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コラム 南から北から
土地でつながる共同体


 年明けから3月上旬まで厳しい寒さがめっぽう続きました。例年だと前年末に漬け込んだ赤カブ漬けや大根こうじ漬けの樽底に残ったものは、2月に入ると色落ちしたり、カビが生えたりしてしまうのに、今年はずっと美味しく食べられて、しらたかノラの会の注文販売のお客さんたちへのオマケとなって送られていきました。

 2月の主な加工作業は餅とりんごコンポート。餅の原材料となる餅米は会員や置賜地域の契約生産者から。コンポートの原材料の低農薬ふじは南陽市の片平農園から。コンポートに使う砂糖は、以前から「洗双糖」(最小限の精製に留めミネラルを残した砂糖)を使っています。今年はじめて気付いたのですが、30kg入りの洗双糖の袋に「種子島産」の文字が。古市さんたちの種子島のさとうきび製品ではありませんか! 前回のこのコラムにも書かれていた古市さんたちの収穫の様子が思い浮かびます。

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 ノラの加工品のほとんどは会員や契約生産者の栽培した米・野菜・豆・果実が原材料となっていますが、さまざまな生産者の生産物も活用しています。熊本県水俣の「きばる」の甘夏で作る甘夏マーマレードは注文販売の人気製品。今年の甘夏はひときわ美味しく、マーマレードの出来も上々でした。この甘夏は、水俣病を発生させた水銀汚染で漁のできなくなった漁師さんたちが、陸に上がって暮らしの活路を見出した甘夏栽培の、長い長い苦闘の結晶です。

 ノラの夏場の主力製品であるバジルペーストは、私たちが無農薬で栽培するバジルに、パレスチナ産のオリーブオイルとフランス産のゲランドの塩を攪拌して作っています。イスラエル政府の作った分離壁にオリーブ畑を分断されながら栽培に励む農民たちは日々何を思って暮らしているのでしょう? 工業塩の大量生産やリゾート開発で一時は途絶えそうになった塩田での塩づくりを、塩職人と1968年5月革命を経験した学生たちが復活させたというゲランドの塩を、今はどんな人たちが作っているのでしょう? 届いた製品の向こう側にいる、そのほとんどが小規模の生産者や生産者集団であるひとびとの辿ってきた道と今の暮らしを想像することで、励みや連帯感を感じています。

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 先日、オンラインでの小農・家族農業セミナーというプログラムに参加したとき、「地域」という言葉が話題になりました。「地縁」とか「地産地消」という時の「地」は文字通り土地でつながる共同体としての「地域」を意味していますが、この言葉は都会の若者たちにはなかなか通じなくなったとか。地方であっても、ここを農村だと思う人はほとんどいないこの白鷹町でも「地縁」の共同体はほとんど意識されなくなっています。

                              ■ノラで使っている洗双糖
 暮らしの中で助け合う関係性を表す言葉として「地域」を使うとすれば、今の私にとっては、仕事仲間であり相談相手でもあるノラの仲間たちと「地域」を作っているんだし、もっと広く、ノラ製品の原材料を作ってくれている近くの、そして遠くの生産者たちとも「地域」を作っていると言えないだろうか? そのつながりの面白さや魅力が伝われば、若い世代も仲間に加わってくれるのではと思っています。

     (疋田美津子:山形県白鷹町在住)



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