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アソシ研リレーエッセイ
一番やりたいことは最後に


 友人に "断捨離をすると気分も軽くなるよ" と言われ、2年前から断捨離を始めてみた。終活をするにはまだまだ早いが、根が貧乏性で本当に貧乏なので、身の回りは昔の物であふれかえっています。とりあえず押し入れの中身を全部出してみると、奥から出てきた段ボール箱には新農研から㈱ひこばえ宛の送り状が貼ってあり、住所は摂津市鳥飼になっていた。うん、やっぱり年代物やね。

 中身を確認していると、持てないくらいの重さの箱がありました。「あ~!あの時の無くしたと思っていた1億円がこんなところにあったんか」と一人芝居をしながら開けてみると、小学校の時から買っていた文庫本がびっしりと詰まっていました。

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 中身は哲学や思想の本ばっかりでした。と言えることができればカッコいいのですが、そんなことはあるはずもない。私が好きだった、というより生きるバイブルのように思っていた畑正憲さんと沢木耕太郎さんの文庫本やら新聞の切り抜きでした。

 畑正憲さんの本は、小学性のころに古本屋に通い30 円とか 50 円とかで買ってきたものばかりです。「ムツゴロウ」の愛称で動物と接するときは、やる ことが常識外れだが、茶目っ気たっぷり。しかも現役で東大理学部に合格し、プロ雀士の資格を持つほどのすごい人。なんにでも興味を持ち挑戦する意欲の持ち主である。普通の人が憧れないはずがない。この人のようにいくつもの人生をやってみたいと憧れますね。

 もう一つ出てきたのは、沢木耕太郎さんの『深夜特急』でした。当時は新聞の連載記事を読んでいたのですが、途中で終わってしまった記憶があります。後に大人になってから全3巻を買いなおしたのですが、実は旅の終わりが描かれている3巻目を最後まで読んでいません。理由は明白、旅の終わりを知るほどつまらないものはないと思っているからです。

 文章中に「旅がもし人生に似ているものなら、旅には旅の生涯というものがあるのかもしれない。人の一生に幼年期があり、少年期があり、青年期があり、壮年期があり、老年期があるように、長い旅にもそれに似た移り変わりがあるのかもしれない。私の旅はたぶん青年期を終えつつあるのだ。何を経験しても新鮮で、どんな些細なことでも心を震わせていた時期はすでに終わっていたのだ」とあります。

 その一文を読んだときにそれ以上読むのをやめま した。たしかに "最後はどうなったんだろう" って気になりますよ。気になるけど読み切っていないからいまだに楽しめます。

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 一度きりの人生、誰もが色々なことをやってみたいと願っています。だけど現実は家族や大切な人に縛られ、社会に縛られ、経済的理由に縛られて、そうはいきません。せいぜい一つ二つのことができる程度ですね。

 おバカの利点はすぐ忘れることができること。嫌なことも辛いこともすぐ忘れるからまた挑戦できる。楽しいことも忘れるから、もう一回新鮮な気持ちで楽しめる。

 人生のとっておきは最後まで取っておく。一番行きたい場所には行かない。一番やりたいことは最後までやりきらない。そうすることで、些細なことで心を震わせていた青年期が続くように思います。これは人生を最後まで楽しむうえで重要なことだと信じています。

                 (野口博文:㈱よつ葉ホームデリバリー東大阪)




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