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連載 ネパール・タライ平原の村から(112)

生き物としての害獣との向き合い方

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その112回目。


 先日、地元ナワルプル郡の山腹の農家さんにこの辺の獣害の話を聞いていたら、家の裏手の段々畑には、「毎年トウモロコシの収穫期に ヤマアラシの“カラカラ”“カラカラ”と、背中から尻尾にかけての鋭い針毛(トゲ)をすり合わせる音が聞こえてくる」と言われました。「ヤマアラシが幹をなぎ倒すから捕まえる」とのことです。

 初めて聞く話に感心して、どうやって捕まえるのかとか、聞くのを忘れてしまったのですが、ヤマアラシが「季節の肉」という感じです。猟で猪を仕留めた時は、近所のみんなで分け合ったとか。猿、野鶏、フクロウ、キジの一種のミヤマハッカンも捕まえた(食べた)と、野生動物の名前が次々と出てきました。ここは、人間だけの世界じゃないんだなぁ。

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 ティルさん(妻のことです)が山に住んでいた頃。父は堆肥を担ぐ負担を軽くするため、段々畑に牛をつなぎ、簡素な仮住まいで一緒に寝泊まりしていました。そして「寝泊まりしながら焚火の両側に牛を数頭分けてつないでいた」と語っていたとのことです。

 「特に両端には耕作用の勇ましい牡牛をつながなければいけないと決まっている。なぜなら虎が出た時に牛が次々と恐れてざわつく中、牡牛は荒い鼻音で怒り、つないである首ヒモまで引きちぎり果敢に挑もうとするから」などなど。

 一方、母は段々畑でトウモロコシの結実期になると、「朝から晩まで猿に喰われないよう声を張上げては何日も見張りを続けた」そうです。

 「サルは実をもぎ、少しだけかじっては、次の実をかじる。人を恐れないので木の棒で銃を撃つフリをして追い払ったりもした。追い払ったと思ったら、上の方の畑へ、また追い払うと次は下の畑へ」と。

 2年前、野生動物保護区の管理委員の方に話をうかがっていると、周辺の年配者らが集まってきて、いつのまにかジャングルのサイに関する被害や習性、体験談の話となりました。

 「近辺でサイによる食害が続いていた」。

 「それでサイの好物である蕎麦の花が咲く季節に畑を守るため、粗末な櫓の上に夫婦でかわるがわる見張りにあたった」。

 「ところが深夜になってもサイは現れず、いつのまにか2人居眠ってしまった」。

 「突然に荒い鼻息が聞こえて目が覚めた時には、蕎麦畑はサイに食い尽くされ、櫓の真下までサイが迫っていた」。

 「叫んで近隣に知らせ、みんなで追い払うつもりだったのが、恐ろしくて声が出せなかった」。

 追い払うため「タイマツに火を灯そうとマッチを何度も擦っているのだけれども、慌てているから火がつけられず、ようやく火を灯すと、サイは炎を恐れて逃げ去った」。

■畑の見張り櫓、奥にジャングル(自然保護区域)
 それを聞いて、僕は古い日本語を一つ思い浮かべました、「寝ずの番」だったんだと。

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 ここでは、防獣ネットで圃場を全て囲って電流を流すとかではなくて、どこかゆっくりと構え過ぎのような、どこか惚けたような、獣害対策が生き生きと語られています。それらは、非経済的なるモノに囲まれた時間の流れの中での語りでもあるのです
              (藤井牧人)



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