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兵庫県知事選挙をめぐる座談会 報告

生活の場から住民自治に基づく政治を
「維新/反維新」の線引きを超えて

 去る7月18日に投開票が行われた兵庫県知事選挙。現職後継者の副知事と自民の一部および日本維新の会が推薦する元大阪府財政課長とが事実上の一騎打ちを演じた末に、後者が当選する結果となった。今回の選挙は何を示しているのか、私たちは今回の選挙のどこに注目すべきか、選挙の結果から何を学ぶべきなのか――。選挙にかかわった当事者の総括、現場を取材した感想などを交えて座談会を実施した。参加者は、松本 創さん(フリーライター)、北上哲仁さん(兵庫県議会議員)、谷 正充さん(川西市議会議員)および津田道夫(当研究所事務局)。司会は山口 協(当研究所代表)が担当した。


「斎藤=維新」は正しいのか?

 ――今回の兵庫県知事選挙では、有力候補者の一人である斎藤元彦氏が日本維新の会(以下、維新と略)の推薦を受けており、また大阪府の財政課長だったこともあって、とくに大阪から見ると、“とうとう維新が兵庫に乗り込む”といった印象を持ちました。実際、もう一人の有力候補である金沢和夫氏の側も、“維新に兵庫を乗っ取られる”といった危機感を示していたと思います。

 しかし、振り返ってみて、本当にそうだろうか。大阪のイメージで今回の事態を捉えると、事実を捉えそこなってしまうのではないか、と疑問が湧いてきました。維新は批判すべき対象だと思いますが、だからこそ印象ではなく事実に即してきちんと顛末を見据える必要があるはずです。

 そこで、本日はフリーライターの松本創さんをお招きしました。松本さんは、今回の選挙について、図式主義的な見方を排し、取材にもとづいたルポを書かれています。今日は、その中で触れられなかったことも含めてお話しいただければと思います。

 では松本さんから、今回の知事選を振り返って、注目点などをお願いします。

 
【松本創】僕はもともと吹田の出身で、全国各地を転々とした後、1992年に神戸新聞に入社し、14年ほど勤めてフリーになりました。新聞社では県政担当の記者もしており、ちょうど井戸(敏三)前知事が県知事選に出るころ詳しく取材をした経験があります。当時、まさか井戸さんがこれほど長く知事を続けるとは思いもしませんでしたが、結局5期20年ですよね。後進に道を譲る時機を見誤り、多選の弊害が大きくなっていたと思います。

 というのも、新聞記者時代から付き合いのある県庁OBや地元議員なども含め、さまざまな関係者から、維新のような形ではないものの、井戸さんも「独裁者」になっていると何年も前から聞いていたからです。県庁職員の中にはモノ申す人が誰もいない、関西の知事会に持っていく手土産の陶器の柄まで了解を得ないといけない――なんて話も聞きました。

 実は、その話をしてくれた人は「知事はそこまで見ているんだ」と、むしろ賞賛する文脈で話してくれたんですが、それ自体おかしいと気づけないような状況になっていたわけですよね。

■松本 創さん:1970年大阪府生まれ。神戸新聞記者を経て、現在はフリーライター。関西を拠点に人物ルポやインタビュー、コラムを執筆。著書に『誰が「橋下徹」をつくったか 大阪都構想とメディアの迷走』(140B)など。『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』(現・新潮文庫)で講談社本田靖春ノンフィクション賞を受賞。
 金沢さんは、確か総務部長として最初に兵庫県に赴任された際に、県政担当記者として面識を得たと記憶しています。当時、一番下っ端の記者だった僕に対しても丁寧に対応してくれるなど、温和でいい人だなという印象を持ちました。

 斎藤さんについても大阪府の財政課長時代に面識を得ていますが、実はそれより前、今から3年ほど前に、“総務省の中に、ゆくゆくは兵庫県知事か神戸市長を狙う若手官僚がいる”という話を聞いていたんですね。その後、実際に面識を得て何度か話をすることになりましたが、立場上あからさまに「選挙に出たい」なんて話はありません。ただ、以前にそういう話を聞いているので、「こういう話がありますが」と水を向けると、まんざらでもないというか、強く否定しないし、逆に「後継者はやはり金沢さんなんですか?」なんて聞かれたりもしました。

 関連して言いますと、選挙戦の過程で「斎藤は維新だ!」と決めつける宣伝があり、いまも熱心なアンチ維新の人たちはそう言っていますが、僕が何度か話した印象では、彼が維新的なものにシンパシーを持っている雰囲気はとくになく、むしろ突き放して見ている印象がありました。あくまでも「保守本流」というか、本人としては自民党推薦での出馬を希望している感触を言葉の端々に受けました。

 ただ、維新は大阪では圧倒的に人気があるし、仕事上のボスは維新の中心人物ですから、距離の取り方をどうすべきか、自分が選挙に出た際に維新に対抗馬を立てられないようにするにはどうしたらいいか、そのあたりは気にしていたと思います。維新へのスタンスについては、選挙戦の際にも何度か尋ねましたが、うまくかわされました。

