HOME過去号>194号  


コラム 南から北から
受け継いでいきたい暮らしの景色


 今年は、いつもと違う静かな正月となりました。親戚の集まりも、集落の集まりもなく、正月行事もありませんでした。

 種子島には「福祭文(くさいもん)」という正月行事があります。毎年1月7日の午後6時から行われ、地域の青壮年及び子ども会で構成されたメンバーが正月の神に代わって各家を訪れ、門口から福祭文を合唱して、その家の幸福と繁栄を祈って祝います。その間、家主は玄関・廊下などで正座して静かに聞き、合唱が終わるとお菓子や焼酎を振る舞います。この福祭文の歌(読み上げ)は、独特で微妙な節回しが必要で難しく、事前に公民館に集まり練習します。

 子どもの頃は、冬の寒い夜になぜこんな事をしなければならないのかと思いましたが、大人になって聞くと「新しい年がやってきたな」と気持ちが引き締まりました。そして、この伝統を受け継いできた人たちをとても誇らしく思いました。時代の変化に伴い、生活様式も変化を求められていますが、大切に受け継がれてきたものがなくなってしまうのは淋しいです。

                     ◆      ◆      ◆

 もう一つ、私が大切にしたい、好きな景色は種子島名物「ハカマ焼き」です。「ハカマ」とは、サトウキビ(以下、オーギ)の枯葉のことで、オーギの収穫後に畑一面に残ります。それをその場で焼くのが「ハカマ焼き」です。昔からの農法で、一緒に害虫や雑草の種も焼くことができる大事な作業です。風の止んだ夕方には至る所から煙が上がり、畑一面真っ赤に燃える景色は圧巻です。

 初めて見る人はびっくりして消防に通報してしまうほどで、焼く前に消防署へ連絡しなければなりません。ハカマ焼きには経験が必要で、油断すると火事になり、実際種子島はその他火災数が全国一位です。そのような背景もあり、赴任したばかりの警察官が危険だから止めるよう母に言い、しばらく揉めていましたが、これまでの伝統的な農法で十分注意して行うということで納得してもらったそうです。

 オーギの収穫は12月から始まり4月頃まで続きます。収穫方法は大きく分けて2種類あります。昔ながらの「手刈り」と最近主流になってきたハーベスタによる「機械刈り」です。手刈りでは、収穫する時に専用の鎌でハカマを剥き、葉を切り落として、根本から切り倒して束にしていきます。各農家に出荷割り当てがあり、出荷日と出荷量が決まっています。私たちは1週間~10日に1回3トンを出荷するため、1束約300kgの束を10束作ります。

 収穫作業は時間も労力もかかるため、手刈りから機械刈りに変えたり、栽培自体をやめてしまう方もいます。ハーベスタは大きな機械で、技術や補助する人手が必要になるため、農業公社などに依頼する形がほとんどです。すると、作業代がかかり、大きな機械が入ることで土が固くなったり、株を痛めて次の芽出しが悪くなったりします。それでも生産者の高齢化や減少に伴い、機械化が推奨されています。とはいえ、実際はかろうじて作付面積を維持しても生産者数は減る一方。製糖工場の経営も厳しくなってきました。最近は、価格のいいブロッコリーを作る人が増え、その分オーギの面積が減っています。作業負担軽減も必要ですが、今では作れば作るほど赤字になると言われる価格の見直し、良質のものを区別化することで、作り手の意欲向上を目指すことも必要だと思います。

■ハカマ焼の情景
 伝統と革新、理想と現実、農業で生きていくって楽しいばかりではないなと思いながら、収穫の合間に母とオーギをかじっています。

                                  (古市木の実:鹿児島県種子島在住)



©2002-2021 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.