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市民環境研究所から

いくつもの再会の一日


 3週間も早く梅雨入り宣言が出された今年の梅雨は5月16日から始まり、史上最長の62日間となって、7月17日に明けた。この地の住民としては「やっと終わったのか」とホッとしたと同時に、なぜこんなに長い梅雨になったのか、教えてもらいたいと思っている。

 『京都新聞』には京都気象台の解説として「太平洋高気圧が例年より早く張り出し、梅雨前線が長くて停滞したとみられる」とある。花の異常開花なども特別なことではなく、我が家の庭木でも見られ、全国的現象なのであろう。地球環境の温暖化は逃れられない事態になっていると思わねばならないということである。何をなすべきかを現代を生きる一人として考えなければ。

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 そんな思いの中で、温暖化阻止と結びつくかどうかは知らないが、北陸新幹線の京都への延伸阻止運動に割く時間が多くなってきた。昨日は京都駅前のビルにある大学コンソーシアムで仲間が主催する講演会に参加するために地下鉄で出向いた。地下鉄の東西線から南北の烏丸線へと御池駅で乗り換え、自宅に居れば昼寝の時間帯であるから、イスに座るなり目を閉じたが、発車する頃に隣の席に旅行ケースを持った男性が乗ってきた。

 別段、睡眠を邪魔されたわけでもないが、その男性の横顔を見ると、なんと京都から沖縄に移住し、辺野古の反基地闘争で活躍している古くからの市民運動の仲間で、昨日は京都市内で講演した北上田さんだった。数年ぶりの出会いであったが、次の四条駅で下車して阪急電車で大阪に行き、今日も講演するという。2分ほどの出会いであったが、楽しんで別れた。この150万人都市でもこんな出会いがあるものだと、市民運動の仲間に話して楽しんだ。

 会場に向かう京都駅界隈は6月頃よりも人出が増えていた。昨日の京都府でのコロナ新規感染者は50人を超えて増加傾向に入っている。

 北陸新幹線問題の集まりは、知人の女性や美山町在住者が主催してくれた集まりで、コロナ対策で講演会の会場定員は50人、オンラインの定員は100人と決めての開催であった。聴衆者の座席間隔も十分に取り、余裕のあるものだった。テーマは「SDGsなのに新幹線開発なの?!~持続可能な社会における開発を問う~」であり、美山町の田歌地区長で神戸大学農学部准教授の長野さんや北陸新幹線京都延伸を考える市民の会メンバーで相談をしながら準備してきた。

 オンラインとは便利なもので東京・調布の外環陥没問題に取り組む「外環ネット」の籠谷さん、神奈川・相模原のリニア建設現場からは「リニア新幹線を考える相模原連絡会」の桜井さん、そして土壌汚染公害問題の専門家である熊本学園大学教授の中地さんが参加してくださり、本題の問題点を現場で感じ、動いている人たちからの充実した話題提供が続いた。調布市や相模原市では深刻な被害を受けての報告で、こんな関東での経験を聞き、自分たちがどのような問題点に重点を置きながら、この無謀な計画に対決するかを整理する、いいチャンスを与えてもらった。

 筆者にとっても問題点整理のチャンスであったが、それ以上にと言うか、それ以外にと言うか、基調講演をしてくれた美山地区で反対運動を始め、京都市内の運動を呼び出してくれた長野さんは京大農学部の学生時代から芦生の原生林を守る運動を始めた芦生ゼミのメンバーであり、筆者の研究室に出入りしていた一人である。また、熊本学園大学からオンライン参加してくれた中地さんも京大工学部の学生時代から筆者の研究室に出入りしてくれており、市民運動が大阪に設立した環境監視研究所の専任研究者として故中南さんの後任になった人である。

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 年齢は離れており、専門も所属組織も異なる学生たちがたむろしていたのが、「石田部屋」と通称されていた我が研究室である。何十年後に一つの問題を一緒にやれるとは、大学に長年いた冥利である。

 筆者にとって、20世紀後半の時代を思い出させてくれ、彼らとの出会いが実現できた梅雨明け時の集会であり、これから始まる猛暑の夏を乗り越えるエネルギーをもらった、いくつもの再会の一日だった。

                         (石田紀郎:市民環境研究所)



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