 実際の話でいうと、今回の知事選の過程では、維新が斎藤さんを推したというより、自民県議団の一部が推した斎藤さんに維新が巧妙に乗っかったんですよね。丹波市選出の石川憲幸県議が中心と言われていますが、石川さんらは昨年7月くらいから斎藤さんに接触して、自民党の有力な候補として大事にしていた。ところが、金沢さんを押す県議団多数派との間で党県連がゴタゴタしているうちに維新に先に唾をつけられた格好になってしまったわけです。

 そういう経緯からすれば、維新が推薦したからと言って「維新の候補」と決めつけるような論調には同意できません。むしろ、彼は総務官僚として新潟県佐渡市や宮城県庁など現場を歩いてきた経験もあり、自民党ときちんと付き合うことの重要性とか、維新的な改革パフォーマンスの欠陥についても分かっていると思います。

 例えば、大阪ではとくに昨年、吉村府知事が新型コロナ対策として、学校休校中の子供たちへの支援として図書カードを配るとか、医療従事者にクオカードを配るとか、財政的な裏付けもないまま思い付きの政策を何度も公言しました。そのたびに、副知事や財政課長の斎藤さんが必死でフォローしていたという話を聞いたこともあります。

 そんなわけで、今回の選挙では、両氏に対する以上のような印象を背景に、その上で記者としてフラットな立場から事態を追いかけていきました。


「継承か刷新か」 敗れた井戸県政

 
【松本】その中で見えてきたのは、長期にわたる井戸県政の問題です。

 これまで兵庫県では59年にわたって、旧自治省=総務省の官僚が副知事を経て知事に就任するパターンが続いてきました。井戸さんの場合も、その前任の貝原(俊民)知事が任期途中で引退し、後継者の井戸さんを勝たせる構図がつくられました。当時、井戸さんは「県政ビジョン」づくりを担当し、県内をくまなく回ってヒヤリングしていました。要するに、全県にわたって顔を売っていたわけですが、県内を回り終えた段階で貝原さんが辞任し、選挙に突入したんです。

 実は今回、金沢さんも同じように「県政ビジョン」を担当していました。コロナ禍もあって実際の出馬のタイミングは遅れましたが、いずれにせよ、井戸さんや県庁OB、自民党県連の多数は60年続いてきた体制を今回もそのまま温存・継承しようとしたわけです。

 金沢さんは選挙戦の中で、「神戸新聞は『継承か刷新か』と書いているが、間違いだ」なんて言われていましたが、現実に「継承か刷新か」が争点となったことは間違いありません。金沢選対を動かしていたのは元副知事を筆頭に、20年前に僕が県政担当だった時代の幹部職員たちですし、金沢さんの政策集を書いたのも県庁OBです。推薦をもらった各種団体も井戸さんからほぼそのまま引き継いだものです。にもかかわらず「継承ではない」と言われても、さすがに無理がある。その上で、井戸さんの負のイメージが勝敗を決したと思います。

 もともと県政は俗に「中二階」と言われるように、一般の県民には遠い存在ですよね。ところがコロナ禍によって、知事が前面に出る場面が急に増えました。隣接する大阪府の知事と対比される機会も多くなりました。そうした中で、初めて井戸さんの人物像を知った県民も少なくないと聞いています。ある政党の強力な支持母体から「これまで言われた通り投票してきたけど、あんな人だとは思わなかった」といった苦情が入ったなんて話もあります。

 情報発信が下手で、そもそもネットもSNSも見ていないんでしょう。コロナ対策の会見を見ても、時代の潮流を掴めていない印象がありました。

 ただ一方で、僕が行く先々で有権者に話を聞いてみると、県政自体が縁遠いことも要因でしょうが、井戸県政に対してとくに明確な不満があるわけではないんですね。実際、大きな失点があったわけでもありません。それよりも、“世代交代してほしい” “若い人に任せてみたい”といった話をされる方が多かった印象があります。

 そうした世の中の雰囲気について金沢陣営はどこまで理解していたのか、そこが疑問です。結局、選挙戦の中では「斎藤は維新だ。兵庫都構想をやるつもりに違いない。兵庫が大阪に乗っ取られる」といった「維新ネガキャン(ネガティブキャンペーン)」が過剰なほどに行われました。そこには事実に反する情報もかなりあり、僕にすれば“維新を批判しながら、やっていることは維新と同じやないか”という気がしました。

 また、金沢陣営は「兵庫を知らない人に知事は任せられない」とも主張していました。これは、斎藤さんが神戸生まれではあれ、中学から県外に出て兵庫県に住んでおらず、兵庫県に勤めた経験もないことを指摘したわけですが、非常に排他的にも聞こえます。それくらいしか主張すべきことがなかったのかもしれません。自ら政策論争を放棄しているようにも思えます。

