼻周りが黒く、性格は温厚で、放牧に適しているのが特徴です。それを活かして、私たちも母牛を約8haの山に放しています。山では木の葉や雑草、芝を食べていますが、30頭のお腹を満たすには不十分なため、前回書いたように田んぼを借りて牧草を作っています。

 夏は牧草も雑草も豊富にありますが、冬は少なくなるため、今年から新たに牧草をロールしてラップすることで冬まで貯蔵できる「ラップサイレージ」を作ることにしました。補助を利用して、4つの機械を導入。機械の使い方もサイレージの作り方も、調べたり、聞いたりしながらの試行錯誤で、初めての作業はトラブル続きでした。

 思ったような数量は作れませんでしたが、初心者なりに精一杯頑張りました。しかし、数が少ないと1個当たりのコストが高く、草を購入した方が安い計算になってしまいます。自給飼料率は高めていきたいので、コストを下げられるように、今後はどれだけ無駄なくたくさん作れるかが課題です。

            ★      ★      ★

 土佐あかうしは、高知県で約2400頭(うち繁殖牛1030頭)飼育されており、年間出荷は和牛生産量の0.1%程度しかありません。私たちのような繁殖農家に対して肥育農家が少なく、肥育農家も繁殖から自分たちで行う一貫経営が増えてきています。

■放牧場から室戸市街地を見下ろす母牛のさかえ
 また、県外で肥育をすると「土佐あかうし」のブランド名が使えなくなるため、県外からの購買者も少なく、子牛価格が低下しています(黒毛和牛より30万円ほど安い)。子牛価格が低くても自給飼料や放牧を活かしてコストを下げる努力をしていますが、疋田さんも書いていたように、もっと仲間を増やして、土佐あかうしを盛り上げていきたいです。

     (松本木の実:高知県室戸市在住)




©2002-2022 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.