 今回の勝敗を決めたのは、阪神間で強い維新支持票を斎藤さんが取り込んだのも一因ですが、それよりも5期20年続いた井戸県政への倦怠感や閉塞感が大きいと思います。同じような後継者の金沢さんではなく、刷新と世代交代を有権者は望んだ。また、選挙戦での主張や運動の手法を見ていると、金沢陣営が決定的に時代の潮流を捉えそこなっていたこと、そのあたりではないかと見ています。金沢陣営には厳しい見方かもしれませんが、率直な感想です。

 もう一つだけお話しすると、僕は橋下徹さんが政治の世界に現れて以降、維新をウォッチし続けていますが、彼らの思想や政治手法に賛同する部分はほとんどなく、かなり批判的だと自負しています。とはいえ、彼らが支持されているのも事実です。兵庫県でも阪神間を中心に都市部で支持を増やしています。とすれば、そこには何か受け入れられる理由があると考えた方がいいと思います。

 残念ながら、「アンチ維新」の人たちの中には、今回の選挙について「マスコミの偏向報道に負けた」みたいなことを未だにネットに書いている人もいます。そうした言葉でしか自らを正当化できないわけです。しかし、それならそれで、具体的な記事なり論調を挙げて批判しないと意味がありません。僕自身、金沢陣営にいる知り合いに何度か「神戸新聞は偏向している」と言われたので、「具体的にどの記事ですか」と尋ねましたが、そうなると口を濁すんですね。

 そうした姿勢を脱却して、維新が支持されている理由も考えないと、今後も同じような間違いを繰り返しかねません。


「反維新」以上の結集軸を打ち出せず

 ――松本さんのお話に関連して、私は知事選挙と同じ日に行われた猪名川町長選挙の結果に注目しました。猪名川町長選挙の構図は知事選と逆転しています。というのは、前町長がいくつかの問題を抱えて辞任したんですが、その町政を継承するとして出馬したのが自民と維新が相乗りで支援した候補、調整の刷新を掲げて対抗馬として出たのが非維新・非自民の候補だったからです。結果は刷新を掲げた非維新・非自民の候補が勝利しました。

 一方で、猪名川町は知事選では、金沢氏よりも斎藤氏の得票率が20%も上回っていました。こうしてみると、維新だから支持するとかしないとかではなく、やはり既存の県政や町政を踏まえて、その継承か刷新かというところに有権者の線引きがあったのではないかと思います。その意味で、松本さんのお話はよく理解できました。
 ■座談会の模様

 その上で質問ですが、報道などで見る限り、斎藤氏は選挙戦の過程で「身を切る改革」など、維新を彷彿とさせるフレーズを持ち出していることも事実です。このあたり、やはり維新に親和的な側面があるのではないかとも感じてしまうのですが。

 
【松本】「改革」という言葉は自民党も金沢さんも使っていました。世の中の景気が上向かず、兵庫県の財政も厳しい中で、いわゆる「既得権益」と見られがちな公共の領域を削ろうとする改革志向は、大阪だけでなく社会全体にありますよね。その意味で、僕は「改革」という言葉自体よりも、その中身を見ていく必要があると思っています。

 ――なるほど。では、北上さん、今回の選挙を振り返って、どうだったでしょうか。

 
【北上哲仁】松本さんは、金沢さんではなく井戸さんが負けた選挙だったと総括されていましたが、私も基本的にそう思っています。もっとも、私は井戸県政に対して、震災復興を成し遂げ、バランス感覚もあり、住民サービスを極端にカットすることなく、20年間頑張られた点は肯定的に評価できると思います。私自身は県議になって2年目ですが、井戸さんは議会では、どんな議員に対しても積極的に答弁に立つし、議会ときっちり議論しようとする姿勢があって、その点は高く評価していました。

 旧自治省=総務省の官僚出身で、政治信条は基本的には保守の人でしょうが、良識派ではありますよね。憲法9条改悪反対の立場も鮮明にしていたし、小泉・竹中のいわゆる構造改革路線に対する批判もあって、その点でシンパシーを感じる部分もありました。

 松本さんが言われたように、5期20年間続ける中で、「独裁」と言えるかはともかく、どの分野にも詳しいがゆえに職員が誰も意見できず、結果的に県政が硬直化してしまった点は問題だと思っていたところです。

 金沢さんについても、おっしゃるようにいい方です。妹さんが知的障害者ということもあり、弱い立場の人も輝けるような世の中にしたいというのが公務員になった原点とのことです。その志は一貫して持っておられたと思います。

 ただ、年齢のせいもあるのか、当初は選挙戦を戦うガッツがあまり感じられず、自民党の中では“本当にこの候補者でいいのか”という疑念が燻っていたとも聞いています。他方、維新の側は大阪以外で首長を取りたいものの、自分たちだけで兵庫で勝てるのか不安もあったはずです。そこで、自民党内の金沢懐疑派と維新の思惑が一致したと考えられます。

 それから、菅政権中枢の思惑もあると思います。この先、自公だけで国会の圧倒的多数を握り続けられるのか、不透明な部分があるし、憲法改定を考えれば維新と組む必要もあります。そんな背景から、菅・松井ラインで後押しされた側面もあると思っていて、そこは今後も注意しておくべきでしょう。

 斎藤さんは、最初は「ゼロベースで県政を見直す」と言われましたが、その後は“維新ぽい”フレーズは意図的に隠したか、控えたように感じられました。金沢さんが選挙公約(『私のめざす兵庫―3つの重点目標と県民との75の約束―』)を発表すると、その後は斎藤さん側が重ねてきているような印象を受けました。結果として政策的な違いはほとんどなかったですよね。だから、松本さんは、金沢さんが積極的に政策論争を仕掛けなかったと言われましたが、私は逆に斎藤さんが金沢さんに重ねてきた側面もあるのではないかと思います。

 そうなると、政策的な違いがない中では、やはり若さとか刷新とか、閉塞感の打破といったところが有権者にとっては投票する際のポイントになったのではないでしょうか。

 ただ、「継承か刷新か」と言っても、具体的にどんな政策を刷新・改革するのか、そうではなく、いわば“既得権益化した県政”そのものの刷新なのか。同じ刷新でも大きく違ってきます。その点では、今回は県庁OBや労働組合といった、悪く言えば、いわゆる「既得権益」の側と「改革勢力」の側との戦いという構図になってしまったのかもしれません。

 猪名川町長選挙について言うと、自民、維新、公明が推薦する現職後継の宮東豊一さんと無所属市民派で町議2期目の岡本信司さんとの、事実上の一騎打ちでした。双方の出発式を比較すると、岡本さんの方は集まったのが30人ぐらい。宮東さんの方は200人以上で、衆参の国会議員も揃い踏みです。そこだけ見れば宮東さん圧勝は間違いなしですが、実際に当選したのは岡本さんでした。

 やはり、維新云々ではなく、何か変えてほしい、既得権や既成政治を変えてほしいという思いが、猪名川町長選では市民派で多少とんがった活動をしてきた岡本さん、知事選では、未知数だけれども若くて何か変えてくれそうな斎藤さんに集まったように思います。維新そのものには、それほど人気があるとは必ずしも言えないと思います。

 ――北上さんとしては本来、今回の知事選挙で、ご自身の政治信条に沿うような別の候補がいれば、そちらを推していたはずで、金沢氏の側で動いたのは選択肢がなかったからでしょう。北上さんのほかにも、少なからずそうした方がいたと思いますが、そうなると結集軸は「反維新」になるわけですよね。

 
【北上】もちろん、私としては、本来なら旧自治省=総務省出身で保守派の副知事を心底から支援する義理はありません。支援した理由が「反維新」だったのは、その通りです。やはり、維新が主張してきた新自由主義的な政策が持ち込まれ、儲かるか儲からないかを基準に公共領域をバサバサ切り捨てるような県政では困るし、選挙で選ばれたら独断専行で何をやってもいいんだと言わんばかりの政治姿勢は困る。そこで、保守とはいえ良識的で穏健な金沢さんを推しました。

 繰り返しになりますが、大阪府では知事による専決処分が非常に多いし、住民自治の軽視も甚だしいんです。それに比べれば、井戸さんは専決処分も少ないし、議会にも真摯に向き合おうとしていたことは確かで、そうした要素も加味して選択しました。


新知事の中身は未知数

 ――ただ、真摯な議会対応は既存の政治システムの枠内ではいいとしても、一般の有権者から同じように評価されるとは限りません。この間、一般の有権者の中には、むしろ既存の政治システムからの疎外感が広がっているように思います。そういう既存の政治システム自体を壊してほしいというのが、大阪などで表れている事態でしょう。

 さて、お話を聞いていると、どうやら金沢陣営の結集軸が「反維新」「兵庫県を守れ」に集中してしまったところに問題があったように思いました。これは大阪の場合でも同じですが、維新の側はあることないこと言って「とにかく変えよう」と攻勢に出てくる。そうなると、批判する側は「そんなんウソや」「許したらアカン」と、どうしても防戦になってしまう。

 ただ、維新の言う改革が間違いなら、批判する側はどんな改革を対置するのか、それが示せないと攻勢に転じることは難しい。もちろん、本当に現実を変えようとすれば、ワンフレーズで済むわけはありませんが、少なくとも積極的な姿勢や議論が見えないと、維新に惹かれる人たち、正確には変化を求める人たちにアピールできないように思います。その点、金沢陣営の中で論議などはあったんでしょうか。

■北上哲仁さん(兵庫県議会議員)
 【北上】私の知る限り、議論はなかったです。個別に意見することはあったとしても、みんなで議論して作り上げていくようなことは経験しなかったですね。金沢さんは「みんな違ってみんないい」という言葉が好きだそうで、それはいいんですが、例えば教育分野の政策として「不登校ゼロを目指します」と書いてあるんですよね。でも、本当は不登校の子どもでも居場所があるような教育現場が必要なはずでしょう。それが、「みんな違ってみんないい」ということです。このあたりは、松本さんが指摘されたように、金沢選対は県庁OBなどが中心になっており、いまの現場の実感に沿っていない面もありました。もちろん、こちらから意見を出せば、ある程度取り入れてはくれましたが……。

 
【谷正充】「不登校ゼロ」については、金沢陣営の方が応援要請に来られた時にも、市議会の同じ会派の人と「これは時代が違いまっせ」って話をしていたんですよ。先方は「とりあえず出したものですから」と言われていましたが、結局そこは変わりませんでしたね。「待機児童ゼロ」なら分かりますが、「不登校ゼロ」はまったく意味が違うんでね。

 ただ、そういう問題はあったとしても、選挙運動の中で主に政策を訴えていたかと言えば、実はそうでもなくて、副知事として兵庫県に長くかかわり、誰よりも兵庫のことを知っている、だから自分だ、と。それはつまり「兵庫のことは兵庫で決める」とか「大阪に乗っ取られていいのか」といった、「反維新」の構図になっていたんじゃないかと改めて思います。向こうは「身を切る改革」のように分かりやすい言葉で畳みかけてきますが、こちら側は、自分としてはこういうことを訴えるんだ、という発信があまりなかったような印象ですね。

 ――谷さんも地域の方などに支持の働きかけをされたと思いますが、反応はどうでしたか。

 
【谷】高齢で選挙に関心のある方は、金沢さんに対して「有力な人だから大丈夫やろ」という反応でしたね。若い人は、「誰が当選しても何も変わらんでしょ」みたいな反応が多かったです。やはり、県知事とか県政は遠く感じるんでしょうね。なので、こちらから話をすると、「大阪は維新の首長になってこんなシンドイことになってますねん」みたいな話になってしまうんですよね。変えるところは変えなあかんけど、何でもバサバサ切り捨てるような人を選んだらダメやと思うんです、みたいな話はしましたけどね。

 
【松本】金沢さんのキャッチフレーズは「(どの人もどの地域も)共にかがやく兵庫」で多様性を意識していたし、斎藤さんは「ひょうごを前に進めよう!」で、停滞感を打破するイメージを意識していたと思います。「前に進める」は維新の定番フレーズですね。

 ただ、斎藤さんの演説を何度も聴きましたが、井戸県政の批判はしてないんですよね。“井戸県政は素晴らしかったけれども、いまや世代交代が必要です”みたいな言い方。だから、井戸さんが「大阪に乗っ取られていいのか」と言っていたのとは対照的ですよね。そこは、あえて対立軸を出さないようにしたのかもしれません。仮に維新単独推薦の候補者だったら、それこそ「兵庫県庁をぶっ潰す」ぐらいのことは言ったかもしれませんが、そうではなかった。

 あと、維新が担当した阪神間の街宣も聞きましたが、維新支持層に受けるようなリップサービスが意外なほどないんですよね。自民党の街宣車で話すこととほとんど変わらない。それは、場所や相手によって演説内容を使い分ける力量がないのか、あえて維新に寄らないようにしていたのか、それともしたたかに維新を利用したのか、現段階ではよく分かりません。これから出される政策を見極めて、一つ一つ判断していくしかないと思いますね。

 ――いまのところ明確な動きとしては、知事の給与と退職金のカット、新県政推進室の設置といったあたりです。新県政推進室は、いわゆるタテ割りをなくしてトップダウンで進めていくためのものなんでしょうか。

 
【松本】それも現状では、どんな中身なのか未知数です。橋下徹氏が2008年に大阪府知事になった直後に「改革PT(プロジェクトチーム)」を立ち上げ、かなり大胆な歳出削減策を打ち出したのを彷彿させる面があるのは確かです。ただ、新県政推進室のメンバーは、斎藤さんが宮城県庁時代に震災復興の応援職員を兵庫県から派遣してもらった時にやり取りしていた人事系の職員が中心で、財政や企画系の人がいない。だから何を打ち出してくるのか、まだ見えてきません。

 
【北上】聞くところによると、大阪の維新から斎藤さんに対して、“出だし(スタートダッシュ)が大事だ”といったアドバイスがあったそうです。

 
【松本】その一つが、おそらく給与と退職金のカットだと思います。僕が出た会見で、維新の馬場幹事長が「議会の身を切る改革についても、できたら9月議会でやってほしい」と言っていました。ただ、斎藤さんは軽くいなしていましたね。「まずは自分から」と。

 僕としては、斎藤さんが大阪のように強引な手法は取らないだろうと見ています。それは、彼が官僚出身で地方自治の現場を知っていること、何よりも自民県議団が割れて議会では少数与党なので、議会が動かなくなるようなことはできないだろうと見ているからです。

 さらに、冒頭に申し上げたように、彼を直接取材してきた中で、極端な新自由主義や受け狙いのパフォーマンス、攻撃性といった「維新的センス」を感じることがなかったというのもある。言葉は悪いかもしれませんが、維新の議員には“いかにも”な人が多いですよね。斎藤さんにはそれがない。もっとも、選挙で維新の集票力を実感したならば、それに応えざるを得ない面も出てくるでしょう。給与と退職金のカットも、その結果かもしれません。

 ――かつて堺市の市長だった竹山修身氏は、最初は維新の支援で市長選挙に勝利しましたが、現場に立脚するがゆえに維新の言う通りにはできなくなり、最終的に袂を分かつことになりました。そういう方向になる可能性もありますね。


企業の論理と政治の論理

 
【津田道夫】これまで維新は都市部を中心に既成の政党政治に対する有権者の不満や反感などを吸い上げて勢力を拡大し、その結果、自民党の旧来の政治スタイル、それを支える基礎的な大衆組織や末端の議員といった関係は大きく崩れてきました。また、維新は10年近くにわたって大阪府と大阪市、そのほか市や町の首長を握り、各地に数多くの議員を揃える中で、自らの組織的な基盤を確立し、広げてきていると思います。

 加えて、この間は農村部でも同じような傾向が強まってきました。僕は大阪の能勢町で働いています。今年の春に能勢町の町議会選挙がありました。少し前までは実質は自民党の保守系無所属が圧倒的に強かったんですが、今春の町議選では維新の候補がトップ当選したんです。半年前の補欠選挙で初当選した、維新では能勢で初の候補です。兵庫県養父市で市会議員をしている友人の話を聞いても、やはりこれまでの支持基盤や集票構造も含め、農村における自民党の基礎の部分が急速に崩れていることが窺えます。

 では、その崩れた部分をどんな勢力がカバーしていくのか、そのあたりは非常に流動化していますね。猪名川町長選もその一つの現れかなと思います。地域自治の範囲で言えば、住民にとって身近な政治の主張を正面から語る人が現れれば、どんな政党だろうが、政党でなかろうが、それほど関係がなくなりつつあるのかもしれません。

 今回の知事選挙でも、ああいう形で自民党が割れたことも含めて、これから農村部での自民党の支持基盤の構造がさらに流動化していくきっかけにつながるのではないかと感じました。

 ――知事選挙に関して、各候補が各市町村でどれくらい得票したのか、一覧があります。それと兵庫県議会議員の選挙区を照合すると、有権者が金沢、斎藤両候補へ投票する際の、地元選出県議の影響について推測できるところがあります。とくに農村部は定数1人の選挙区が多く、自民党が割れたこともあって、それなりに鮮明に浮かび上がってきます。

 たとえば、今回の知事選挙で金沢氏の得票が斎藤氏を上回った地域として、豊岡市、丹波篠山市など県北の丹波、但馬地方があります。その中で斎藤氏の得票数が金沢氏を上回っているのは丹波市だけです。この点では、丹波市選出の石川県議が斎藤氏を担ぎ出した自民党県議団の反主流派の中心人物だったことが大きな要因と考えられます。逆に、豊岡や丹波篠山の場合は、金沢氏を推した県議会の自民党主流派の重鎮がいます。こうして見る限り、地域ボスが地元の有権者を集約する従来の農村型選挙の構造は生き残っているとも言えます。

 ただ、全体的な趨勢でいえば、これまで自民党は地域の様々な中間団体(自治会、農家団体、老人会など)を握り、それらと行政の橋渡しをすることで支持を固めてきたわけですが、そうした中間団体の集約力が急速に弱まっているのは間違いありません。実際、都市部ではほとんど機能が失われました。その結果、バラバラになった個人を統合する形で出てきたのが、大阪では維新、東京では都民ファーストということでしょう。農村部では未だにそうした中間団体が機能している面がありますが、その集約力は高齢化や過疎化とともに加速度的に薄まっていくはずです。選挙構造の面で農村と都市の違いがなくなっていく可能性は高いでしょうね。

 
【松本】いわゆる「個人化・アトム化」ですよね。その点で言うと、維新的なもの、たとえば新自由主義的な価値観とか自己責任論とか、公共の領域を企業の論理で切り崩していくような考え方、それは世の中の大半がサラリーマンになった状況では支持されやすいと思います。会社の論理と同じですよね。無駄を省け、儲けを出せ、と。役人はコスト意識もないし、儲けも出さないのに安定した給料をもらっている「既得権益」だと。都市化したホワイトカラーに受ける面があるのは間違いない。

 それが、たとえば阪神間などで維新の人気が高い理由の一つかなと思います。先日の尼崎市議選もそうだし、宝塚の市長選は維新が負けたとはいえかなり肉薄していましたね。川西市はどうなんですか。
 ■谷正充さん(兵庫県川西市議会議員)

 
【谷】今回の知事選では斎藤候補の得票が圧倒していました。ただ、市議選でみれば、それほど維新が強いわけではないです。3年前の選挙では、維新から現職2人、新人2人の計4人が立候補して、当選したのは現職1人、新人1人。全体としては現状維持でした。尼崎の場合は11人出て10人当選、しかも上位当選だったし、宝塚でも市議選では上位につけていますけど、川西はそんな状態ではないですね。

 
【津田】企業の論理、会社の論理で政治を考えたとき、もう一つ「トップダウン」の政治手法があると思います。いまの時代の傾向として、官僚から情報を吸い上げ、政治家が決断し、トップダウンで貫徹する、そういう政治でないとダメなんだという印象が強まっています。菅政権なんか、その最たるものですが、それが地方政治にも色濃く浸透しているようです。それは僕らが考える地方自治のイメージとは真逆ですが、選挙ではそちらの方が支持されるのも事実です。

 
【松本】自治体にしても政党にしても、あらゆる組織を株式会社のように考える人は増えていますね。経営トップの命令は上意下達で実行しないといけない。議論などは効率的ではない。実際、維新の場合は松井さんが言えばそのとおりに動くわけですが、そのほうがいいと思っている有権者も相当数いるはずです。

 選挙で選ばれたんだから白紙委任でいい。それなのに野党は反対ばかりしている、と。本来は反対するのが野党の役割なんですが……。

 
【津田】菅政権もまさに上意下達で、国政も上司と部下の関係で運営しています。自民党を擁護するつもりはありませんが、かつての自民党はもっと幅があったし懐も深かった。末端の生活領域で仕事をしている農民や商売人の声を集めて政治に反映させる機能を持っていたからこそ、長期にわたって政権を担うことができた。

 でも、現状そうした機能は相当程度崩れてしまった。これからもっと崩れていくはずですが、そうなったときに、その受け皿はどこにあるのか。いまのところ大阪では維新ですが、さらに関西全域にも波及しかねません。残念ながら、対抗する側は、それに対してなかなか次を打ち出せていないのが実情です。


具体的な生活の現場に立脚する

 
【北上】トップダウンを好んだり、効率的でない議論をすっ飛ばす、そういう面は間違いなくあると思いますが、一方で別の面も見えてきます。例えば、猪名川町長選では道の駅の移転をめぐる問題が一つの争点になりました。住民の間から“移転するかどうかは住民投票で決めよう”と直接請求が出され、それを議会が否決するわけですよね。

 それに対して、説明責任が果たされていないとか、土地売買の経緯も不透明だとか、そうした問題に対して、もっと情報公開をすべきだとか、住民自治を大事すべきだと訴えたのが、当選した岡本さんでした。つまり、民主的な手続きや議会での議論を軽視したらアカンという主張が支持されたと思うんですよ。投票率も、知事選は40%台でしたが、町長選は50%を越えました。

 あと、私は宝塚で中川智子さんの市長選挙に3回とも関わりましたが、その際に中川さんは、改革は必要だけれど、首長がトップダウンでやるものではなく、情報公開の上で住民と一緒にやっていくべきだ、と訴えていました。3選できたのは、それが有権者に響いた結果だと思います。

 だから、言われたように日本社会全体が株式会社化しているのも事実ですが、一方でそれへの抵抗感というか、もっと住民に開かれた行政運営、住民自治が必要だ、主権者は自分たちなんだ、といった意識も強く感じるんですよね。

 ――基礎自治体だと、ある政策が住民の生活に具体的にかかわってくる部分が大きいので、人々の関心も高まるんでしょうね。そこに立脚できれば、それを核として広げていくこともできると思います。それに比べると、県政はなかなか生活との接点が見えません。

 ただ、基礎自治体もとくに争点がなければ「政治=行政」になってしまって、その仕組みがうまく回っている限り、人々が関心を持つ必然性もなくなってしまいがちです。

 
【北上】振り返ってみると、滋賀県で嘉田(由紀子)さんが知事になった際も新幹線の新駅建設が争点になりました。川西市でも、かつて4期16年務めた市長が5期目を目指した選挙で負けましたが、直前に保育所の民営化方針が判明し、全公立保育所の保護者会が反対して、一大争点になりました。

 その後、自民党系の市長が3期を務め、後継者にバトンタッチする選挙の直前に市立川西病院の移転民営化問題が浮上したんです。直前まで、地域住民にも病院職員にも直営で現在の場所に建て直すと言っていたのに、コロッと態度を変えた。それで大問題になって、議会は多数与党で乗り切ったものの、市長選挙では後継者が負け、現市長が当選する結果になりました。だから、やはり具体的な争点があれば勝負になるという気はしますね。

 
【松本】そうした状況の中で情報公開を求め、市民の利益の側に立つ人が出てくれば、ということですよね。その意味で言えば、今回は具体的な争点はありませんでした。

 
【北上】そう、新型コロナの問題でも、どの陣営も“コロナ対応が大事だ”とは言うけれども、各々がどんな対策をするつもりか、その点での論戦はなかったですね。結局、「継承か刷新か」「維新か反維新か」ということになってしまった。

 
【谷】首長選挙の場合は満遍なく有権者の支持を集めないといけないので、割と「継承か刷新か」みたいな構図になりがちな気がします。ただ、ここ何年か、社会を覆う閉塞感のせいなのか、有権者の中には何か変えてほしいという欲求が高まっていて、改革や刷新を掲げる声が通りやすくなっているようには思いますね。

 
【松本】人々が改革とか刷新にポジティブな意味を強く感じているのは確かです。それに関連して、『イデオロギーと日本政治:世代で異なる「保守」と「革新」』(遠藤晶久/ウィリー・ジョウ、新泉社、2019年)によると、この間、一番保守的だと思われている政党が共産党と公明党、一番革新的だと思われているのが維新、次が自民党だというんですね。若い世代ほどそうした傾向が強いそうです。維新はともかく、自民党の場合は改憲を掲げたり、安倍政権で新たな安保法制をつくったりした影響でしょうね。逆に、そうした改革に反対する共産党は“保守的だから支持しない”と。つまり概念の転倒が起きているわけです。

 
【北上】私も政治の改革は願っていますが、しかし、それはトップダウンではなく、住民と一緒にオープンに語り合ってつくっていくべきだと思います。この考え方が間違いだとは思いません。なぜ伸びないかと言えば、それを徹底的にできていないからです。もっともっと地域の中に入って、住民と語り合い、一緒に考える、そういう努力が足りないからだと思います。受けないからトップダウンに方針を変えるなんてことではないはずです。

 
【津田】あれは政治の劣化でしょう。政治は本来、意見の違う人たちの間で意見を闘わせた上で共存していけるような関係をつくっていくことが原点だと思うし、そうだとすれば、いま若い人にトップダウンの政治が支持されているとしても、あるべき姿ではないし、やはり劣化と言わざるを得ません。劣化している政治の現状に対して維新のように対応するのではなく、北上さんが言うように、生活領域でバラバラになってしまった人間同士の関係を再度どこまで積み重ねていけるか、そこにかかっていると思います。

 
【松本】兵庫県政に話を戻すと、新しい知事が公共領域の切り捨てではなく再構築を志向する人であってほしいと思います。実は、斎藤さんが選挙に出る以前に雑談を交わした際、私の方から “「新しい公共」の概念や運動を支えるような政党なり政治家がリベラルの側から現れてほしいですね”といった話をしたことがあります。その時、斎藤さんは賛同するような反応を示していました。もちろん、話の流れで一般的に相槌を打ったのかもしれませんが、少なくとも異を唱えたり、引っ掛かりを匂わせるような反応ではなかったですね。だから、先ほど出た新県政推進室がどんな県政の方針を出してくるのか、注目したいと思っています。

 
【北上】維新が言うように、県と市町との「二重行政の無駄」も実際にあると思うし、大型公共事業の見直しも必要な面があると思います。効率化そのものが悪いわけではありません。やるべきだと思います。でも、一見無駄に見えるけど実は住民にとって必要なものもありますよね。福祉や医療もそうだし、人権とか文化、環境とか防災もそうでしょうけど、数字では測り難い、なくなって初めて重要性が分かるものですよね。そこは、きちんと議論して腑分けしないと。

 
【松本】斎藤さんは公約で「財政調整基金(注)を100億にする」と掲げていましたが、どうやって捻出するのか、補助金や事業を切っていくのか。たとえば公園の管理を民営・民間委託するとか、ですね。実際、大阪では、それで成功したということで、さらに進めるつもりだそうです。兵庫でも、それに近いことをやるのかどうか。

 ただ、関係者の話では、それほど極端な方針とか、周囲の反発を引き起こすような政策はやらない、というより、できないんじゃないか、と言われています。とりあえず、1年目は予算の上限枠を設けて、全般的に抑え目の緊縮予算を組むんじゃないか、という話もあります。

 
【谷】一番手を付けやすいのは補助金のカットですけどね。早いし、一般受けしやすいし。

 
【松本】実際、大阪の改革PTは文楽とかオーケストラといった文化関連、地域振興会(町内会・自治会)の補助金から切っていきましたね。確かに、関係ない人から見れば既得権益に見えるかもしれない。ただ、反発も招きやすいですが。

 
【北上】県庁職員の話では、いま各部の幹部が事業について知事に説明している段階ですが、それに対して、とくに何か指示するわけでもなく真剣に聞いてくれるとのことで、いささか拍子抜けしているそうです。

 
【松本】新型コロナの対策会議も、最初はフルオープンでやると言っていたのに、フタを開けてみると「やっぱり非公開にします」となりましたね。ありがちですが、内部から「闊達な議論ができない」とか言われ、「自分の意見を強引に押し通すべきではないと思った」と釈明していました。それを、聞く耳を持っていると見るのか、ブレていると見るのか。少なくとも、トップダウンで持論を通すタイプではないように見えます。維新にすれば、「そこは譲るな」と言いたいところかもしれません。いずれにせよ、最初から決めつけて反対のスタンスをとったりせず、事実と主張を踏まえて、是々非々で判断するしないと思っています。

 
【北上】私も先入観を持たず、一つ一つ具体的に対応していきたいと思います。

 ――今日の政治を考える上で有意義な論点をいくつも提起していただいたと思います。皆さん、本日はどうもありがとうござました。

                               (2021年8月25日、於:大阪府茨木市)

 (注)地方自治体で年度間の財源の不均衡を調整するための積立金。財源に余裕がある年度に積み立てておき、災害など止むを得ない理由で財源不足が生じた年度に活用する



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